10:00 〜 12:00
[PG79] bi-factorモデルの応用可能性再考
キーワード:bi-factorモデル, 項目反応理論
問題と目的
bi-factorモデルはHolzinger and Swineford (1937)によって提唱されて以降,心理測定の領域において注目されることは少なかった(Reise, 2012)。近年では,坂本・柴山(2017),坂本(2016)等によって,テストの項目検証として有効なツールであることが示されている。しかし,清水・青木(2015)やReise(2012)によるレビューは存在するものの,bi-factorモデルのテストデータ分析における応用可能性については十分に議論されてきたとはいえない。そこで,本研究ではbi-factorモデルの歴史的な理論的系譜を整理し,今後の応用可能性を展望することを目的とする。
bi-factorモデルの理論的変遷の概観
歴史的に見れば,Galton (1869,1952,1883)を嚆矢として,Spearman(1904)の一因子説,Thurston(1935)の多因子説が提唱されてきた。それらの拡張モデルとしてHolzinger and Swineford (1937)がbi-factorモデルを提案した。bi-factorモデルは,すべての観測変数に影響を与える一般因子(general factor)とそれに加えて下位領域ごとの影響としてグループ因子(group factor)を仮定することに特徴がある。そのグループ因子同士は直交とされている。
Holzinger and Swineford (1937)以降,1960年代には構造方程式モデリング(SEM)やそれに基づく確認的因子分析が提案されてきた。1990年代に入ると,Gibbons and Hedecker(1992)により,bi-factor構造を項目反応理論(IRT)の枠組みでの活用が提案された。ちょうどこの時代に,Bock, Gibbons and Muraki(1988)による完全情報因子分析(full information factor analysis),それを多値型データへ応用(Muraki & Carlson, 1995)などの試みがなされており,Gibbons and Hedeker(1992)もその流れに位置づけられる。bi-factorモデルの多値型への拡張は,Gibbons, Bock, Hedeker, Weiss, Segawa, Bhaumik, Kupfer, Frank, Grochocinki and Stover(2007)によって提案されている。
元来,bi-factorモデルは分析者側の事前の仮説にもとづいて確認的に分析を行うことが目的とされていた。しかし,最近では探索的なbi-factorモデル(Jennrich & Bentler, 2011, 2012),またそれを一般化したbi-factorモデル(Cai,2010)も提案されている。
bi-factorモデルの応用可能性
このような理論的系譜を辿ってきたbi-factorモデルは,Holzinger and Swineford (1937)以降,約70年にわたって心理測定の研究対象としてはそれほど注目されてこなかったことが指摘されている(Reise, 2012)。しかしながら,最近ではReise, Morizot and Hays(2007),坂本・柴山(2017),坂本(2016)等によってテストデータ分析におけるbi-factorモデルの活用が進んでいる。これらをはじめとした先行研究を踏まえると,今後のbi-factorモデルの応用可能性は下記の2点が指摘できる。
テスト項目検証での活用
bi-factorモデルでは,テスト項目全体に影響を与える一般因子の影響を取り除いたあとのグループ因子の影響を確認することができる。つまり,テスト項目が一般因子あるいはグループ因子のどちらの要素を強く反映しているかについて,項目識別力パラメータを推定することで確認できる。このとき,テスト運用上,一次元性を仮定したIRTモデルを採用する際には,グループ因子の影響を相対的に強く受けている項目については,当該の項目をテストに含めるかあるいは入れ替えるか,という判断が可能となる。
教育社会学的分析への応用
坂本・柴山(2017),坂本(2016)ではbi-factorモデルを使った項目パラメータの推定とそれにもとづいた潜在特性尺度値を推定している。しかしながら,それらと受検者がもつ背景情報(家庭環境などの属性データ)との関連まで検討できていない。一方,教育社会学的研究でも,従属変数となる「学力」は一次元上の潜在特性尺度値であることがほとんどである。bi-factorモデルを使うことで,テストの下位領域ごとの学力に対して背景情報との関連を検討できることとなる。このような心理測定学と教育社会学研究のハイブリッドな試みが期待される。
発表当日には,実際のテストデータを用いた分析事例を示す。
謝 辞
本研究の遂行にあたって,東北大学教育ネットワークセンター「大学院生プロジェクト型研究」の助成を受けました。また,萩原康仁先生(国立教育政策研究所)にご助言をいただきました。ここに記して感謝申し上げます。
