The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH46] 主観的時間的距離感が精神的健康及び時間的展望に与える影響について

安藤舞 (甲南大学大学院)

Keywords:主観的時間的距離感

問題と目的

 主観的時間的距離感(以下,距離感)とは,過去の出来事に対してどの程度近く,または離れて感じるかという感覚である(Ross & Willson,2001)。これまでの研究において,自尊感情と適応感という精神的健康が距離感と関連することが分かっている(加藤・田上,2008)。しかし,自尊感情には特性自尊感情と状態自尊感情がある(箕浦・成田,2015)。先行研究で測定した自尊感情は特性自尊感情であると考えられる。特性自尊感情とは,パーソナリティ特性のようなある程度安定しているものである。一方で状態自尊感情とは,個人の経験や認知によって状態的に変化するものである。そこで本研究では,過去のネガティブな出来事に対する距離感が,特性自尊感情と状態自尊感情に与える影響の違いを検討することを第一目的とする。
 また,過去のある出来事に対して主観的な時間として距離を置くことが,循環的に未来に希望を持ち(未来),目標を持って充実した行動をとるために必要だとし(現在),過去を“過去化”することの重要性が指摘されている(白井,2008)。以上のような指摘から,過去の出来事に対して距離感をとることが,過去や現在,未来の展望に影響を与えていると考えられる。しかし,過去の出来事に対する距離感と時間的展望との関連を実証的に調査した研究は少ない。そこで,本研究では過去のネガティブな出来事に対する距離感が,時間的展望に与える影響について検討することを第二目的とする。

方   法

 調査協力者・調査時期 近畿地方に存在する私立大学に通う大学生120名を対象に,2017年4月に調査を行った。このうち記入ミスのなかった大学生117人(年齢M=19.37,SD=0.70,男性34名,女性83名)を分析の対象とした。
 調査項目 特性自尊感情尺度:山本他(1982)17項目,状態自尊感情尺度:阿部・今野(2007) 9項目,時間的展望体験尺度:白井(1994) 18項目。全て5件法で評定を求めた。距離感:加藤・田上(2008)を参考にして作成した。今も辛い思い出について「遠い昔のように感じる」から「昨日のことのように感じる」までの10件法で評定を求めた。
結   果

 特性自尊感情尺度,状態自尊感情尺度,展望体験尺度について因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った(.35以下の負荷量を示した項目を除外)。固有値の減衰状況と解釈可能性に基づき,以下の結果を抽出した。特性自尊感情尺度:特性自尊感情(10項目)。α=.89であった。状態自尊感情尺度:状態自尊感情(9項目).α=.91であった。展望体験尺度:将来への展望(7項目),過去へのとらわれ(6項目),現在への満足感(3項目),退屈感(2項目)。α=.71~α=.86であった。
 距離感を独立変数,特性自尊感情,状態自尊感情,過去へのとらわれを従属変数として単回帰分析を行った。結果をTable1とTable2に示す。
 距離感から特性自尊感情(β=-.19,p<.05),状態自尊感情(β=-27,p<.01),過去へのとらわれ(β=.25,p<.01)に対する標準偏回帰係数(β)が有意であった。一方で将来への満足感,現在への満足感,退屈感に対する標準偏回帰係数は有意ではなかった。
 過去のネガティブな出来事に対する距離感が特性自尊感情と状態自尊感情どちらにも影響を与えていた。しかし,状態自尊感情の方が特性自尊感情よりも比較的大きい影響を与えていることが分かった。時間的展望では,過去へのとらわれに影響を与えていた。ネガティブな出来事に対して距離感が近い人は,過去にとらわれている状態であると言える。本研究では今も辛く感じている出来事のみを調査したが,今後は肯定的に感じている出来事についても検討していく必要がある。