The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH29] ゆるし傾向性と認知的感情制御方略との関連の検討

山本琢俟 (早稲田大学大学院)

Keywords:ゆるし傾向性, 認知的感情制御, 大学生

問題と目的
 高田(2014)によると,日本におけるゆるし傾向性とは「ネガティブなものの消失」であり,宗教的要因および侵害者との関係における日本と海外との差を考慮して,定義に「ポジティブなものの生起」までを含める必要はないと述べている。
 ゆるし傾向性はウェルビーイングや精神的健康と正の関連があることが示されており(Thompson & Snyder,2003),侵害経験から生じるネガティブな結果の拡大を防止するために重要なものとされている(石川・濱口,2007)。また,石川・濱口(2010)や石川(2011)は,ゆるし傾向性から原因帰属やネガティブな反すう,抑うつへの影響を検討した研究で,失敗場面において,他者へのゆるし傾向性と自己への消極的ゆるし傾向性から自分の能力や性格への帰属を媒介して抑うつに至るパスやネガティブな反すうを媒介して抑うつに至るパスを示している。
 石川・濱口(2010)や石川(2011)で取り上げられている原因帰属やネガティブな反すうは,認知的感情制御(cognitive emotion regulation)(Garnefski,Kraaij,& Spinhoven,2001)の一部の因子と類似している。つまり石川・濱口(2010)や石川(2011)の研究は,ゆるし傾向性と認知的感情制御および認知的感情制御と抑うつとの関連を示唆するものであると考えられる。
 しかし,従来の研究では,ゆるし傾向性と認知的感情制御における「自責」,「他者非難」,「反すう」,「破局的思考」の側面との関係を間接的に示すだけで,これ以外の「肯定的再評価」,「大局的視点」,「受容」,「肯定的再焦点化」,「計画への再焦点化」といった側面との関連は明らかにされていない。
 榊原(2015)は,認知的感情制御と抑うつが,相関関係にあることを示している。このことからも,ゆるし傾向性と認知的感情制御のすべての側面との関連を調査することで,ゆるし傾向性が抑うつへ影響を与える際の媒介変数として認知的感情制御が存在している可能性を広範囲に網羅できるのではないかと考えた。
 そこで本研究では,ゆるし傾向性と9つすべての認知的感情制御との関連について検討を行うこととする。
方   法
調査対象 大学生と大学院生合わせて188名(男子92名, 女子96名)。
調査時期 2016年11月半ば
使用尺度 1)石川・濱口(2007)の「ゆるし傾向性尺度」23項目。評定は,「4,はい」~「1,いいえ」の4件法である。
 2)榊原(2015)の「日本語版Cognitive Emotion Regulation Questionnaire(CERQ)」36項目。評定は,「5,いつもある」~「1,ほとんどない」の5件法である。
結果と考察
 日本語版CERQ(榊原,2015)の因子分析の結果,榊原(2015)と異なり8因子構造を示したため,「受容」と「自責」を同一因子とみなし「受容と自責」と命名した。
 ゆるし傾向性において,各因子の平均値を基準として被験者を高群・低群の2群に分け,3要因分散分析(他者へのゆるし傾向性高低×自己への消極的ゆるし傾向性高低×自己への積極的ゆるし傾向性高低)を行った。その結果,破局的思考,受容と自責,他者非難,肯定的再焦点化に関しては,先行研究(石川,2011;石川・濱口,2010;大工原・奥野・沢宮,2013)と矛盾のない結果が得られたため,上記以外の認知的感情制御のうち,主効果の確認されなかった大局的視点を除いた3つ(肯定的再評価,計画への再焦点化,反すう)について,個々に取り上げる。肯定的再評価について,他者へのゆるし傾向性,自己への消極的ゆるし傾向性,自己への積極的ゆるし傾向性の主効果(順に,F(1,165)= 6.20,p<.05;F(1,165)= 4.88, p<.05;F(1,165)= 36.07, p<.001)が有意であった。この結果から,各因子高群のほうが各因子低群よりもネガティブな出来事にポジティブな意味を置く傾向にあり,ゆるし傾向性の高さが,ネガティブな出来事に対してポジティブな再評価を促すということを示している。計画への再焦点化について,自己への積極的ゆるし傾向性の主効果(F(1,165)= 8.41, p<.01)のみが有意であった。この結果から,自己への積極的ゆるし傾向性高群の方が同低群よりもネガティブな出来事を改善するためにどのように対処するか考える傾向にあり,自己への消極的ゆるし傾向性が高い人は, ネガティブな出来事に遭遇したとき, ネガティブな反応の減少には力を注ぐが, その出来事にどう対処を行うかという側面とは関係がないといえる。反すうについて, 自己への消極的ゆるし傾向性の主効果(F(1,165)= 32.55, p<.001)のみが有意であった。この結果は,石川(2011)がネガティブな反すうに対して他者へのゆるし傾向性からも負のパスを確認したことと矛盾しているように感じる。本研究で用いた日本語版CERQの反すう因子では,出来事に関する気持ちや思考がネガティブであるかどうかは指定していないが,石川(2011)の用いた伊藤・上里(2001)のネガティブな反すう尺度では,考える対象がネガティブな感情を抱いているものであることが前提である。このことから,ネガティブな感情を抱いているものに対してのみ,他者へのゆるし傾向性が反すうの生起要因となることが示唆された。これは,ゆるし傾向性の定義である「ネガティブなものの消失(高田,2014)」に沿うものであるが,本研究で,気持ちや思考をネガティブなものに限定せずとも自己への消極的ゆるし傾向性からの主効果が確認されたことにより,自己へのゆるし傾向性に関しては今後,定義をより詳細にする必要が示唆されたといえる。