10:00 〜 12:00
[PG24] 協働省察の導入と児童の逸脱行動の減少との共起現象
キーワード:協働省察, 学習支援, アクション・リサーチ
問題と目的
筆者らは,学習支援に関心がある学生(以下,支援学生)とともに,「自律的な学習者」を育成することを目指して,A児童クラブの児童を対象にした学習支援活動に取り組んでいる。本研究は,この活動に協働省察を導入することによって,支援学生の間で指導方針が具体的に共有され,その共有と同時に児童の逸脱行動が起こりにくくなるという現象が見られたことを報告する。
方 法
データ 調査時期は2016年7月〜2017年2月で,研究参加者は支援学生11名。参加児童数は,1日平均11.02名(参加児童全体は51名)。分析資料は支援後に毎回,支援学生が回答する報告フォームと行動観察チェックリスト(以下行動観察CL),第一筆者のフィールドノーツ,協働省察の議事録。
行動観察CL 支援学生が活動中の児童の行動について話し合い,児童の行動の観察指標として作成した。8観点(「他児童への妨害・暴力」,「支援者への逸脱行動」等)46項目から構成される。
協働省察の設定 支援学生と指導教員で活動の課題や提案を共有する機会として設定された。1回の話し合いの時間が1時間半で,定期的に行われる。議題は支援学生が設定する。
結果と考察
児童の逸脱行動 7,8月の児童は,「私語が多」い,「椅子や棚の上に立ち上がる」,「寝転んで学習する」等の軽微な逸脱行動が見られた。支援学生は,逸脱行動がある児童に,「やめなさい」「静かにしなさい」と声をかけたが,「注意しても直ら」ず,「児童に注意できない」「どこまで注意したらいいのかわからない」と報告している。
注意する基準の曖昧さ 私達は,次第に注意の基準(「私語をどこまで許容するか」等)の曖昧さを課題とし,指導方針を共有する必要性を感じた。9月6日の省察でも「注意すると判断する際の原則」について話し合い,「他人の勉強の邪魔にならない行動は許容する」ことを原則とした。しかし,11月にも支援学生から「注意する場面と容認する場面を共有した方がいい。(略)許されること注意されることがまちまち」と指摘されていた。
協働省察による基準の設定 11月24日の省察では,学習を妨害する児童に対して「問題解決の方法は児童に提案を求め,判断を任す」と決定した。実際の活動では「机で学習するのが原則」と考える支援学生が「寝そべって学習する児童」から「机じゃないほうが集中できる」と言われ,判断が困難だったと報告された。そこで,12月4日の省察では,児童の逸脱行動の定義と活動への影響を議題とし,活動を「家庭学習の延長」と定めた上で,児童の行動を注意する基準を3つ(「危険な行為」「学習が止まる行為」「他児童の迷惑になる行為」)とそれらに対応する具体的な対処方法を設定した。「危険な行為」は,支援学生が児童の行為が危険だと児童に伝え,危険な行為をやめるよう指示する。「学習が止まる行為」と「他児童の迷惑になる行為」は,支援学生が児童に行為の選択理由を尋ね,支援学生がその行為による結果を伝えた上で,その後の行為は児童が選択する,とした。児童の逸脱行動が改善されない場合は,提案する形で児童の次の行動を促すこととした。
対応の変化と逸脱行動の減少 注意の基準と対処方法を設定した結果,支援学生の「注意をするときの戸惑いが軽減された」。この感覚が行動観察の結果からも支持されるか検討するため,Fig. 1を作成した。その結果,注意の基準を設定して以降,「児童の他者への身体的な逸脱」も「非従順な逸脱」も減少傾向にあることが分かった。「ものの取り扱いに関する逸脱」は,注意の基準を設定して以降は1回のみしか見られなかった。
本報告は,1回限りの観察に基づく点で限界がある。エンゲストロームの第3世代活動理論に位置づけると,主体と共同体を媒介するルールを変化させることが,成員の認識する活動対象を明確化することに繋がったと解釈することもできる。
