日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH18] 理科の『落書き』を使って描きながら考える力の育成(Ⅰ)

中学校理科 地球と宇宙の学習において

谷本薫彦1, 荒尾真一2 (1.岡山県津山市立津山西中学校, 2.岡山大学)

キーワード:描きながら考える, 地球と宇宙, 理科

研究の目的
 公立中学校の理科の学習で,観察,実験結果から思考を深めてそれを直接言語化する行為は極めてハードルが高い。そこで,考えを文章化することへの取り掛かりとして,図に描かせて文字を補助的に使って考えを表現させる研究を行った。(2015谷本ら)。 
 その結果,学力上位層と上位層が複数いる班の中・下位層の生徒については,図を描かせることで事象・現象の理解や,自分の考えをまとめる能力が高まっていくことが確認できた。しかし,上位層の生徒が0から1名の班ではあまり効果が見られなかった。その原因を,①中下位層では図にしながら考え始めるにはハードルが高い,②図にできたのが1名だけなら議論が深まらない,と考えた。
 そこで,いきなり図を描かせて文字で説明させるのではなく,「落書き」をツール化したVisual Alphabet(以下VA)の手法を導入することで,目の前の現象や自分の考えを形にしやすいのではないか,形にすることさえできれば,思考が進むのではないかと考えた。
《研究仮説》
 VAを表現ツールとして使わせると中下位層の生徒でも,目の前の情報や思い付きを表現しやすくなると考えた。すると上位層の生徒が0~1名の班内でも図にできる生徒が複数になり,科学的思考が深まるのではないか。
研究の方法
(1)具体的な教育操作
 描きながら考えるというコンセプト伝え,理科室にVA(Figre1)を掲示し,必要に応じて意識させるようにした。
 慣れてくると,従来からある理科のモデル図もVAの集合体のように捉えることができ,モデル図を生み出すことのハードルが下がる。そして,不完全ではあるが考えが形になることで班での話し合いが進むのではないかと考えた。この操作を従来の理科の科学的思考の場面に組み込んで授業を設計した。
(2)調査及び評価
・情意的側面は「理科の授業で実験や観察を通して,自分の考えをまとめることができている」に関するアンケートを,前後で比較する。また,認知的側面は評価問題とOPPシートの記述から分析する。
(3)研究対象及び期間
 公立中学校 3年生 127名
 H.28年5月〜 H.29年3月
 中学校理科3年生の全授業(班別学習)
結果と考察
 情意的側面については,「理科の授業で実験や観察を通して,自分の考えをまとめることができているか」の調査を全生徒に行った結果,事前では肯定が44%であったが事後は肯定が81%になった。
 上位層が0~1名の班のみで上記調査を分析すると,事前で肯定44%であった。そのうち事後も引き続き肯定なのは90%,事前に否定が56%でそのうち事後が肯定に変わったもの64%であった。
 認知的側面については,VAを取り入れて5か月後に「地球と宇宙」(20時間)の単元で調査を行なった。事前にあいまいだった科学的概念が,明確になった生徒と,上記情意的側面の事後調査で肯定したものとの相関がみられた。
 以上の結果から,VAを授業に取り入れるのは科学的思考に効果的であることが示唆された。(本研究は武田科学振興財団の助成を受けて実施した。)
参考文献
 (2015科研費奨励研究15H00046:思考過程の共有による科学的思考・判断・表現力の育成に関する教育心理学的研究)