The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH15] 教師のキャリアを描像する分析手法の現在と展望

教職キャリアの発達課題仮説の提案II

長谷守紘1, 吉田満穂#2 (1.名古屋大学大学院, 2.就実大学)

Keywords:教職キャリア, ライフライン法, TEM(複線径路・等至性モデル)

問題と目的
 教師のキャリアを描像する分析手法の開発に向けて,現在の論点を整理し,今後の展望を述べる。
方   法
 教師のキャリアを描像する分析手法として必要な基本的視座を整理する。その上で,古今2つのアプローチを取り上げ,教師のキャリアを描像する可能性を検討する。最後に,ライフライン法による教師のキャリアを描き出す試みを提案する。
結果と考察
1.基本的視座
(1)時間(time) 個人時間,社会時間,歴史時間という3つの時間が束ねられており(山﨑,2012),時間軸に沿って出来事を捉えることによって,教師のライフコースを描いたり,教師のライフステージを見出すことができる。
(2)転機(turning point) 転機とは人生の方向を決定づけた質的な変動であり,ライフイベントを経験することは個人にとって危機となる。危機は,人生の「転機」,あるいは分かれ道となるようなイベントである(齋藤・本田,2001)。「転機」をつなぎ合わせていくことで,教師のキャリアを描像することが可能になる。
2.2つのアプローチ
 ライフライン法とTEM(複線径路・等至性モデル)は,ともに時間を捨象することなく,人生の転機を描像しようとする質的研究法である。
(1)ライフライン法 ライフライン法は,ライフコースにおける転機について自覚を促すことで,自らの成長を視覚的にわかるような手立ての必要性を示したブラマー(1994)によって考案された。50代成人男性54人を対象とした下村(2009),保育士1名を対象とした香曽我部(2012)の研究があり,キャリアにおける発達の多様性の理解,モデルの生成,危機の解明の可能性を示した。
(2)TEM(複線径路・至等性モデル) TEMとは,個々人がそれぞれ多様な経路をたどったとしても,等しく到達するポイント(等至点:Equifinality Point;EFP)があるという考え方を基本とし,人間の発達や人生経路の多様性・複線性の時間的変容を捉える分析・思考の枠組みである(荒川・安田・サトウ,2012)。初任保育士1名を対象とした上田(2014)や熟練期の保育士6名を対象にした香曽我部・松延(2014)の研究では保育士の成長プロセスを描像しており,教師のキャリア分析への適用も考えられる。
3.教師のキャリアを描き出す試み
 Figur1は,公立中学校教諭(30代男性)が描いたライフラインである。横軸を「時間」,縦軸を「充実・幸福」としてラインを描き,転機となった出来事を書き加えて作成した。下部には,職場と家庭それぞれにおいて,転機となった出来事に与えた影響を記載した。さらに,全体をステージに区切り,上部に小見出しを付けた。別シートには,ステージごとに「危機」(転機のきっかけや悩み)と「獲得資源」(支えや成長)を記入した。
 ライフラインを描くことで,教師のキャリアにおける転機を振り返り,各ステージにおける「危機」と「獲得資源」を明確化することができた。また,出来事に与えた影響を省察することで,個人時間だけでなく,社会時間も視野に入れてキャリアを描くことが可能になった。ライフライン法は自己分析ツールとして簡便に実施することができ,教職キャリアの発達段階仮説を検討する手段としても有効であると考えられる。
文   献
山﨑準二(2012).教師のライフコースと発達・力量形成.小島弘道監修 「考える教師」-省察,創造,実践する教師.学文社./齋藤耕二・本田時雄(2001).ライフコースの心理学.金子書房./ブラマー(1994).人生のターニングポイントー転機をいかに乗りこえるか 楡木満生・森田明子訳 ブレーン出版/下村英雄(2009).成人キャリア発達とキャリアガイダンス――ライフライン法の予備的分析を中心とした検討―― 独立行政法人労働政策研究・研修機構ディスカッション・ペーパー,7,37-77./香曽我部琢(2012).小規模地方自治体における保育者の成長プロセス――保育実践コミュニティの形成のプロセスに着目して―― 東北大学大学院教育学研究科研究年報,60(2),125-152./ 荒川歩・安田裕子・サトウタツヤ(2012).複線径路・等至性モデルのTEM図の描き方の一例 立命館人間科学研究,25,95-107./上田敏丈(2014).初任保育士のサトミ先生はどのようにして「保育できた」観を獲得したのか?――保育行為スタイルと価値観に着目して―― 保育学研究,52(2),232-242./香曽我部琢・松延毅(2014).公立保育所保育士の成長プロセスと実践コミュニティ-グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)と複線径路・等至性モデル(TEM)の比較 宮城教育大学紀要,48,167-180.
謝   辞
 本研究は科学研究費補助金挑戦的萌芽研究,16K13542「教職キャリアにおける発達課題の基礎研究」(代表高木亮)の助成を受けた。