日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH20] 大学若手教員の教育観に関する一考察

FDに関するインタビューの結果から

新原将義1, 久保田祐歌#2 (1.徳島大学, 2.三重大学)

キーワード:高等教育, FD

問題と目的
 近年,大学教員初任者を対象として,大学教員のストレスやそれに対する支援の必要性を取り上げた知見が報告され始めている。しかしこれまでの知見は,①それぞれの授業のなかでの困難にのみ焦点が当てられており,個々人の授業を超えた組織的な取り組みとしてのFDが視野に入っていない,そして②初任者が大学教員としての経験を積む過程で,教育活動やFDについてどのような学習が生起しているのかが検討されていない,という2点において限界が指摘できる。FDや大学教育に関わる用語の定義や議論は,個々の大学内に収まるものではなく,教育・学習に関する学術的な潮流や,社会的な情勢において大学に求められる役割の変遷にも影響を受けるものである。こうした社会的・文化的な広がりを視野に入れながら大学教員の学習過程を記述することは,今後の大学教育のあり方や教員の支援の方策について考える際,必須の観点となり得るものであるといえよう。
よって本研究では,大学教員が自らの教育活動及び大学でのFDを通してどのような学習を行っているかについて,学習を実践コミュニティや社会・文化的人工物との関係の形成と捉える状況的学習論の観点から明らかにすることを目的とする。
方   法
 本研究では,調査・分析を進める方法論として修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)(木下,2003)を採用した。
本研究ではまず分析テーマを「若手大学教員は自らの教育活動とFDをどのように語るか」と設定し,これに伴い分析焦点者を「大学生に対する講義を担当している若手大学教員」,調査対象者を「学生に対する講義を担当している,着任15年以内の大学教員」と定めた。この調査対象者の条件に当てはまる大学教員に調査への協力を打診した結果,2016年7月に,地方国立大学に勤める5名の教員に対して調査を実施することとなった(表1参照)。

結果と考察
 5名の教員に対する調査結果に対し,オープンコーディングを実施した結果,65の概念が生成された。この中で,特に大学でのFDに強く関わると考えられる概念として,表2に示す13の概念が得られた。

 上記の結果から,教員の立場からのFD及び教育実践への意味づけには,社会的な情勢や大学・学部運営の方針のような,教員個人の取組を超えた社会的な動きが強く影響していると考えられる。またこのほかの結果から,他の教員が行う授業や,授業評価アンケートの結果といった,教員が教育実践を展開させる上で強いリソースとなり得る対象へのアクセスが強く制限されていることが示唆された(表3参照)。
参考文献
木下康仁(2003)グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践-質的研究への誘い 弘文堂