10:00 AM - 12:00 PM
[PG42] 小学校教師における学級経営のリフレクションの検討
若手教師に対する半年間の縦断的調査を通して
Keywords:学級経営, リフレクション, 若手教師
問題と目的
今,求められている「学び続ける教師」の育成では,日々のリフレクションを通して教育実践力を高める「反省的実践家」が注目されている。学校現場でも授業実践を対象としたリフレクションが広まりつつある。しかし,教育活動全ての基盤となる学級経営に関するリフレクションについての実践的な研究はほとんどなされていない。そこで本研究では,学級経営の土台となるであろう「こういう学級にしたい」という教師自身の学級経営観と,その手立てとしての指導行動を振り返ることを“学級経営のリフレクション”と考え,継時的な面接を通して試行的に取り組みを行う。自身の学級経営観とそれを具体化する指導行動を意識化し,十分に把握して検討するという“学級経営のリフレクション”が,教師及び学級に対してどのような変化をもたらすかについて検討を試みる。
方 法
調査協力者 公立A小学校3年生の学級担任B教諭(教職経験年数2年目)と児童27名。
調査内容・調査期間
面接調査(2016年4月~10月:6回実施):B教諭に半構造化面接を実施した。学期初めには,B教諭がどのような学級をつくろうとしているのかについて尋ねることで,学級経営観を明らかにすることを試みた。さらに学期途中と学期末にも同様の質問をすることで,学級経営観の変化を確かめた。学期途中では,学級経営観に沿った指導行動がなされているのか,また,指導行動を児童に浸透させることができているのかについて,B教諭が振り返ることができるような問いかけをした。その際には,A小学校全体で実施しているアセス(学校環境適応感尺度)及び授業ビデオも活用し,それらを通して気づいたことや気になることについて尋ねる質問もした。
授業観察(2016年4月~10月):B教諭が学級経営観を実現するために,どのような指導行動をしているのか,指導行動を児童にどのように浸透させているのかを捉えるため,継続して学級を訪問し,B教諭及び児童の行動の様子をフィールドノーツとビデオカメラ,ICレコーダーに記録した。
結果と考察
信念の数が多いほど,その人らしい行動傾向となって表出するというRokeach(1968)の指摘に基づき,まず,学級経営観を尋ねた質問に対する回答で表出頻度の高い言葉を検討した結果,『自分たちで』が確認された。よって,B教諭の学級経営観は“『自分たちで』できる学級”と考えた。次に,B教諭がどのように“『自分たちで』できる学級”を実現し,児童に浸透させているのかについて注目して授業観察記録を検討したところ,1学期前半では,『自分たちで』何をすべきか具体的な指示を出しておらず,『自分たちで』気づくまで黙って待っていたことが確認された。しかし,1学期後半には,A小学校全体で取り組んでいた“集中”という掛け声を用いることで『自分たちで』集中すればいいということを明確に示していた。それによって,当初はB教諭の“黙って待つ指導”に戸惑っていた児童も『自分たちで』集中すればいいということがわかり,生き生きとしてきた。つまり,1学期前半は学級経営観と指導行動のズレが見られたものの,1学期後半には修正されたことが観察された。この過程においてはB教諭自身による学級経営観の見直しも行われ,『自分たちで』から『みんなで』への移行が確認できた。
学級経営観と指導行動が一致した2学期には,B教諭は“『みんなで』がんばれるような学級”をつくっていきたいという思いを込めた児童への語りかけを繰り返し,運動会の練習では,“『みんなで』がんばろう”と学級経営観を含んだメッセージを頻繁に児童に送るなど,『みんなで』行動を共有しようとする場面も見られるようになった。このように,学級経営観と指導行動が修正され一致するに従い,指導行動を児童に浸透させる様子も窺われた。運動会後の10月に実施した第6回面接調査で,B教諭は“『みんなでがんばろう』みたいな意識が少し芽生えている。多分,子どもたち同士で声かけをして運動会を乗り越えたことで,『みんなの絆』が深まった部分があった。”と語り,自身でも学級経営観と指導行動が一致し,それが児童に浸透した手ごたえを感じることができていたようであった。なお,5月,7月,10月に実施されたアセスでも「教師サポート」「非侵害的関係」「対人的適応」の3指標において10月が有意に高得点となった。この結果も,学級経営観と指導行動を見直し,関連を促進させるという学級経営のリフレクションによる効果の一端とも考えられ,「どんな学級をつくりたいのか」と意識しながら,日々リフレクションすることの重要性を示唆するものと思われる。
