The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH43] 教室という弁証法(3)

教師と学習者の協働と捉える質問行動

社本歩1, 有元典文2 (1.横浜国立大学大学院, 2.横浜国立大学)

Keywords:対話的な学び, アクティブ・ラーニング, 大学教育

問題と目的
 質問行動には学習者の理解を促進する働き(生田・丸野,2004)や,対話的な学びを生む働き(藤井・山口,2003)があることが示されている。質問行動は学年が進むにつれて減少することが明らかにされており(生田・丸野,2004;藤井・山口,2004;川崎,2008),これらの研究は学習者が質問しない要因を学習者の個人内要因に帰結させている。それに対して,尾坂・山本(2014)は,大学生の質問生成過程に教員が介入することによって質問行動が促進されるという知見を示し,質問行動の促進に外的要因が影響を与える可能性を示した。
 人の行動を外的要因から捉える立場として社会文化的アプローチが存在する。ヴィゴツキー(2001)を援用しホルツマン(2014)はこの観点から発達を“道具と結果の弁証法”として説明している。本研究では,講義手法という道具が質問行動という結果にどのような弁証法を成すかに着目し,学習者の質問行動が学習環境と相互に影響し合い生起されると捉える。そしてこの視点から学生の質問行動に対する大学教員の意識を検討することを本研究の目的とした。
方   法
 2016年12月末から2017年1月初旬にかけて,大学教員17名を対象に半構造化面接を行なった。インタビュー項目は,Table 1に示す通りである。

 筆者と心理学を専攻する大学院生2名が後述の条件に基づいて合議を行いながらインタビュー内容の要約を作成した。要約の条件は,(1)質問項目に対する回答,(2)回答の理由や根拠について言及がある箇所,(3)質問に関する言及がある箇所,(4)アクティブ・ラーニングに関する言及がある箇所の4つとした。
結果と考察
 講義中の質問や発言に肯定的な回答をした大学教員は17名中,13名であった。具体的には,「意見や質問を極めて重要視しており,いろいろな質問,意見をできるだけ出してもらう形にするよう心がけている。」「講義中の発話が必須」などの回答があった。このことから大学教員の多くは,“問いのあるやり取りの場”を良い講義であると認識していたと推察できる。
 その一方で,自発的な質問や発言はないと回答した大学教員は17名中11名であった。具体的には,「教員が問いかけた時に質問をする学生が多く,自発的に質問をする学生は少ない」「教員から質問をし,学生に答えさせることはあるが,学生による自発的な発言はない」などの回答があった。このことから大学教員は学生は“主体的な問い”を発することが少ないと認識していたと推察される。
 質問や発言がないことへの対処法を回答した大学教員は17名中12名であった。具体的には,「学生にコメントの記入を求めそれに対する返答を書いて返却する」「講義部分を少なくし,グループワークを基本とした講義を行っている」などの回答があった。このことから大学教員は,主体的な問いがない現状に対し,講義手法に工夫を加えることで対処しようとしていたと推察される。
 以上のことから,大学教員は“問いのあるやりとりの場”を良い講義であると捉え,主体的な問いが発せられることが少ない現状に対して,質問行動を生起させる工夫を行っていたといえる。
 しかし講義手法を道具,質問行動を結果と捉えた場合,大学教員は質問行動と講義手法を切り離して考え,“結果のための道具”的に一方的に与えるものとして講義を捉えていると推察される。
 講義を“道具と結果の弁証法”的に捉えた場合,学生からの主体的な問いがないという講義の現状は,授業者と学習者,そのどちらかに原因があるのではなく,双方の相互行為によるものと考えられる。つまり,問いのあるやりとりの場とは,授業者と学習者が共に創りあうものであり,質問行動はその中で現れる現象であると考えられる。
 授業者だけでなく,学習者自身も授業を共に創りあげていることを自覚し,互いに“問いのあるやりとりの場”としての授業を構想していくことが重要なのではないかと考える。