日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH39] 中学校の理数系教科書における問いの機能に関する検討(3)

数学的理解を促すための問いの並びに着目して

小田切歩1, 石橋優美2 (1.日本学術振興会特別研究員, 2.共立女子大学)

キーワード:理解, 教科書, 中学生

問題と目的
 教科書の問いは,教科内容に関する学習者の理解を促すために設定されている。その問いの構成に関して,算数科の教科書については,学習者が既習内容を活用して自力解決できる問いを,連続して解決する過程で,新たな数学的概念や知識,方法を学べるよう編集されている(高橋,2013)との指摘がある。一方,数学科の教科書については,このような指摘はみられない。そこで本研究では,中学校数学科の教科書の問いが,学習者の数学的理解を促すという機能を果たしているのかを明らかにするため,それらの問いの並びが,学習者の理解の認知プロセスに対応しているのかを検討する。なお,本研究では,「理解すること」を「知識を関連づけること」と捉え,理解の認知プロセスを,知識の関連づけのプロセスとして示す。
方   法
 調査対象 東京都の公立中学校において占有率の高い3社の,中学校課程3年間分の数学の教科書(平成22年度発行)9冊を用い,本編(発展的内容は除く)中の問いを分析対象とした。
 手続き まず,教科書本編中の,新たな学習内容の理解に関係のある問いをすべて取り出した。そして,各問いを,その前に記述されている,定義や定理の解説および例題との関係をもとに,知識の関連づけのプロセスと対応させ, 4つのカテゴリー(Table 1)に分類した。さらに,知識の関連づけに関する2および3の問いを,各問い以前の,関連する0,1および0,1,2の問いの有無によって,4つおよび8つのカテゴリーに分類した。そして,学年ごとに各カテゴリーの問いの数を3社分合計し,さらに3学年分を合計したものを,数学科全体の各カテゴリーの問いの数とした。
結果と考察
 まず, 2の問いに関する問いの並びについて,4つのカテゴリーの問いの数が同じ比率であるかを,一様性の検定により検討した(Table 2)結果,有意な差があり(p=.000),Holm法による下位検定の結果,0よりも1が有意に多く(p<.01),0よりもなしが有意に多かった(p<.001)。さらに,4つのカテゴリーの問いの比率に,学年間で違いがあるかを,カイ二乗検定により検討した(Table 2)結果,有意な差があり(χ2(6) =13.331,p<.05),残差分析による下位検定の結果,1年のなし(p<.05)と

3年の01(p<.01)が有意に少なく,1年の01と,3年のなしが有意に多い傾向で,2年の0が有意に少ない傾向であった(p<.10)。
 次に,3の問いに関する問いの並びについて,8つのカテゴリーの問いの数が同じ比率であるかを,Fisherの直接確率計算法(両側検定)により検討した(Table 3)結果,その差は有意傾向であった(p=.064)。また学年間の違いについても(Table 3),その差は有意傾向であった(p=.061)。
 以上より,中学校数学科の教科書においては,2の問いの前に,関連する0,1の問いが十分に設定されているとは言えないことが示された。また,学年間の違いについては,小中連携を意識したカリキュラム,および,既有知識の自発的な活用への期待の表れと推察される。しかし3の問いについては,その数が少なく十分に検討できなかった。