10:00 〜 12:00
[PG33] 知能観とJOLが学習時間に及ぼす影響
課題の難易度による調整効果
キーワード:知能観, 既学習判断, 学習時間
問題と目的
効率的な学習には,学習状況のモニタリング(e.g., 既学習判断: JOL)とそれに基づくコントロールが関係する。すなわち,現在の状態と目標との間のズレを検出し,適切なコントロールを行うことが重要である。
JOLに影響する要因として,知能観といった学習者の有する信念が挙げられる(e.g., Ikeda et al., 2013; Mueller et al., 2014)。例えば,Miele et al.(2011)において,知能観の違いによって学習時に投入した努力に対する捉え方が異なり,その結果,JOLにも影響することが示唆されている。増大理論を持つ者は,知能は自身の努力によって成長させることが可能であるという信念を有するため,努力をより投入した項目ほど成績は向上すると解釈し,学習時間を費やした項目ほどJOLは高くなることが示されている。一方で,固定理論を有する者は,知能は自身での制御は困難とするであるという信念を持つため,努力をより投入した項目ほど難しい項目であると判断し,成績は低下すると解釈する。その結果,より学習時間を費やした項目ほどJOLは低くなることが示されている。
江ら(2016)は,新たに知能観とJOLが学習のコントロール過程に与える影響について,学習時間の配分に焦点を当て検討した結果,知能観に関わらず,JOLが低い項目により多くの学習時間を費やすことが明らかとなった。ただし,江ら(2016)で使用された学習課題は非常に容易であった(正答率は約90%)。課題の難易度に応じて,学習者の取りうる方略にも変化があることを踏まえると(e.g., Metcalfe & Kornell, 2003),知能観の違いとコントロール過程との関係性について複数の難易度の課題を用いて検討しておく必要がある。そこで,本研究は学習課題が困難な場合を含め,これらの関係性について更なる検討を行った。
方 法
実験参加者 198名がオンラインで行った実験に参加した(女性87名;平均年齢36.47歳)。
材料 学習課題として,関連性が強い,関連性が弱い,無関連の単語対それぞれ12個計36個を用いた(Castel et al., 2007)。また,知能観の測定には,Dweck(1999)の知能観尺度を用いた。
手続き まず,学習段階では,単語対を4秒ずつで学習させ,その直後に手がかり語を6秒提示し,それと対となっている単語をテストで解答できる自信を0~100%で評価させた(JOL)。続く再学習段階では,単語対をセルフペースで再学習させ,その直後にJOLを実施した。3分間のディストラクター課題後,テスト段階では,手がかり語が10秒ずつ提示され,それと対になっている単語を解答させた。最後に知能観に関する質問紙を回答させた。
結果と考察
知能観とJOLが学習時間に及ぼす影響を検討するために,再学習時の学習時間を従属変数,知能観尺度得点と学習段階時のJOL,課題の難易度,及びこれらの交互作用項を説明変数の固定効果,参加者と単語対を説明変数のランダム効果としたGLMMを用いて,分析を実施した。その結果, JOLの主効果(β = -.14, p < .001),2次の交互作用項が有意であった(β = .05, p = .04)(Table 1)。単純傾斜の検定の結果,関連度強,関連度弱条件(正答率68%)では,固定理論を有する場合のみ,JOLが低い単語対ほど再学習時間は長かった(β = -.40, p < .001; β = -.32, p < .001)。これに対して,無関連条件(正答率38%)では,知能観と関係なく,JOLと再学習時間の関係は有意ではなかった(β = .14, p =.17; β = .06, p = .59)。
本研究から,知能観の違いがコントロール過程に影響する可能性が示唆された。増大理論を有する者は,学習時間の配分が自分の学習状況や学習の難易度に依存しないことが示唆された。一方,固定理論を有する者は,課題の難易度が容易,あるいは中程度の場合に限り,学習できていないと感じている単語対に時間を費やすことが示された。しかしながら,江ら(2016)において,難易度が容易な場合には増大理論を有する者もJOLが低い項目に学習時間を費やしていた。ただし,本研究における関連度強条件の正答率は約68%であり,江ら(2016)で利用した課題ほど容易ではなかったと考えられる。今後は,より学習が容易な項目を加えた上で,これまでの研究の結果が追認できるか否かを検討する必要がある。
