10:00 AM - 12:00 PM
[PG56] ローゼンバーグ自尊感情尺度の2側面と自己愛人格傾向
縦断データの分析
Keywords:自尊感情, 自己愛
問題と目的
小塩(1997)は,ローゼンバーグ自尊感情尺度(Rosenberg, 1965; 安藤,1987)とCheek & Bussの自尊感情(1981;大渕ら訳,1991)を組み合わせて自尊感情とし,16項目2件法で測定した結果,自尊感情に2因子解を得ている。得られた2因子は,1項目の例外を除いて,肯定的項目群因子(Positive Self-Esteem; PSE)と否定的項目群因子(Negative self-Esteem; NSE)を形成した。そして,肯定項目群因子は自己愛と.41の正相関を示し,否定的項目群因子は.25の正相関を示している。これは,自尊感情尺度内に自己愛と異なる強さの相関関係をもつ因子が混在している可能性を示唆している。福留他(2015)は,大学生(N=177)を対象にローゼンバーグの尺度(5件法)と自己愛を測定し,PSEと自己愛人格傾向との正の相関係数が,NSE(逆転済み得点)と自己愛人格傾向との相関係数よりも有意に高いことを報告した。これは小塩(1997)の知見を再現したと考えられる。本研究の目的は,主に小塩(1997)の知見の追試と拡張にあり,(1)ローゼンバーグ自尊感情尺度のPSEと自己愛が正の関連を示すことを予想する。(2)縦断(パネル)調査を実施することにより,自尊感情と自己愛の共変動の可能性について探索する。仮に,共変動の可能性があれば,自尊感情の数値向上は自己愛人格傾向を高める可能性もあると解釈する。
方 法
対象者 インターネット調査会社(楽天リサーチ株式会社)を通じ調査に参加した日本全国の18歳から25歳。第1時点に回答した400名を追跡し計3回の回答を求めた。分析対象者は188名(男性96名,女性92名;平均23.06歳,標準偏差1.93)。調査間隔は70日である。
調査時期 2016年3月,5月,7月
質問項目 (a)自尊感情尺度(山本・山成・松井,1982)による10項目5件法。ただし,分析では項目番号8を除外,(b)自己愛性人格傾向尺度NPI-35(小西・大川・橋本,2006)の35項目を5件法で使用した。なお,本研究の質問項目は質問紙調査全体の内の一部である。
結果と考察
統計ソフトに,Microsoft office エクセルのアドインであるSSRI社のエクセル統計2012を使用した。マルチレベル分析にはMplus7.4(Muthen & Muthen, 2015)を使用した。
事前分析 先行研究に従い,PSE,NSE,自己愛人格傾向下位5因子,それぞれの平均得点を算出した。次に,これら7変数について各時点別に因子分析(最尤法,プロマックス解,固有値が1を超えることを基準に因子数決定)したところ,全時点において自尊感情尺度2変数と自己愛下位尺度5変数からなる2因子が抽出され,因子相関は時点毎に0.56,0.54,0.53であった(2時点目については,主因子法,プロマックス解)。よって,自尊感情と自己愛は異なる概念として扱う。また,自己愛尺度の下位5因子の各合成得点について因子分析したところ,全時点で一次元性が確認されたため,下位5因子も合成得点化し,自己愛総点とした。
マルチレベル分析 個人IDをクラスタ変数(クラスタ数は188,各クラスタのサンプルサイズが3(時点))として,PSE,NSE,自己愛の相関関係について検討した(Table 1)。PSEとNSEはWithinレベルでは相関が有意でなく,2変数の個人内変動に関連性はない。PSEと自己愛はWithinとBetweenレベルの両方で相関関係にあり,特にBetweenで高くなっている。変動性を考慮したときに,PSEと自己愛はNSEと自己愛以上に密接な関連があると考えられる。また,性別ごとに分析した場合,男性はBetweenレベルとWithinレベルのNSEと自己愛の相関が有意でなかった。一方,女性はBetweenのNSEと自己愛の相関が有意であった。女性よりも男性において,PSEと自己愛の関連性がより特徴的であると考えられる。
主要引用文献
小塩真司 (1997). 名古屋大学教育学部紀要心理學, 44, 155-163. 福留広大他 (2015). 日本心理学会第79大会発表論文集
謝 辞
