日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG31] 成長マインドセットを育む教育プログラムの長期的効果

竹橋洋毅1, 豊沢純子2 (1.関西福祉科学大学, 2.大阪教育大学)

キーワード:動機づけ, 学習方略, マインドセット

目   的
 能力を伸ばす上では簡単なことより困難なことに取り組むことが効果的であり,困難への挑戦心を育むことは重要な教育課題といえる。困難への挑戦心を考える上では,能力についてのマインドセットが鍵となる(Dweck, 2006)。能力を生得的とする固定的マインドセットをもつ生徒は,努力に意義を見出せず,困難時に諦めやすい。一方,能力を可変的とみなす成長マインドセットをもつ生徒は困難を成長機会とし,粘り強く取り組む。実際,Blackwellら(2007)は成長マインドセットの生徒は目標や原因帰属が好ましく,学力が向上しやすいこと,教育プログラムによってマインドセットや学力を改善できることを実証している。
 本邦ではマインドセット研究が少ないものの,竹橋・豊沢(2016)は固定的マインドセットが失敗時の帰属傾向を媒介して学力を低下させること,教育プログラムにより成長マインドセットを促進できることを示唆した。ただし,マインドセット介入を教育現場に実装する上では,さらに検討すべき課題がある。まず,学力を高める上では原因帰属などの動機づけ要因だけでなく,学習方略も重要であり,マインドセットと学習方略の関係についても知見を得ることは重要であろう。また,竹橋・豊沢(2016)の教育プログラムの長期的効果についても未検証である。本研究では,これらについて検証することを目的とした。
研 究 1
目的:マインドセットの個人差が学習方略とどのように関連するかについて検討する。
方法:東京都墨田区の中学校1校を対象として2016年5月に意識調査を行った(N=348)。内容としては,学習方略の使用頻度,マインドセット,勉強の楽しさ,勉強の意義などを測定した。学習方略の項目は吉田・村山(2014)を参考に作成し,因子分析により困難の克服,困難の回避,暗記方略という3因子が得られた。本研究では困難の克服の尺度得点から困難の回避の尺度得点を引いた値を好ましい学習方略の指標とした。
結果と考察:学習方略の好ましさを従属変数,マインドセット,勉強の楽しさ,意義,学年,性別を独立変数とする回帰分析を実施した。その結果,マインドセットの効果(β=-.199, p<.01)が有意で,固定的な生徒ほど学習方略が好ましくなかった。また,勉強の意義の効果(β=.171, p<.01)はみられたが,楽しさの効果はみられなかった(n.s.)。
研究2a
目的:教育プログラムによるマインドセット変容の効果の長期性について検討する。
方法:墨田区の中学校1校を対象として2015年10月に「成長志向を育む授業案」を用いた授業を全クラスで実施した。本研究では当時の1年生に焦点を当て,2015年10月の介入前後,2016年9月の3時点でのマインドセットを測定し(N=121),これらの平均値を比較した。
結果と考察:マインドセット得点(固定度)を従属変数,測定時期を独立変数とする分散分析を実施した。その結果,測定時期の主効果がみられ(F(2, 238)=23.88, p<01 ),マインドセットは介入前のベースライン時点(M=2.96)で最も固定的で,介入によって成長マインドセットに変容し(M=1.90),1年後も介入効果は弱まるが維持された(M=2.43)。
研究2b
目的:成長マインドセットを育む教育プログラムが学習意欲や方略に及ぼす影響について検討する。
方法:分析対象は研究2aと同じで,2年次の5月に意識調査が行われ,失敗時の改善意欲,困難の克服方略が測定された。
結果と考察:もともと(2015年5月,10月介入前)のマインドセットの影響を統制した上で,介入後のマインドセットの影響を検討したところ,失敗時の改善意欲(β=-.262, p<.01)と困難の克服方略(β=-.190, p<.10)への効果が有意で,介入により成長マインドセットになった生徒ほど,失敗時の自己改善意欲が向上し,困難克服を重視した学習方略をとっていた。
総合的考察
 マインドセットの個人差は学習方略や改善意欲と関連し,教育的介入により成長マインドセットを育むことで,学習方略や改善意欲を向上しうる。
引用文献
1)Dweck (2006) Mindset: The new psychology of success. New York. Random House. 2)Blackwell, Trzesniewski, & Dweck (2007) Child Development, 78, 246-263. 3)吉田・村山 (2014) 教心研, 61, 32-43. 4)竹橋・豊沢 (2016) 教心第58 回総会抄録, 780.