10:00 〜 12:00
[PG32] 学習教材の選択場面における動機づけ調整の検討
キーワード:学習教材, 動機づけ調整, 自己調整学習
問題と目的
学習へのやる気が低いとき,学習者はやる気を制御し,高めようと働きかける。Wolters (2003) では,この働きかけは動機づけ調整とよばれている。
学習の途中段階で行われる動機づけ調整はこれまで検討されてきた (e.g., 梅本・田中, 2012)。一方,ある学習領域に着手する段階で行われる動機づけ調整は検討されていない。そこで本研究では,学習開始前に行われる動機づけ調整を,学習教材の選択場面を用いて検討することを目的とする。
本研究では,学習教材の持つ特性を装飾特性と内容特性とに分けて整理する。前者は紙面のデザイン上の要素の豊富さを指す。後者は学習の内容面をサポートする要素の豊富さを指す。これまで,読みやすいフォントで表記された内容に対して動機づけが高まることや (Song & Schwarz, 2008),イラスト・挿絵が学習への動機づけを高めることなどが示されている (島田,2015)。つまり,装飾特性が学習者の動機づけに影響を及ぼしていることが示唆されている。
以上の知見を自己調整学習の文脈で捉え,本研究では,動機づけ調整の際に学習者は装飾特性の優れた教材を選好すると仮説を立てた。
方 法
実験参加者 調査会社のモニターの大学生200名と20代社会人200名が参加した (それぞれ男性100名,女性100名,Mage = 24.0 (SD = 3.34))。
実験デザイン これから始めようとしている学習に対するやる気(高条件・低条件)と教材の特性(装飾特性・内容特性)を要因とする,2要因の参加者内計画であった。
学習教材の各特性の構成要素 装飾特性の構成要素として「文字が鮮明で見やすい」,「紙面がカラー刷りである」,「挿絵・イラストがある」,「学習の取り組みへの励ましの言葉がけがある」の4つを設けた。同様に,内容特性の構成要素として「解説の量が多い」,「発展的な内容まで扱われている」,「多様な練習問題が掲載されている」,「自主的な学習ができるよう,参考文献・URLが書かれている」の4つを設けた。
手続き (1) これから新しく言語を学ぼうとしていて,やる気が十分に高い場面を想定し,8つの学習教材の要素に対して「1欲しくない」~「5どちらともいえない」~「9欲しい」のいずれにあてはまるかを評定した。(2) (1) と同じ状況,ただしやる気は低く,動機づけ調整が必要となる場面を想定し,(1) と同様に評定を行った。(1) (2) の実施順はカウンターバランスをとった。参加者はweb上で回答を行った。
結果と考察
装飾・内容特性それぞれに対する需要度を,4つの構成要素の平均値の算出により求めた (Figure1)。1サンプルのt検定の結果,やる気高条件の装飾・内容特性に対する需要度はいずれも「5どちらともいえない」よりも高かった (ts (399) = 13.40, 19.05, ps < .001, ds = .67, .95)。やる気低条件の装飾・内容特性に対する需要度も,いずれも5よりも高かった (ts (399) = 14.38, 5.47, ps < .001, ds = .72, .27)。以上より,やる気の高低にかかわらず,装飾・内容特性ともに需要はあることが示された。
需要度について,やる気(高条件・低条件)×学習教材の特性(装飾特性・内容特性)による2要因分散分析の結果,交互作用が統計的に有意であった (F (399) = 178.65, p < .001, η^2 = .09)。下位検定の結果,いずれの単純主効果も統計的に有意で,やる気高条件では装飾<内容,逆にやる気低条件では装飾>内容であること,装飾特性はやる気高条件<低条件,逆に内容特性はやる気高条件>低条件であることが示された (Fs (399) = 45.85, 67.16, 11.13, 197.61, η_p^2s = .10, .14, .03, .33, ps < .001)。よって仮説は支持された。
本研究では,学習者は動機づけ調整によって装飾特性の高い教材を求め,内容特性には固執しないと示された。全体としては,やる気が既にやる気の低い学習者向けの教材ほど装飾特性を,やる気の高い学習者向けの教材ほど内容特性を豊かにする必要があると示された。このような学習教材の制作に応用できる枠組みが示された点で,本研究には社会的意義があるといえる。