bi-factorモデルはHolzinger and Swineford (1937)によって提唱されて以降,心理測定の領域において注目されることは少なかった(Reise, 2012)。近年では,坂本・柴山(2017),坂本(2016)等によって,テストの項目検証として有効なツールであることが示されている。しかし,清水・青木(2015)やReise(2012)によるレビューは存在するものの,bi-factorモデルのテストデータ分析における応用可能性については十分に議論されてきたとはいえない。そこで,本研究ではbi-factorモデルの歴史的な理論的系譜を整理し,今後の応用可能性を展望することを目的とする。
bi-factorモデルの理論的変遷の概観
歴史的に見れば,Galton (1869,1952,1883)を嚆矢として,Spearman(1904)の一因子説,Thurston(1935)の多因子説が提唱されてきた。それらの拡張モデルとしてHolzinger and Swineford (1937)がbi-factorモデルを提案した。bi-factorモデルは,すべての観測変数に影響を与える一般因子(general factor)とそれに加えて下位領域ごとの影響としてグループ因子(group factor)を仮定することに特徴がある。そのグループ因子同士は直交とされている。
Holzinger and Swineford (1937)以降,1960年代には構造方程式モデリング(SEM)やそれに基づく確認的因子分析が提案されてきた。1990年代に入ると,Gibbons and Hedecker(1992)により,bi-factor構造を項目反応理論(IRT)の枠組みでの活用が提案された。ちょうどこの時代に,Bock, Gibbons and Muraki(1988)による完全情報因子分析(full information factor analysis),それを多値型データへ応用(Muraki & Carlson, 1995)などの試みがなされており,Gibbons and Hedeker(1992)もその流れに位置づけられる。bi-factorモデルの多値型への拡張は,Gibbons, Bock, Hedeker, Weiss, Segawa, Bhaumik, Kupfer, Frank, Grochocinki and Stover(2007)によって提案されている。
元来,bi-factorモデルは分析者側の事前の仮説にもとづいて確認的に分析を行うことが目的とされていた。しかし,最近では探索的なbi-factorモデル(Jennrich & Bentler, 2011, 2012),またそれを一般化したbi-factorモデル(Cai,2010)も提案されている。
bi-factorモデルの応用可能性
このような理論的系譜を辿ってきたbi-factorモデルは,Holzinger and Swineford (1937)以降,約70年にわたって心理測定の研究対象としてはそれほど注目されてこなかったことが指摘されている(Reise, 2012)。しかしながら,最近ではReise, Morizot and Hays(2007),坂本・柴山(2017),坂本(2016)等によってテストデータ分析におけるbi-factorモデルの活用が進んでいる。これらをはじめとした先行研究を踏まえると,今後のbi-factorモデルの応用可能性は下記の2点が指摘できる。
テスト項目検証での活用
bi-factorモデルでは,テスト項目全体に影響を与える一般因子の影響を取り除いたあとのグループ因子の影響を確認することができる。つまり,テスト項目が一般因子あるいはグループ因子のどちらの要素を強く反映しているかについて,項目識別力パラメータを推定することで確認できる。このとき,テスト運用上,一次元性を仮定したIRTモデルを採用する際には,グループ因子の影響を相対的に強く受けている項目については,当該の項目をテストに含めるかあるいは入れ替えるか,という判断が可能となる。
教育社会学的分析への応用
坂本・柴山(2017),坂本(2016)ではbi-factorモデルを使った項目パラメータの推定とそれにもとづいた潜在特性尺度値を推定している。しかしながら,それらと受検者がもつ背景情報(家庭環境などの属性データ)との関連まで検討できていない。一方,教育社会学的研究でも,従属変数となる「学力」は一次元上の潜在特性尺度値であることがほとんどである。bi-factorモデルを使うことで,テストの下位領域ごとの学力に対して背景情報との関連を検討できることとなる。このような心理測定学と教育社会学研究のハイブリッドな試みが期待される。
発表当日には,実際のテストデータを用いた分析事例を示す。
謝 辞
本研究の遂行にあたって,東北大学教育ネットワークセンター「大学院生プロジェクト型研究」の助成を受けました。また,萩原康仁先生(国立教育政策研究所)にご助言をいただきました。ここに記して感謝申し上げます。