今,求められている「学び続ける教師」の育成では,日々のリフレクションを通して教育実践力を高める「反省的実践家」が注目されている。学校現場でも授業実践を対象としたリフレクションが広まりつつある。しかし,教育活動全ての基盤となる学級経営に関するリフレクションについての実践的な研究はほとんどなされていない。そこで本研究では,学級経営の土台となるであろう「こういう学級にしたい」という教師自身の学級経営観と,その手立てとしての指導行動を振り返ることを“学級経営のリフレクション”と考え,継時的な面接を通して試行的に取り組みを行う。自身の学級経営観とそれを具体化する指導行動を意識化し,十分に把握して検討するという“学級経営のリフレクション”が,教師及び学級に対してどのような変化をもたらすかについて検討を試みる。
方 法
調査協力者 公立A小学校3年生の学級担任B教諭(教職経験年数2年目)と児童27名。
調査内容・調査期間
面接調査(2016年4月~10月:6回実施):B教諭に半構造化面接を実施した。学期初めには,B教諭がどのような学級をつくろうとしているのかについて尋ねることで,学級経営観を明らかにすることを試みた。さらに学期途中と学期末にも同様の質問をすることで,学級経営観の変化を確かめた。学期途中では,学級経営観に沿った指導行動がなされているのか,また,指導行動を児童に浸透させることができているのかについて,B教諭が振り返ることができるような問いかけをした。その際には,A小学校全体で実施しているアセス(学校環境適応感尺度)及び授業ビデオも活用し,それらを通して気づいたことや気になることについて尋ねる質問もした。
授業観察(2016年4月~10月):B教諭が学級経営観を実現するために,どのような指導行動をしているのか,指導行動を児童にどのように浸透させているのかを捉えるため,継続して学級を訪問し,B教諭及び児童の行動の様子をフィールドノーツとビデオカメラ,ICレコーダーに記録した。
結果と考察
信念の数が多いほど,その人らしい行動傾向となって表出するというRokeach(1968)の指摘に基づき,まず,学級経営観を尋ねた質問に対する回答で表出頻度の高い言葉を検討した結果,『自分たちで』が確認された。よって,B教諭の学級経営観は“『自分たちで』できる学級”と考えた。次に,B教諭がどのように“『自分たちで』できる学級”を実現し,児童に浸透させているのかについて注目して授業観察記録を検討したところ,1学期前半では,『自分たちで』何をすべきか具体的な指示を出しておらず,『自分たちで』気づくまで黙って待っていたことが確認された。しかし,1学期後半には,A小学校全体で取り組んでいた“集中”という掛け声を用いることで『自分たちで』集中すればいいということを明確に示していた。それによって,当初はB教諭の“黙って待つ指導”に戸惑っていた児童も『自分たちで』集中すればいいということがわかり,生き生きとしてきた。つまり,1学期前半は学級経営観と指導行動のズレが見られたものの,1学期後半には修正されたことが観察された。この過程においてはB教諭自身による学級経営観の見直しも行われ,『自分たちで』から『みんなで』への移行が確認できた。
学級経営観と指導行動が一致した2学期には,B教諭は“『みんなで』がんばれるような学級”をつくっていきたいという思いを込めた児童への語りかけを繰り返し,運動会の練習では,“『みんなで』がんばろう”と学級経営観を含んだメッセージを頻繁に児童に送るなど,『みんなで』行動を共有しようとする場面も見られるようになった。このように,学級経営観と指導行動が修正され一致するに従い,指導行動を児童に浸透させる様子も窺われた。運動会後の10月に実施した第6回面接調査で,B教諭は“『みんなでがんばろう』みたいな意識が少し芽生えている。多分,子どもたち同士で声かけをして運動会を乗り越えたことで,『みんなの絆』が深まった部分があった。”と語り,自身でも学級経営観と指導行動が一致し,それが児童に浸透した手ごたえを感じることができていたようであった。なお,5月,7月,10月に実施されたアセスでも「教師サポート」「非侵害的関係」「対人的適応」の3指標において10月が有意に高得点となった。この結果も,学級経営観と指導行動を見直し,関連を促進させるという学級経営のリフレクションによる効果の一端とも考えられ,「どんな学級をつくりたいのか」と意識しながら,日々リフレクションすることの重要性を示唆するものと思われる。