The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH67] 保護者の学校への苦情に関する調査研究

「クレーム」と「愚痴」という視点からの検討

日下虎太朗1, 橋本創一2, 三浦巧也3, 杉岡千宏4 (1.東京学芸大学大学院, 2.東京学芸大学, 3.東京農工大学, 4.東京学芸大学)

Keywords:教育相談, 保護者支援, クレーム

問題と目的
 近年,クレーマーの増加が様々な意味で社会問題になっている。消費生活センターの2015年度相談件数は約92万件で20年前の約3.4倍にも上っている。教育現場も例外ではない。内閣府(2013)によると,保護者の21.6%(小学校25.0%,中学校17.6%),つまり5人に1人が学校に苦情・要望を申し立てた経験があるとされている。こうした現象はポジティブ・ネガティブの両面から捉えることができる。このような現状に鑑み,その内容を分析し,学校側の適切な対応を検討していく必要があると考える。そこで,本研究は保護者から寄せられる苦情を「クレーム」と「愚痴」に分けて捉え,教師の経験と対応について調査し,学校現場の現状を明らかにすることを目的とした。特に,就学したばかりの小学校1年生の保護者は学校教育に関する知識不足,不安や悩みなどが多いことが予測される。そこで,小学校1年生の担任教師を対象として,これまでの経験を含めた回答を求めることとする。
方   法
調査対象:東京・埼玉の小学校685校(1学年担任)。
調査時期:2016年7~9月。
調査方法:下記質問紙を郵送にて配布・回収。
質問紙内容:(1)最も印象に残る保護者のクレームとその対応,(2)最も印象に残る保護者の愚痴とその対応,(3)最近の保護者の苦情に関する考え,を自由記述で回答依頼した(「クレーム(教師・学校への抗議や要望)」「愚痴(子供や自分について言っても仕方のないことや嘆くこと)」の恣意的定義を示して回答を求めた)。
分析方法:各記述をKJ法により分類・整理。
なお,本研究の調査協力及び発表について了解を得た上で,個人情報には十分に留意し,倫理的配慮を行った。
結   果
 返送された212名の教師の回答(回収率31.3%)を分析対象とした。回答者の平均教員年数は18.6年(SD:12.7),内訳は9年以下(32.5%)が最も多く,続いて30年以上(27.8%),10-19年(21.2%),20-29年(20%)であった。クレームの内容と対応,愚痴の内容と対応,最近の保護者の苦情について,自由記述から表に示した。クレーム・愚痴ともに,子育てや子供の扱いに関する内容が多かった。愚痴においては,家庭内の問題や保護者間のトラブルなど,保護者自身の不安や悩みに関する内容がみられた。一方,そうしたクレーム・愚痴への対応として,傾聴や面談という手だてがいずれも多くみられた。 最近の保護者の苦情の傾向から,主に「学校との連携に不適切さがある保護者」,「福祉的・物理的な支援を要する保護者」,「不安が強く,心理的な支援を必要とする保護者」,個人として性格特性や価値観に様々な偏りがある保護者」の4つのタイプが存在することが分かった。また,それぞれにはTable 3に表されるような下位タイプに分けられることがわかった。
考   察
 本調査は,「最も印象に残った」という回答であるため,とりわけ深刻で対応に窮した事例であると考えられる。また,クレームと愚痴への対応として,どちらも傾聴・面談,話し合うなどの時間をかけて保護者と向き合っている様子が多く伺えた。一方,クレームと愚痴はどちらも苦情ではあるが,保護者の意図や思い,または保護者の心理状態などに違いがあることが推測される。しかし,対応には大きな相違が見出されていない。愚痴の定義にあるように,聴くことで解決する場合もあるが,そこから教育相談や児童理解を進める機会に至っているはずであり,詳しく対応を掘り下げていく必要があるだろう。また(3)を見ると,様々な形で支援を必要としている保護者がいることが分かった。そこでその内容分類と同時に,保護者自身の支援ニーズや学校との連携パターン,親としての個性や考え方といったタイプごとに最も適切な対応を検討していく必要もあるだろう。