日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH23] 英語授業の目標認知と予習方略の関連

信念・動機・認知に着目した影響プロセスの検討

篠ヶ谷圭太1, 木澤利英子2 (1.日本大学, 2.東京大学)

キーワード:予習, 目標認知, 英語学習

問題と目的
 これまで,英語学習における予習方法に関する先行研究では,学習者の持つ学習観や学習動機,さらには,予習に対する有効性の認知によって方略使用が影響を受けることが指摘されてきた(篠ヶ谷, 2010; Shinogaya, 2015)。また,篠ヶ谷(2014)では,教師の授業方略も予習方略に影響を及ぼすことが報告されている。
 一方,学習方略に関する先行研究では,授業から学習者がどのような目標を読み取るかといった,「目標認知」の重要性が指摘されている(e.g., Wolters, 2004)。ただし,先行研究では,学級において理解を深めることが重視されているか,高い成績を示すことが重視されているかといった,達成目標理論(Elliot & McGregor, 2001)の枠組みが用いられており,教科に即した授業目標の認知の影響が検討されているわけではない。特に,英語の学習指導では,「単語や文法などの知識を身につけること」,「外国の文化を理解すること」など,様々な要素が重視されており(文科省, 2008),そうした授業からどのような目標を受け取るかで,日々の予習方略が影響を受けることが予想される。
 そこで本研究では,学習観や学習動機,予習に対する有効性の認知の影響も考慮しながら,英語授業の目標認知が学習者の予習方略に与える影響について検討を行った。
方   法
 東京都の公立中学校1校の中学1年生に質問紙調査を実施した。項目は予備調査を通じて収集した英語授業の目標認知に関する22項目,「英語の学習では知識のつながりを理解することが重要だ」など認知主義的学習観(CB: cognitive belief)に関する3項目,「内容が面白いから勉強する」など内容関与動機(CAMo: content-attached motive)に関する5項目,「予習は授業を理解する上で役に立つ」など予習に対する有効性の認知(PU: perceived utility)に関する3項目を用いた。また,予習方略は篠ヶ谷(2010, 2014)と同様,単語や文の意味を辞書で調べておく「準備方略」,辞書を使わず意味を自分で予測する「推測方略」,今までのノートを見直す「振り返り方略」,友達に聞く「援助要請」に関する15項目を用いた。なお,質問紙の表紙には回答は任意であること,回答内容は学校の成績と無関係であることを明記し,同意を得た197名に5件法で回答してもらった。

結   果
 まず,授業目標の認知に関する22項目について探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ったところ,「知識(単語や文法を身につけること)」「異文化理解(外国の文化を理解すること)」「反復(同じフレーズを何度も繰り返すこと)」「レクリエーション(英語に慣れ親しむこと)」の4因子が抽出された。次に,各変数について因子ごとに項目平均値を算出し,パス解析を実施した。モデル構築の際には媒介変数としてCB,CAMo,PUを想定し,授業の目標認知と予習方略の間に直接のパスを想定しないモデル(間接モデル)と,直接のパスを想定するモデル(直接間接モデル)の比較を行ったところ,後者におけるモデルの方が高い適合度を示した(Table 1)。

考   察
 直接間接モデルでは,先行研究(篠ヶ谷, 2010, 2014; Shinogaya, 2015)と同様,CB,CAMo,PUが様々な予習方略と正の関連を示しただけでなく,「知識」の目標認知はCB(β= .251, p < .01)やCAMo(β= .180, p < .01)と正の関連を示し,「異文化理解」もCAMoと正の関連を示した(β= .240, p < .01)。また,「異文化理解」は推測方略とも正の関連を示し(β= .201, p < .01),「反復」は準備方略と負の関連を示した(β= -214, p < .01)。こうした結果は,学習者の信念や動機,有効性の認知を介さずに,授業目標の受け取り方が直接予習行動に影響を及ぼすことを示すものである。
 ただし,本研究では教師の授業方略に関する測定を行えていない。今後は,教師の実際の授業方略も測定し,教師の授業方略と学習者の授業目標の認知が,学習者の予習行動に与える影響とそのプロセスを検討していく必要があるといえる。