日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG71] 自尊感情・本来感の向上を目指した教師・保護者・友人のはたらきかけへの介入実践

心理的Well-beingへの効果を含めた検討

山田恭子1, 吉澤寛之2 (1.岐阜市立長森中学校, 2.岐阜大学)

キーワード:自尊感情, 本来感, 心理的Well-being

 遠藤(1999)の自尊感情を個人内過程の産物としてではなく,関係性の観点からとらえ直すことが重要であるとの指摘を踏まえ,山田・吉澤(2016)は,中学生にとって重要な他者である教師・保護者・友人のはたらきかけの影響を相対的に比較可能にするため,「受容・配慮」,「肯定フィードバック(Fb)」,「統制指導」,「不公正」,「帰属」,「他者向上」の6下位尺度からなる,各立場において等質な尺度を作成した。中学生対象に,各はたらきかけが自尊感情や本来感,ウェルビーイング(Wb)に及ぼす影響について検討した結果,教師や保護者より友人からのはたらきかけが大きな影響を及ぼすことが明らかになった。本研究では,これらの分析結果から有効性が見出された受容・配慮,肯定Fbに焦点づけた心理教育的介入研究を行う。それに伴って,自己概念に促進的な影響を与え,Wbに対しては直接的,もしくは自己概念を介して間接的に促進的な影響を与えることを期待できる。
方   法
効果測定 介入対象者と測定時期 岐阜市内の中学校2校のうちA校を実験群,B校を統制群とした(実験群:1年生男69名,女66名,2年生男67名,女49名,3年生男65名,女52名,統制群:1年生男54名,女55名,2年生男59名,女56名,3年生男47名,女57名)。事前測定を2015年12月中旬,事後測定を2016年7月中旬,フォローアップを2016年10月中旬に測定した。
測定内容 教師・保護者・友人のはたらきかけ尺度(山田・吉澤,2016;94項目5件法)。Rosenbergの自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982;10項目5件法)。本来感尺度(伊藤・小玉,2005;7項目5件法)。Wb尺度(西田,2000;36項目6件法):
人格的成長,人生における目的,自律性,積極的な他者関係,環境制御力の5下位尺度。
実践内容
教師のはたらきかけへの介入 子どもの自己概念,適応感の実態について研修し,教師の受容・配慮を認識できるように,生徒と生徒のかかわりも大切にした取組「Good Report」により,全校体制で子どもたちへの肯定Fbの支援を実施した。
保護者のはたらきかけへの介入 PTA総会を通して,子どもの資質・能力,努力,および成長可能性など,内的要因に焦点を当てた褒め方(Fb)を行う方法を啓発した。
友人のはたらきかけへの介入 全校放送を通して,仲間とのかかわりは自己や他者を高めることができること,さらにお互いの資質・能力,努力,及び成長可能性など,内的要因に焦点を当てた肯定Fbが有効であることを説明し,生徒同士ではたらきかけを相互に行う交流を実践した。
結果と考察
 測定時期と学校別を独立変数,はたらきかけの各下位尺度,自尊感情,本来感,Wbを従属変数とする分散分析を実施した。本来感では,交互作用(F (2,844)=6.472,p <.01)が有意であり,実験群で得点が有意に上昇し,フォローアップにおいて実験群の得点が有意に高く,介入の有効性が確認された(Figure 1)。Wbでも同様であった。
 各はたらきかけへの介入による変化が自尊感情,本来感,Wbに及ぼす効果を検証するために,実験群における事前事後の各はたらきかけと自尊感情,本来感,Wbの事前得点が,自尊感情,本来感,Wbの事後得点に与える影響を検討する重回帰分析を実施した。分析の結果,受容・配慮,肯定Fb,他者向上が自尊感情や本来感を高めたが,特に友人のはたらきかけが有効であること示された。
 受容・配慮,肯定Fbへの介入の有効性が確認された本結果は,褒められる頻度と自尊感情との正の相関を報告したFelson & Zielinski(1989)の知見に整合した。また,青年期の始まりとともに両親より親友やクラスメートが重要な他者になり,自尊感情に及ぼす影響も強くなっていくというHarter(1989)の知見に符号した結果である。今後は実施の継続や,地域住民へ子どもたちへのかかわり方について啓発する介入が求められる。