10:00 AM - 12:00 PM
[PG57] 自閉症スペクトラム傾向の高い青年の理想自己の在り方
Keywords:自閉症スペクトラム傾向, 理想自己, 自尊感情
問題と目的
自閉症スペクトラム障害(ASD)は,対人関係の質的な欠陥を特徴の一つとする一連の障害群であるが,近年,ASD者の自己理解に着目した研究が散見される(例えば,滝吉・田中,2009;吉井・吉松,2003など)。滝吉・田中(2009)は,杉村(1998)を参照しながら,他者との相互交渉が必要なアイデンティティの確立を,他者との相互調整に困難があるASD者が行うことの難しさを論じている。ASDの診断を受けていないものの高い自閉症スペクトラム傾向を示す個人においても,自己に関する独特な様相が示されると思われる。
松野・山崎(2017)は,一般大学生を対象に,自閉症スペクトラム傾向と理想自己との関連を取り上げ,質問紙調査において検討した。自閉症スペクトラム傾向には,Baron-Cohen e al.(2001)の自閉症スペクトラム指数(AQ)を使用した。理想自己は,山本・田上(2003)の自己概念尺度を使用し,ポジティブ・ネガティブな理想自己と現実自己とのズレを指数として用いた。適応指標として自尊感情(桜井,2000)も併せて調査した。その結果,Figure 1のモデルが得られ,自閉症スペクトラム傾向の高さが直接自尊感情を低めるパスのみならず,理想自己と現実自己のズレを媒介し,二次的に自尊感情を低めている可能性が示された。しかしながら,この研究の問題点として以下の二点が挙げられる。一点目は,理想自己と現実自己のズレを法則定立的な手法で求めており,回答者の重要だと考える自己の領域が反映されていないことである。二点目は,適応指数に自尊感情を用いているが,伊藤・小玉(2005)では,適応的な側面のみを含む最良な自尊感情として本来感を提唱しており,自尊感情を適応指数とすることの妥当性に疑問が残るという点である。
本研究では,個性記述的な手法を用いて得られた理想自己と現実自己のズレが,自尊感情及び本来感とどのように関連するか検討することを目的とする。
方 法
調査対象及び倫理的配慮
大学生70名を対象に質問紙調査を行った。欠損地のあるものを除いた40名を対象とした。倫理的配慮として,途中で回答を辞めることが可能であることなどを事前に教示した。
使用尺度
理想自己
(1)理想自己の抽出(自由記述)
(2)理想自己と現実自己とのズレ
適応指数
自尊感情尺度:10項目5件法(山本他,1982)
本来感尺度:7項目5件法(伊藤・小玉,2005)
結 果
理想自己と現実自己とのズレと自尊感情及び本来感の相関係数を算出したところ,ズレ得点は,自尊感情とは有意な負の相関(r=-.33;p<.05)を示したが,本来感との有意な相関は得られなかった(r=-.19;n.s.)。
考察及び今後の展望
本研究で取り上げた変数は,Figure 1の「ポジティブ領域におけるズレ」,「自尊感情」と対応する。今回ズレ得点として個性記述的手法を用いたが,松野・山崎(2017)と同様自尊感情と有意な負の相関を示し,回答者から抽出した理想自己を用いた分析が可能であることを確認した。また,ズレ得点と本来感の相関は有意ではなく,理想自己と現実自己のズレを扱う場合には適応指数として自尊感情を扱う方が適しているといえる。
今後,Figure 1の中で今回検討されなかった「自閉症スペクトラム傾向」,「ネガティブ領域におけるズレ」を併せて検討し,法則定立的に求められたFigure 1のモデルを,個性記述的手法を用いてより詳細に検討していく。
引用文献
松野 実・山崎 晃(2017).一般大学生の自閉症スペクトラム傾向と自己概念,情動への評価との関連 広島文化学園大学子ども学論集,3.
自閉症スペクトラム障害(ASD)は,対人関係の質的な欠陥を特徴の一つとする一連の障害群であるが,近年,ASD者の自己理解に着目した研究が散見される(例えば,滝吉・田中,2009;吉井・吉松,2003など)。滝吉・田中(2009)は,杉村(1998)を参照しながら,他者との相互交渉が必要なアイデンティティの確立を,他者との相互調整に困難があるASD者が行うことの難しさを論じている。ASDの診断を受けていないものの高い自閉症スペクトラム傾向を示す個人においても,自己に関する独特な様相が示されると思われる。
松野・山崎(2017)は,一般大学生を対象に,自閉症スペクトラム傾向と理想自己との関連を取り上げ,質問紙調査において検討した。自閉症スペクトラム傾向には,Baron-Cohen e al.(2001)の自閉症スペクトラム指数(AQ)を使用した。理想自己は,山本・田上(2003)の自己概念尺度を使用し,ポジティブ・ネガティブな理想自己と現実自己とのズレを指数として用いた。適応指標として自尊感情(桜井,2000)も併せて調査した。その結果,Figure 1のモデルが得られ,自閉症スペクトラム傾向の高さが直接自尊感情を低めるパスのみならず,理想自己と現実自己のズレを媒介し,二次的に自尊感情を低めている可能性が示された。しかしながら,この研究の問題点として以下の二点が挙げられる。一点目は,理想自己と現実自己のズレを法則定立的な手法で求めており,回答者の重要だと考える自己の領域が反映されていないことである。二点目は,適応指数に自尊感情を用いているが,伊藤・小玉(2005)では,適応的な側面のみを含む最良な自尊感情として本来感を提唱しており,自尊感情を適応指数とすることの妥当性に疑問が残るという点である。
本研究では,個性記述的な手法を用いて得られた理想自己と現実自己のズレが,自尊感情及び本来感とどのように関連するか検討することを目的とする。
方 法
調査対象及び倫理的配慮
大学生70名を対象に質問紙調査を行った。欠損地のあるものを除いた40名を対象とした。倫理的配慮として,途中で回答を辞めることが可能であることなどを事前に教示した。
使用尺度
理想自己
(1)理想自己の抽出(自由記述)
(2)理想自己と現実自己とのズレ
適応指数
自尊感情尺度:10項目5件法(山本他,1982)
本来感尺度:7項目5件法(伊藤・小玉,2005)
結 果
理想自己と現実自己とのズレと自尊感情及び本来感の相関係数を算出したところ,ズレ得点は,自尊感情とは有意な負の相関(r=-.33;p<.05)を示したが,本来感との有意な相関は得られなかった(r=-.19;n.s.)。
考察及び今後の展望
本研究で取り上げた変数は,Figure 1の「ポジティブ領域におけるズレ」,「自尊感情」と対応する。今回ズレ得点として個性記述的手法を用いたが,松野・山崎(2017)と同様自尊感情と有意な負の相関を示し,回答者から抽出した理想自己を用いた分析が可能であることを確認した。また,ズレ得点と本来感の相関は有意ではなく,理想自己と現実自己のズレを扱う場合には適応指数として自尊感情を扱う方が適しているといえる。
今後,Figure 1の中で今回検討されなかった「自閉症スペクトラム傾向」,「ネガティブ領域におけるズレ」を併せて検討し,法則定立的に求められたFigure 1のモデルを,個性記述的手法を用いてより詳細に検討していく。
引用文献
松野 実・山崎 晃(2017).一般大学生の自閉症スペクトラム傾向と自己概念,情動への評価との関連 広島文化学園大学子ども学論集,3.