謝辞 支援学生の皆様に深く感謝致します。本研究は平成28-31年度科研費・基盤C(16K04303,代表:富田)の支援を受けて実施された。
筆者らは,学習支援に関心がある学生(以下,支援学生)とともに,「自律的な学習者」を育成することを目指して,A児童クラブの児童を対象にした学習支援活動に取り組んでいる。本研究は,この活動に協働省察を導入することによって,支援学生の間で指導方針が具体的に共有され,その共有と同時に児童の逸脱行動が起こりにくくなるという現象が見られたことを報告する。
方 法
データ 調査時期は2016年7月〜2017年2月で,研究参加者は支援学生11名。参加児童数は,1日平均11.02名(参加児童全体は51名)。分析資料は支援後に毎回,支援学生が回答する報告フォームと行動観察チェックリスト(以下行動観察CL),第一筆者のフィールドノーツ,協働省察の議事録。
行動観察CL 支援学生が活動中の児童の行動について話し合い,児童の行動の観察指標として作成した。8観点(「他児童への妨害・暴力」,「支援者への逸脱行動」等)46項目から構成される。
協働省察の設定 支援学生と指導教員で活動の課題や提案を共有する機会として設定された。1回の話し合いの時間が1時間半で,定期的に行われる。議題は支援学生が設定する。
結果と考察
児童の逸脱行動 7,8月の児童は,「私語が多」い,「椅子や棚の上に立ち上がる」,「寝転んで学習する」等の軽微な逸脱行動が見られた。支援学生は,逸脱行動がある児童に,「やめなさい」「静かにしなさい」と声をかけたが,「注意しても直ら」ず,「児童に注意できない」「どこまで注意したらいいのかわからない」と報告している。
注意する基準の曖昧さ 私達は,次第に注意の基準(「私語をどこまで許容するか」等)の曖昧さを課題とし,指導方針を共有する必要性を感じた。9月6日の省察でも「注意すると判断する際の原則」について話し合い,「他人の勉強の邪魔にならない行動は許容する」ことを原則とした。しかし,11月にも支援学生から「注意する場面と容認する場面を共有した方がいい。(略)許されること注意されることがまちまち」と指摘されていた。
協働省察による基準の設定 11月24日の省察では,学習を妨害する児童に対して「問題解決の方法は児童に提案を求め,判断を任す」と決定した。実際の活動では「机で学習するのが原則」と考える支援学生が「寝そべって学習する児童」から「机じゃないほうが集中できる」と言われ,判断が困難だったと報告された。そこで,12月4日の省察では,児童の逸脱行動の定義と活動への影響を議題とし,活動を「家庭学習の延長」と定めた上で,児童の行動を注意する基準を3つ(「危険な行為」「学習が止まる行為」「他児童の迷惑になる行為」)とそれらに対応する具体的な対処方法を設定した。「危険な行為」は,支援学生が児童の行為が危険だと児童に伝え,危険な行為をやめるよう指示する。「学習が止まる行為」と「他児童の迷惑になる行為」は,支援学生が児童に行為の選択理由を尋ね,支援学生がその行為による結果を伝えた上で,その後の行為は児童が選択する,とした。児童の逸脱行動が改善されない場合は,提案する形で児童の次の行動を促すこととした。
対応の変化と逸脱行動の減少 注意の基準と対処方法を設定した結果,支援学生の「注意をするときの戸惑いが軽減された」。この感覚が行動観察の結果からも支持されるか検討するため,Fig. 1を作成した。その結果,注意の基準を設定して以降,「児童の他者への身体的な逸脱」も「非従順な逸脱」も減少傾向にあることが分かった。「ものの取り扱いに関する逸脱」は,注意の基準を設定して以降は1回のみしか見られなかった。
本報告は,1回限りの観察に基づく点で限界がある。エンゲストロームの第3世代活動理論に位置づけると,主体と共同体を媒介するルールを変化させることが,成員の認識する活動対象を明確化することに繋がったと解釈することもできる。
謝辞 支援学生の皆様に深く感謝致します。本研究は平成28-31年度科研費・基盤C(16K04303,代表:富田)の支援を受けて実施された。