本研究はJSPS科研費(特別研究員研究奨励費16J03013)による補助により実現しました。
小塩(1997)は,ローゼンバーグ自尊感情尺度(Rosenberg, 1965; 安藤,1987)とCheek & Bussの自尊感情(1981;大渕ら訳,1991)を組み合わせて自尊感情とし,16項目2件法で測定した結果,自尊感情に2因子解を得ている。得られた2因子は,1項目の例外を除いて,肯定的項目群因子(Positive Self-Esteem; PSE)と否定的項目群因子(Negative self-Esteem; NSE)を形成した。そして,肯定項目群因子は自己愛と.41の正相関を示し,否定的項目群因子は.25の正相関を示している。これは,自尊感情尺度内に自己愛と異なる強さの相関関係をもつ因子が混在している可能性を示唆している。福留他(2015)は,大学生(N=177)を対象にローゼンバーグの尺度(5件法)と自己愛を測定し,PSEと自己愛人格傾向との正の相関係数が,NSE(逆転済み得点)と自己愛人格傾向との相関係数よりも有意に高いことを報告した。これは小塩(1997)の知見を再現したと考えられる。本研究の目的は,主に小塩(1997)の知見の追試と拡張にあり,(1)ローゼンバーグ自尊感情尺度のPSEと自己愛が正の関連を示すことを予想する。(2)縦断(パネル)調査を実施することにより,自尊感情と自己愛の共変動の可能性について探索する。仮に,共変動の可能性があれば,自尊感情の数値向上は自己愛人格傾向を高める可能性もあると解釈する。
方 法
対象者 インターネット調査会社(楽天リサーチ株式会社)を通じ調査に参加した日本全国の18歳から25歳。第1時点に回答した400名を追跡し計3回の回答を求めた。分析対象者は188名(男性96名,女性92名;平均23.06歳,標準偏差1.93)。調査間隔は70日である。
調査時期 2016年3月,5月,7月
質問項目 (a)自尊感情尺度(山本・山成・松井,1982)による10項目5件法。ただし,分析では項目番号8を除外,(b)自己愛性人格傾向尺度NPI-35(小西・大川・橋本,2006)の35項目を5件法で使用した。なお,本研究の質問項目は質問紙調査全体の内の一部である。
結果と考察
統計ソフトに,Microsoft office エクセルのアドインであるSSRI社のエクセル統計2012を使用した。マルチレベル分析にはMplus7.4(Muthen & Muthen, 2015)を使用した。
事前分析 先行研究に従い,PSE,NSE,自己愛人格傾向下位5因子,それぞれの平均得点を算出した。次に,これら7変数について各時点別に因子分析(最尤法,プロマックス解,固有値が1を超えることを基準に因子数決定)したところ,全時点において自尊感情尺度2変数と自己愛下位尺度5変数からなる2因子が抽出され,因子相関は時点毎に0.56,0.54,0.53であった(2時点目については,主因子法,プロマックス解)。よって,自尊感情と自己愛は異なる概念として扱う。また,自己愛尺度の下位5因子の各合成得点について因子分析したところ,全時点で一次元性が確認されたため,下位5因子も合成得点化し,自己愛総点とした。
マルチレベル分析 個人IDをクラスタ変数(クラスタ数は188,各クラスタのサンプルサイズが3(時点))として,PSE,NSE,自己愛の相関関係について検討した(Table 1)。PSEとNSEはWithinレベルでは相関が有意でなく,2変数の個人内変動に関連性はない。PSEと自己愛はWithinとBetweenレベルの両方で相関関係にあり,特にBetweenで高くなっている。変動性を考慮したときに,PSEと自己愛はNSEと自己愛以上に密接な関連があると考えられる。また,性別ごとに分析した場合,男性はBetweenレベルとWithinレベルのNSEと自己愛の相関が有意でなかった。一方,女性はBetweenのNSEと自己愛の相関が有意であった。女性よりも男性において,PSEと自己愛の関連性がより特徴的であると考えられる。
主要引用文献
小塩真司 (1997). 名古屋大学教育学部紀要心理學, 44, 155-163. 福留広大他 (2015). 日本心理学会第79大会発表論文集
謝 辞
本研究はJSPS科研費(特別研究員研究奨励費16J03013)による補助により実現しました。