日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH70] 中国におけるいじめ·体罰·虐待の関連性

幼·小·中·高の教師へのインタビューの質的分析

陳佳怡1, 謝偉俊#, 戸田有一2 (1.名古屋大学大学院, 2.大阪教育大学)

キーワード:いじめ, 体罰, 虐待

問題・目的
 1990年の半ばごろから,中国のいじめが深刻な社会問題となった。張(2002)の調査では,週に1回以上いじめられたと報告した子どもは小学生で13.4%,中学生で7.1%であった。週に1回以上いじめたことがあった子どもは,小学生で4.2%,中学生で1.5%であった。加えて,小中学校のみならず,幼児園にもいじめ問題があることが報告されている。現在,中国の学校では,体罰・変相体罰(宿題を増やすなど間接的に生徒に苦痛を与えること)問題が未だに見られる。国策としては厳格に体罰は禁止されているが,それを無視し,体罰をする教師もいる。また,体罰事件の通告後,加害者の責任について追及するルールはなく,加害者を処罰するのも難しい。また,中国では児童虐待事件が多発しているため,児童虐待について多くの人が高い関心を持っている。
 本研究では,中国にある公立幼児園,小学校,中学校,高校の教師を対象としたインタビュー調査に基づく質的分析を行い,中国でのいじめ,体罰,児童虐待問題の関連性について検討する。

方   法
【調査時期】2016年8月および9月
【調査協力者】中国にある公立学校(幼児園,小学校,中学校,高校)に勤務する80名の教師。
【調査内容】調査協力者が今までに出会った子どもたちに関しての,いじめ・体罰・虐待の問題について,認知度や経験さらに,それらの関連性に関する考えを尋ねた。

結果・考察
 幼児園,小学校,中学校の段階で起こっているいじめ問題は,「身体的ないじめ」,「所有物への攻撃」,「言語的ないじめ」から仲間外れの「関係性のいじめ」へ,という順番で多く存在している。
 体罰と変相体罰の問題について,本研究の対象校が全て公立であるためか,特に幼児園と小学校では体罰が見られないが,教師の語りから,私立の幼児園と小学校では,まだ存在していることが明らかになった。特に,現在,教師の懲罰手段としての変相体罰が主流となっている。
 教師の立場からは虐待問題が発見しにくいためか,虐待問題の語りは少なかった。そして,「一人っ子政策」の影響から虐待問題が少ないと考える傾向がある。2015年からの「二人っ子政策」が幼児園に大きな影響を及ぼしている。幼児が「両親の関心が弟や妹に奪われた」,「両親に愛されていない」などと錯覚し,ネグレクトではないが同じような影響が出ている可能性も考えられる。
 教師によるいじめ問題の重大性の正しい認識や危機意識がまだ足りないと考えられる(石,2016)。但(2004)は,伝統的な教育理念や,未だ残っている「応試教育(受験での合格を目指す教育)」の観念の影響で,保護者が教師の変相体罰を黙認する傾向があると考えられる。虐待問題について,教師らの関心はまだ低いようだ。陳ら(2015)は,言うことを聞かない子どもを叩くことで教育するのは当然だと認めている教師と保護者が多く存在していると述べている。そして,教師の語りから,伝統的な「叩く」教育理念が保護者と教師の子どもを叩く行為につながっていることが推測される。家で両親の言うことを聞かない子どもは叩かれることが当然である,という共通認識を保護者と教師の両者が持っていることが明らかになった。
 いじめ・体罰・虐待の関連に関する教師の認識が正しければ,以前の被害経験(加害経験)を防止することにより,後の被害経験(加害経験)を抑止できる可能性がある。
 いじめ・体罰・虐待を別の問題としてではなく,関連する問題としてさらに詳しく検討する必要があろう。