The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH44] マインドワンダリングが創造的な問題解決に及ぼす影響

精神的健康と感情状態に着目して

山岡明奈1, 湯川進太郎#2 (1.筑波大学大学院, 2.筑波大学)

Keywords:マインドワンダリング, 創造性, 精神的健康

問題と目的
 現在行っている課題や周りの環境から注意が逸れて,気がついたら無関係なことを考えていたという経験はないだろうか。このような現象をマインドワンダリング(以下,MWとする)と呼ぶ(Smallwood & Schooler, 2015)。
 先行研究において,創造的な問題解決や洞察問題に取り組んだ後,一時的に問題から離れている期間(あたため期)にMWを行うことで,その解決が増進されることが報告されている(Baird et al., 2012; Tan et al., 2015; 山岡・湯川,2016)。一方,あたため期中のMWの効果がみられなかったという報告もされており(Smeekens & Kane, 2016),慎重な検討が求められている。また,MWは特にネガティブなことを考えているときに,ネガティブ感情や抑うつといった精神的不健康さと関連することが指摘されている(e.g.. Hoffmann et al., 2016; Ruby et al., 2013)。従って,あたため期にMWを行うことで,創造性が増進されたとしても,精神的健康が損なわれる可能性が考えられる。
 そこで本研究では,MWを行うことで創造的な問題解決が増進されるかを,感情状態や精神的健康に着目して検討する。その際,MWや創造性と関連の深い,ワーキングメモリ容量を統制変数として分析に用いることとする。

方   法
参加者
 関東圏内の国立大学に通う大学生52名(男性19名,女性33名,平均年齢18.96歳,SD =1.21)が実験に参加した。
手続き
 予め質問紙で抑うつ傾向と不眠傾向を測定した。実験室に来室後ワーキングメモリ容量を測定し,1回目の創造性課題を行った。次に12分間のあたため期を設け,参加者は椅子に座っている群(MWが多い),創造性課題について考え続ける群(創造性課題に関する思考が多い),数独を行う群(どちらの思考も少ない)に割り振られた。その後,あたため期中の思考内容と感情状態を尋ねる質問紙へ回答を求め,2回目の創造性課題を行った。この際1回目と回答が重複しないよう教示した。
課題の内容
 創造性課題としてUnusual Uses Test (Guilford, 1967)を行った。参加者は段ボールと鉛筆の通常とは異なる使い方を,各3分間でできるだけ多く挙げるよう求められた。回答は流暢性・柔軟性・独自性の観点から採点され,それぞれ得点化された。ワーキングメモリ容量の測定には,短縮版OSPANと短縮版SSPANを用いた(Oswald et al., 2015)。
質問紙の内容
 抑うつ傾向の測定には日本語版CES-D(島ら,1985)を用いた。不眠傾向の測定には日本語版Athens Insomnia Scale (Okajima et al., 2013)を使用した。あたため期中のMWは,ストレス状態質問紙の下位項目である課題無関連妨害思考を測定する8項目を用いて測定した(奥村ら,2004)。あたため期中に創造性課題について考えていた頻度を7件法の単項目で尋ねた。感情状態の測定には日本語版PANAS(川人ら,2011)を用いた。

主な結果と考察
 ワーキングメモリ容量を共変量とし,あたため期の群によって2回目の創造性課題の得点に差があるかを共分散分析で検討したところ,有意な差は見られなかった。そこで,MWの生起頻度(高・低群)によって参加者を群分けして同様に分析を行ったところ,MW高群の方が低群よりも,2回目の創造性課題の柔軟性得点が有意に高いことが示された(F (1, 49) = 4.08, p < .05, ηp2= .08)。
 さらに,ワーキングメモリ容量を統制変数として,あたため期直後のネガティブ感情およびポジティブ感情と2回目の創造性課題の得点に関する偏相関係数を算出したところ,流暢性(r = -.36, p < .01)や独自性(r = -.30, p < .05)の増進程度が高かった人ほどポジティブ感情が低く,柔軟性が増進された人ほどネガティブ感情が高いことが示された(r = .32, p < .05)。
 これらの結果から,創造的な問題解決に取り組んだあと,MWを行うことで柔軟性が増進される可能性が示された。しかしながら,創造性得点が増進された人ほど,ネガティブ感情が高く,ポジティブ感情が低いことも示された。本研究の限界としては,あたため期中のMWの生起頻度自体が全体的に低かった点と,感情状態とMWの生起頻度の間に有意な相関が見られなかった点が挙げられる。