The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH16] アクティブ・ラーニングにおけるコミュニケーション活動がジェネリックスキルや学習意欲に及ぼす効果

田村美恵 (神戸市外国語大学)

Keywords:アクティブ・ラーニング, コミュニケーション活動, 効果

 近年,大学教育における学びの質的転換に向けた動きが加速している。そこでは,単なる知識の習得を越えて,次代を生き抜くためのより汎用的な知(ジェネリックスキル)の養成が求められ,それを可能にする「共有すべき授業改善の視点」(文科省,2016)として,アクティブ・ラーニングの重要性が強調されている。
 アクティブ・ラーニングの主要素は,他者とのコミュニケーション活動である。しかし,それが実際にジェネリックスキルの育成や学習への動機づけにどのような効果を及ぼすのかについては,十分検証されていない。本研究では,アクティブ・ラーニング型授業を1学期間行い,参加者のコミュニケーション活動の経時的変化について検討するとともに,それらとジェネリックスキル,及び学習意欲との関連について検討する。
方   法
 調査対象者 神戸市外国語大学で2016年度前期に行われた「人間関係論1」の受講者33名。
 授業概要 週1回90分の授業で,テキストの内容確認を主体とした講義回と,グループ・ディスカッションを主体とした演習回を1セットにした授業形態を取っている。グループ・ディスカッションは4~5名で行われ,講義回にも挿入される。
 調査内容 (1)コミュニケーション活動の測定 「積極的発言」「場の進行」「他者意見の傾聴」「脱線」「発言抑制」の5つのカテゴリーを設定し,各2個の質問について7段階で評定してもらった。
 (2)ジェネリックスキルの測定 辻・杉山(2015)に基づき,「対人関係能力」「自己管理能力」「課題解決能力」の各カテゴリーから2項目ずつ選出し,それぞれについて7段階で評定してもらった。
 (3)学習意欲の測定 授業に対する履修意欲に関する2項目,ラーニング・ブリッジに関する2項目について,7段階で評定してもらった。
 手続き 調査は,ほぼ1ヶ月毎に3回(調査1~調査3),演習回の授業終了前10分間に行った。
結果と考察
1.経時的変化について
 コミュニケーション行為,ジェネリックスキル,学習意欲の各項目について平均評定値を算出し,調査時期(調査1~調査3)を繰り返し要因とする分散分析を行った。
 コミュニケーション行為については(Figure1),場の進行において,調査時期の主効果が見出され(F=4.27, p<.05),また,積極的発言(F=3.50, p<.10)と他者意見の傾聴(F=2.81, p<.10)では,有意な傾向が見出された。これらは,アクティブ・ラーニングの反復につれて,ディスカッションへの関与的行為が増加することを示している。一方,脱線や発言抑制では,調査時期の主効果が得られず,これらは,全時期を通じて,一定程度生じていた。
 ジェネリックスキルについては,対人関係能力においてのみ,調査時期の主効果が有意であり(F=8.52, p<.01),時間経過に伴い,能力の向上が実感されていた。自己管理能力(F=2.91, p<.10)や課題解決能力(F=.16, n.s.)では調査時期の効果は有意でなく,経時的変化が殆ど見られなかった。
 学習意欲については,全調査時期を通じて,意欲の高い状態が維持されていた(M=5.50~5.72)。
2.コミュニケーション活動がジェネリックスキルや学習意欲に及ぼす影響
 調査時点毎に,5つのコミュニケーション行為を説明変数,3つのジェネリックスキルと学習意欲を従属変数として重回帰分析を行った。その結果,積極的発言は,対人関係力(β=.56)や課題解決力(β=.80)と,場の進行は,自己管理力(β=.61)と正の関連を示し,ジェネリックスキルにポジティブな影響を及ぼすことが見出された。 
 一方,他者意見の傾聴は,調査1では,自己管理能力に負の関連を示したが(β=-.39),調査2では,逆に,正の関連(β=.36)を示した。傾聴は,他者理解を促進する一方,自身の意見表明を抑制するという面も持つ。アクティブ・ラーニングの初期には,不慣れさも相俟って,後者の面がストレスを生じさせ,自己管理力の低さとして感じられるのかもしれない。一方,アクティブ・ラーニングの中盤以降は,それはむしろ,自他の相違を見つめ,自己理解を深めうるものとして肯定的に捉えられるようになるのではないだろうか。