日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH01] 大学生のアイデンティティの形成と文化的自己観の関係

教員養成大学の学生と総合大学の学生の比較から

岩佐康弘 (京都教育大学大学院)

キーワード:アイデンティティの形成, 教員養成大学, 文化的自己観

問題と目的
 将来の目的に関するアイデンティティのプロセスについて,中間他 (2014) はDIDS-J(多次元アイデンティティ発達尺度)によって5つのアイデンティティ・ステイタス(拡散型拡散(DD),早期完了(F),探索モラトリアム(SM),達成(A),無問題化型拡散(CD))を示した。そして,大学によって職業の志向性が異なると考えられるため,本研究では,まず総合大学と教員養成大学でアイデンティティ・ステイタス(以下ステイタス)の現れ方の差異を検討する。さらに,その各大学におけるステイタスによる文化的自己観(Markus & Kitayama,1991)の差異を検討する。文化的自己観は個人に内面化されることで,「相互独立性」(個の認識・主張など)あるいは「相互協調性」(他者との親和・順応など)という認知的表象が形成される(高田,2007)。先行研究よりアイデンティティの感覚と関連のある「相互独立性」と「相互協調性」はステイタスによる差異が想定される。
方   法
 手続き 関西圏内の大学生549名(教員養成大学407名,総合大学142名)に自記式の質問紙調査を実施。調査時期 2017年1月。使用尺度 相互独立性・相互協調性(文化的自己観)尺度 (Uchida & Kitayama, 2004),DIDS-J(中間他,2014)。
結果と考察
 総合大学 総合大学の学生のDIDS-Jの尺度得点に対してクラスター分析を行ったところ,中間他 (2014) と同様に「CD(30%)」「DD(19%)」「F(24%)」「A(10%)」「SM(17%)」の5群に分かれた。次に,「文化的自己観」(2) ×ステイタス(5) の2要因分散分析を行ったところ,交互作用がみられ,「文化的自己観」下位尺度得点におけるステイタスの単純主効果が有意であった。多重比較の結果,「相互独立性」はAとSMがCDとDDより有意に高く,FがCDより有意に高かった。「相互協調性」はDDとSMがCDとAより有意に高かった。これらより,将来に関する探求をしたりコミットメントを形成したりしている群は他群より,自身の考え・意見を重視していることが示唆された。他方,反芻的探求が高い群は他群より,他者との協調を優先していることが示唆された。
 教員養成大学 教員養成大学の学生のDIDS-Jの尺度得点に対してクラスター分析を行ったところ,中間他 (2014) と一部異なり,「CD(3%)」「DD(10%)」「軽度無問題型拡散(L・CD ; 30%)」「軽度探索モラトリアム(L・SM ; 37%)」「A(18%)」の5群に分かれた。教育大学は兼ねて「早期完了」の大学生の不適応が問題視されていたが今回の研究では抽出されず,代わりにあまり将来に関する探求やコミットメントの形成が少ない群が約70%を占めたため,背景の検討の余地はある。次に,「文化的自己観」(2) ×ステイタス(5)の2要因分散分析を行ったところ,交互作用がみられ,「文化的自己観」下位尺度得点におけるステイタスの単純主効果が有意であった。多重比較の結果,「相互独立性」は,AがL・SMより有意に高くL・SMがCD,DD,L・CDより有意に高かった。「相互協調性」については,L・SMとAがCDとLCDより有意に高かった。これより,将来に関して探求をしたりコミットメントを形成したりしている群は他群より,自身の主張と同時に他者との調和を重視していることが示唆された。
総合考察
 ステイタスの現れ方の差異に関しては,Fが総合大学にしか現れず,教員養成大学ではL・CDとL・SMが大部分を占めため,大学による職業の志向性が反映された可能性が考えられる。また,ステイタスによる文化的自己観の差異に関して,アイデンティティが達成している群は他群に比べ「相互独立性」は高いという点は共通しているが教員養成大学に関しては,「相互協調性」も高いため,将来の目的に関するアイデンティティのプロセスにおける文化的自己観の差異が大学間で示唆された。