効率的な学習には,学習状況のモニタリング(e.g., 既学習判断: JOL)とそれに基づくコントロールが関係する。すなわち,現在の状態と目標との間のズレを検出し,適切なコントロールを行うことが重要である。
JOLに影響する要因として,知能観といった学習者の有する信念が挙げられる(e.g., Ikeda et al., 2013; Mueller et al., 2014)。例えば,Miele et al.(2011)において,知能観の違いによって学習時に投入した努力に対する捉え方が異なり,その結果,JOLにも影響することが示唆されている。増大理論を持つ者は,知能は自身の努力によって成長させることが可能であるという信念を有するため,努力をより投入した項目ほど成績は向上すると解釈し,学習時間を費やした項目ほどJOLは高くなることが示されている。一方で,固定理論を有する者は,知能は自身での制御は困難とするであるという信念を持つため,努力をより投入した項目ほど難しい項目であると判断し,成績は低下すると解釈する。その結果,より学習時間を費やした項目ほどJOLは低くなることが示されている。
江ら(2016)は,新たに知能観とJOLが学習のコントロール過程に与える影響について,学習時間の配分に焦点を当て検討した結果,知能観に関わらず,JOLが低い項目により多くの学習時間を費やすことが明らかとなった。ただし,江ら(2016)で使用された学習課題は非常に容易であった(正答率は約90%)。課題の難易度に応じて,学習者の取りうる方略にも変化があることを踏まえると(e.g., Metcalfe & Kornell, 2003),知能観の違いとコントロール過程との関係性について複数の難易度の課題を用いて検討しておく必要がある。そこで,本研究は学習課題が困難な場合を含め,これらの関係性について更なる検討を行った。
方 法
実験参加者 198名がオンラインで行った実験に参加した(女性87名;平均年齢36.47歳)。
材料 学習課題として,関連性が強い,関連性が弱い,無関連の単語対それぞれ12個計36個を用いた(Castel et al., 2007)。また,知能観の測定には,Dweck(1999)の知能観尺度を用いた。
手続き まず,学習段階では,単語対を4秒ずつで学習させ,その直後に手がかり語を6秒提示し,それと対となっている単語をテストで解答できる自信を0~100%で評価させた(JOL)。続く再学習段階では,単語対をセルフペースで再学習させ,その直後にJOLを実施した。3分間のディストラクター課題後,テスト段階では,手がかり語が10秒ずつ提示され,それと対になっている単語を解答させた。最後に知能観に関する質問紙を回答させた。
結果と考察
知能観とJOLが学習時間に及ぼす影響を検討するために,再学習時の学習時間を従属変数,知能観尺度得点と学習段階時のJOL,課題の難易度,及びこれらの交互作用項を説明変数の固定効果,参加者と単語対を説明変数のランダム効果としたGLMMを用いて,分析を実施した。その結果, JOLの主効果(β = -.14, p < .001),2次の交互作用項が有意であった(β = .05, p = .04)(Table 1)。単純傾斜の検定の結果,関連度強,関連度弱条件(正答率68%)では,固定理論を有する場合のみ,JOLが低い単語対ほど再学習時間は長かった(β = -.40, p < .001; β = -.32, p < .001)。これに対して,無関連条件(正答率38%)では,知能観と関係なく,JOLと再学習時間の関係は有意ではなかった(β = .14, p =.17; β = .06, p = .59)。
本研究から,知能観の違いがコントロール過程に影響する可能性が示唆された。増大理論を有する者は,学習時間の配分が自分の学習状況や学習の難易度に依存しないことが示唆された。一方,固定理論を有する者は,課題の難易度が容易,あるいは中程度の場合に限り,学習できていないと感じている単語対に時間を費やすことが示された。しかしながら,江ら(2016)において,難易度が容易な場合には増大理論を有する者もJOLが低い項目に学習時間を費やしていた。ただし,本研究における関連度強条件の正答率は約68%であり,江ら(2016)で利用した課題ほど容易ではなかったと考えられる。今後は,より学習が容易な項目を加えた上で,これまでの研究の結果が追認できるか否かを検討する必要がある。