10:00 〜 12:00
[PG30] 学習者は適切な図表を自発的に産出して数学的問題解決できるか
学習方略への認知負荷理論の応用
キーワード:学習方略, 認知負荷理論, 自発的図表活用
問題と目的
問題 数学問題解決には図表の活用が有効である(Diezmann, 2002; Larkin & Simon, 1987) 。しかし,教師が図表を使って指導をしても生徒は自発的に図表を活用せず,図表を作成する支援をしても学習効果に必ずしもつながらないとされている(Uesaka et al, 2007, 2010, 2012)。したがって,教授介入しても自発的な図表活用が習得されないことは問題である。近年,具体的表象(イラストや式)より抽象的図表(表やグラフ)のほうが理解に必要な認知負荷が大きいことが脳波(EEG)実験から実証された(van Leeuwen et al, 2015)。図表を活用できない理由は,認知負荷が学習者の認知資源を上回ってエラーや遂行不能が生じるからだと考えられるため(Sweller, 2010) ,認知負荷に基づいて自発的な図表活用のしくみを明らかにする必要がある。
目的 本研究は数学問題解決場面で学習者が自発的に図表を産出して,問題解決に活用するための教授要件の検証とそのしくみの解明を目的とする。教授要件とした図表知識は,宣言的知識(どのような役割か),条件的知識(どんな図表が有効か),手続き的知識(どのように作成するか)であった(Manalo & Uesaka, 2016)。
方 法
参加者 中学2年生70名(男33)であった。
研究デザイン 教授要因(事前/図表知識〔線分図/表/グラフ〕/事後) × 課題要因(線分図/表/グラフの3種類)の2要因参加者内計画であった。
手続き 実際の教室場面で5日間(計8時間),線分図,表,グラフの図表知識の教授(各1時間)を順次行い,介入後に課題と質問紙による調査を行った。
課題 線分図,表,グラフのうちのどれかの図表知識が問題解決に有効にはたらく課題を3種類用意して1セットで実施し,場面は異なるが解法が等しい同型課題を全5回実施した。
質問紙 認知負荷(課題内在性・学習関連・課題外在性) 12項目,期待価値(課題価値,結果期待,効用期待) 10項目を調査した(いずれも10件法)。
答案分析 図表作成と答案採点はルーブリックに基づいて評定した(0-10点)。
結果と考察
結果 線分図,表,グラフ課題の結果をそれぞれ図1から図3に示す。図表知識の教授介入後,いずれの課題に対しても内在性認知負荷(課題そのものの難しさに伴う認知負荷)が小さくなり,図表産出が高まって,課題得点が向上した(いずれもp <.01)。また,教授した図表知識に対応する課題の図表得点,課題得点は介入直後にすべて有意に高くなり(いずれもp <.01),学習関連認知負荷(知識増進や理解深化に伴う認知負荷)も大きくなった(いずれもp <.01)。そして,その学習関連認知負荷と課題価値,結果期待,効用期待との間にはそれぞれ有意な相関が得られた(r=.50, r=.42, r=.52)。
考察 まず,図表知識(宣言的知識,条件的知識,手続き的知識)が教授要件として満たされれば,自発的に図表を活用して問題解決されることが実証的に示された。次に,条件的知識が適切な図表選択を促し,手続き的知識が図表産出の困難度を下げ,宣言的知識が問題解決を促したと考えられることから,十分な図表知識の教授が学習関連認知負荷の誘導と内在性認知負荷の低減をもたらし,自発的に図表を活用して問題解決しやすくするというしくみが明らかにされた。最後に,学習関連認知負荷は自発的図表活用に対する認知的動機づけを高めることが示唆された。方略使用には有効性の認知が効果的であることが議論されてきたが(村山, 2003),有効性が明確に認知されていなくても,要件を満たした教授がもたらす知識増進,理解深化によって,自発的な方略使用を促進して持続させる効果があることが示された。
問題 数学問題解決には図表の活用が有効である(Diezmann, 2002; Larkin & Simon, 1987) 。しかし,教師が図表を使って指導をしても生徒は自発的に図表を活用せず,図表を作成する支援をしても学習効果に必ずしもつながらないとされている(Uesaka et al, 2007, 2010, 2012)。したがって,教授介入しても自発的な図表活用が習得されないことは問題である。近年,具体的表象(イラストや式)より抽象的図表(表やグラフ)のほうが理解に必要な認知負荷が大きいことが脳波(EEG)実験から実証された(van Leeuwen et al, 2015)。図表を活用できない理由は,認知負荷が学習者の認知資源を上回ってエラーや遂行不能が生じるからだと考えられるため(Sweller, 2010) ,認知負荷に基づいて自発的な図表活用のしくみを明らかにする必要がある。
目的 本研究は数学問題解決場面で学習者が自発的に図表を産出して,問題解決に活用するための教授要件の検証とそのしくみの解明を目的とする。教授要件とした図表知識は,宣言的知識(どのような役割か),条件的知識(どんな図表が有効か),手続き的知識(どのように作成するか)であった(Manalo & Uesaka, 2016)。
方 法
参加者 中学2年生70名(男33)であった。
研究デザイン 教授要因(事前/図表知識〔線分図/表/グラフ〕/事後) × 課題要因(線分図/表/グラフの3種類)の2要因参加者内計画であった。
手続き 実際の教室場面で5日間(計8時間),線分図,表,グラフの図表知識の教授(各1時間)を順次行い,介入後に課題と質問紙による調査を行った。
課題 線分図,表,グラフのうちのどれかの図表知識が問題解決に有効にはたらく課題を3種類用意して1セットで実施し,場面は異なるが解法が等しい同型課題を全5回実施した。
質問紙 認知負荷(課題内在性・学習関連・課題外在性) 12項目,期待価値(課題価値,結果期待,効用期待) 10項目を調査した(いずれも10件法)。
答案分析 図表作成と答案採点はルーブリックに基づいて評定した(0-10点)。
結果と考察
結果 線分図,表,グラフ課題の結果をそれぞれ図1から図3に示す。図表知識の教授介入後,いずれの課題に対しても内在性認知負荷(課題そのものの難しさに伴う認知負荷)が小さくなり,図表産出が高まって,課題得点が向上した(いずれもp <.01)。また,教授した図表知識に対応する課題の図表得点,課題得点は介入直後にすべて有意に高くなり(いずれもp <.01),学習関連認知負荷(知識増進や理解深化に伴う認知負荷)も大きくなった(いずれもp <.01)。そして,その学習関連認知負荷と課題価値,結果期待,効用期待との間にはそれぞれ有意な相関が得られた(r=.50, r=.42, r=.52)。
考察 まず,図表知識(宣言的知識,条件的知識,手続き的知識)が教授要件として満たされれば,自発的に図表を活用して問題解決されることが実証的に示された。次に,条件的知識が適切な図表選択を促し,手続き的知識が図表産出の困難度を下げ,宣言的知識が問題解決を促したと考えられることから,十分な図表知識の教授が学習関連認知負荷の誘導と内在性認知負荷の低減をもたらし,自発的に図表を活用して問題解決しやすくするというしくみが明らかにされた。最後に,学習関連認知負荷は自発的図表活用に対する認知的動機づけを高めることが示唆された。方略使用には有効性の認知が効果的であることが議論されてきたが(村山, 2003),有効性が明確に認知されていなくても,要件を満たした教授がもたらす知識増進,理解深化によって,自発的な方略使用を促進して持続させる効果があることが示された。