日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-81)

ポスター発表 PG(01-81)

2017年10月9日(月) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PG73] 中学生のインターネット依存傾向に関する研究

実態調査と「はまった体験」の聴き取りから

坪島佑季1, 小倉正義2 (1.高知県教育委員会, 2.鳴門教育大学)

キーワード:インターネット依存傾向, 中学生

問題と目的
 総務省情報通信政策研究所(2016)によると,生活に支障をきたすほどの高いインターネット依存傾向を示す中学生が報告されている。携帯ゲーム機や音楽プレーヤーなどのデジタル機器を用いたインターネット利用の増加から,今後更なるインターネット利用者の若年化が予測されるが,中学生を対象者としたインターネット依存傾向に関する研究は数少ない。そこで本研究では,中学生のインターネット依存傾向の実態をより明確にするために,質問紙調査(研究Ⅰ)ならびにインタビュー調査(研究Ⅱ)を行う。
研究Ⅰ:質問紙調査
(1)目的:中学生のインターネット利用の実態,依存傾向を明らかにする。
(2)方法:①調査協力者:X県の公立Y中学校に通う中学生130名。②質問紙の内容:フェイスシート(年齢,性別),インターネットの利用機器(6項目),利用目的(18項目),利用時間,Young(1998)のInternet Addiction Test(IAT)を日本語訳した尺度(長田・上野,2005)を用いた。
(3)結果と考察:調査対象者を長田・上野ら(2005)のカットオフポイントを参考にインターネットに依存しているかどうか判断した。その結果,インターネット依存(IA)群は15名(14.2%)であった。長田・上野(2005)は大学生・大学院生を対象としているが,インターネットに依存していると判断された者は5%程度であったことと比較すると,時代背景を考慮しても,中学生のインターネット依存の深刻な状況が明らかになった。また,中学生の特徴的なインターネット利用機器として,ゲーム機(χ²=26.38,df=1,p<.01)と音楽プレーヤー(χ²=5.69,df=1,p<.05)が挙げられた。経済産業省(2015)の調査報告に概ね沿った結果となり,個人の所有物を用いたインターネット利用によって,保護者の管理が届き難い可能性が考えられた。
研究Ⅱ:インタビュー調査
(1)目的:中学生が語るインターネットにはまっていく体験を分析し,中学生のインターネット依存を予防する方法について検討する。
(2)方法:①調査協力者:研究Ⅰの協力者のうち,協力の申し出のあった者で,保護者にも書面で承諾を得た中学生5名であった。②調査手続き:20~30分のフォーカス・グループ・インタビュー(4人)と個人インタビューを行い,インターネット利用時の『はまった体験』と『困った体験とその対策』について尋ねた。ICレコーダーから作成した逐語データを,KH Coder(Ver.2.00f;樋口,2015)を用いて内容分析を行った。
(3)結果と考察:『はまった体験』と『困った体験とその対策』に共通する特徴語として「スマートフォン」が抽出され,中学生のインターネット利用及び,インターネット依存傾向へのスマートフォン利用の関連が示唆された。また,共起ネットワーク分析の結果,『はまった体験』では<休日の長時間利用>のカテゴリーとの共起関係が認められた。学校生活や部活動などで平日のインターネットの利用時間が制限され,休日での長時間のインターネット利用となることが考えられ,中学生のインターネット利用には,一気に利用する衝動的な側面があることが推測された。一方,『困った体験とその対策』に関して,親にスマートフォンを預ける・没収されるなどの他律的な刺激によって,インターネット利用時の行動を制限している状況がみられた。このことから,中学生のインターネット依存の予防には,他者による制御が重要な要素であることが示唆された。
まとめと今後の課題
 本研究の結果から,中学生のインターネット依存の予防には,保護者や学校関係者など周囲の大人によるサポートが重要であることが改めて示された。今後の課題として,年代による比較や複数校・複数地域での調査を実施すること,インタビューでは,関係性を構築したうえ実施するなど,より自由な発言を聴き取る工夫をすることが挙げられる。