日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH24] 小学生に対する対話促進ツールを用いた協働学習の支援

高学年クラスにおける実践についての検討

生井裕子1, 中島久樹#2, 山下徹#3 (1.清泉女学院大学, 2.マナビクリエイト, 3.東京都北区立袋小学校)

キーワード:小学生, 対話の促進, 協働学習

問題と目的
 近年,学校現場においてはアクティブ・ラーニングの学びが注目されており,小学校でも子どもが能動的・主体的に学ぶ力をどのように促進するかをテーマに,様々な研究や教材開発(斎藤・新垣2010,小池他,2015など)が重ねられている。本研究では,小学生が協働学習の学びの形式において,内省力や対話力を伸ばせるよう開発されたツールを活用したワークの実践を報告し,実践の効果及び「子どもがワークをどのように体験したのか」の変遷を明らかにすることを目的とする。

方   法
【調査協力者】都内小学校の高学年一クラスに在籍する生徒39名(男子19名,女子21名)
【使用ツール】中島(2016)により開発された,リフレクションカードKidsを用いた。このカードは,(1)テーマの設定(主人公が自分のエピソードを語る),(2)話す内省(サポーターが主人公に対し,質問カードを用いて質問する),(3)聞く内省(サポーターが気づいたことを主人公にフィードバックする),(4)気づきの言語化(主人公が気づきを語る)という4ステップで構造化されており,安全にかつ簡単に深い対話が促進されるように工夫されたものである。
【実施期間及び実施構造】X年1月〜3月の2ヶ月間,特別活動及び学級活動の時間の中で,リフレクションカードKidsを用いた全8回のワークを実施した。ワークの実施前に,生徒の中でファシリテーターを養成するため,X年5月〜12月の間に,教員及び生徒が対象生徒を選出し,放課後にワークを12回実施した。計10名の生徒が1月からの実践でファシリテーターとして参加した。グループは4人1組を基本とし,1回のワークで1人が主人公を体験,4人全員が主人公を体験した後にグループメンバーを変更する形式で実施した。
【調査方法】ワークの実施前と実施後に,質問紙形式のアンケートを実施した。アンケートはクラスの雰囲気や友達との関わり方,質問の上手さについて問う内容の10項目(4件法)を筆者らが独自に作成して用いた。また,「リフレクションをやってよかった理由」「身についた力」「感想」についての自由記述を求めた。また,8回のワークの後には毎回,感想シートの記入と提出を求めた。

結   果
【事前事後アンケート】アンケートで実施した10項目のうち,9項目については得点に有意差がみられなかった(t(33)>-1.00, t(33)<.702, n.s.)。項目3「悩みがあるときはクラスの友達に相談できる」については得点の差に有意傾向がみられたが(t(33)=1.757, p<.10),想定していたものとは逆の結果であった。また自由記述より,「リフレクションをやってよかった理由」について,36の意見が抽出され,6つのカテゴリに分類された。カテゴリは,「普段は気づけないことに気づく(12)」「質問力が高まる(10)」「関係性が深まる(8)」「問題解決ができる(4)」「話し合いが深まる(2)」「変化がなかった(3)」であった。
【感想シート】「リフレクションをどのように体験したか」について記述された意見を抽出し,それぞれの回でカテゴリを作成した。本研究では特に,3回目と7回目のカテゴリに注目することにした。
 第3回目では,117の意見が抽出され,内容ごとに23のカテゴリを作成,その後以下の6つの上位カテゴリに分類された。カテゴリは,「意外な気付き・発見があった(26)」「上手な質問ができた(8)」,「話が深まった(7)」「質問が困難だった(30)」「話が深まらない(22)」「グループやメンバーに対する不満(24)」であった。また,第7回目では,107の意見が抽出され,内容ごとに19のカテゴリを作成,その後以下の7つの上位カテゴリに分類された。カテゴリは,「気づきや発見・自他の理解が深まった(33)」,「上手な質問ができた(23)」,「話が深まった(7)」,「自己開示の受容により自信がついた(7)」,「質問が困難だった(8)」,「話が深まらない(20)」,「緊張や焦りを感じた(4)」であった。

考   察
 3回目のワーク実践後には,グループメンバーへの不満,質問の困難さや話の深まらなさを挙げる意見が多かったが,7回目では,不満のカテゴリがなくなった他,上記カテゴリのいずれもが減少した。また,7回目では「自己開示の受容により自信がついた」という,深い対話の促進が伺えるカテゴリが見出された。また,「緊張や焦りを感じた」というカテゴリも新たに見出されたが,これは深い対話が促進された裏側の感情表出であるとも考えられ,質問紙の結果(クラスの友達に相談しにくい得点が上昇)と関連すると考えられた。