学習へのやる気が低いとき,学習者はやる気を制御し,高めようと働きかける。Wolters (2003) では,この働きかけは動機づけ調整とよばれている。
学習の途中段階で行われる動機づけ調整はこれまで検討されてきた (e.g., 梅本・田中, 2012)。一方,ある学習領域に着手する段階で行われる動機づけ調整は検討されていない。そこで本研究では,学習開始前に行われる動機づけ調整を,学習教材の選択場面を用いて検討することを目的とする。
本研究では,学習教材の持つ特性を装飾特性と内容特性とに分けて整理する。前者は紙面のデザイン上の要素の豊富さを指す。後者は学習の内容面をサポートする要素の豊富さを指す。これまで,読みやすいフォントで表記された内容に対して動機づけが高まることや (Song & Schwarz, 2008),イラスト・挿絵が学習への動機づけを高めることなどが示されている (島田,2015)。つまり,装飾特性が学習者の動機づけに影響を及ぼしていることが示唆されている。
以上の知見を自己調整学習の文脈で捉え,本研究では,動機づけ調整の際に学習者は装飾特性の優れた教材を選好すると仮説を立てた。
方 法
実験参加者 調査会社のモニターの大学生200名と20代社会人200名が参加した (それぞれ男性100名,女性100名,Mage = 24.0 (SD = 3.34))。
実験デザイン これから始めようとしている学習に対するやる気(高条件・低条件)と教材の特性(装飾特性・内容特性)を要因とする,2要因の参加者内計画であった。
学習教材の各特性の構成要素 装飾特性の構成要素として「文字が鮮明で見やすい」,「紙面がカラー刷りである」,「挿絵・イラストがある」,「学習の取り組みへの励ましの言葉がけがある」の4つを設けた。同様に,内容特性の構成要素として「解説の量が多い」,「発展的な内容まで扱われている」,「多様な練習問題が掲載されている」,「自主的な学習ができるよう,参考文献・URLが書かれている」の4つを設けた。
手続き (1) これから新しく言語を学ぼうとしていて,やる気が十分に高い場面を想定し,8つの学習教材の要素に対して「1欲しくない」~「5どちらともいえない」~「9欲しい」のいずれにあてはまるかを評定した。(2) (1) と同じ状況,ただしやる気は低く,動機づけ調整が必要となる場面を想定し,(1) と同様に評定を行った。(1) (2) の実施順はカウンターバランスをとった。参加者はweb上で回答を行った。
結果と考察
装飾・内容特性それぞれに対する需要度を,4つの構成要素の平均値の算出により求めた (Figure1)。1サンプルのt検定の結果,やる気高条件の装飾・内容特性に対する需要度はいずれも「5どちらともいえない」よりも高かった (ts (399) = 13.40, 19.05, ps < .001, ds = .67, .95)。やる気低条件の装飾・内容特性に対する需要度も,いずれも5よりも高かった (ts (399) = 14.38, 5.47, ps < .001, ds = .72, .27)。以上より,やる気の高低にかかわらず,装飾・内容特性ともに需要はあることが示された。
需要度について,やる気(高条件・低条件)×学習教材の特性(装飾特性・内容特性)による2要因分散分析の結果,交互作用が統計的に有意であった (F (399) = 178.65, p < .001, η^2 = .09)。下位検定の結果,いずれの単純主効果も統計的に有意で,やる気高条件では装飾<内容,逆にやる気低条件では装飾>内容であること,装飾特性はやる気高条件<低条件,逆に内容特性はやる気高条件>低条件であることが示された (Fs (399) = 45.85, 67.16, 11.13, 197.61, η_p^2s = .10, .14, .03, .33, ps < .001)。よって仮説は支持された。
本研究では,学習者は動機づけ調整によって装飾特性の高い教材を求め,内容特性には固執しないと示された。全体としては,やる気が既にやる気の低い学習者向けの教材ほど装飾特性を,やる気の高い学習者向けの教材ほど内容特性を豊かにする必要があると示された。このような学習教材の制作に応用できる枠組みが示された点で,本研究には社会的意義があるといえる。