The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

Mon. Oct 9, 2017 1:00 PM - 3:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

1:00 PM - 3:00 PM

[PH72] 教師における継承的指導実践を促進するコンサルテーション・プログラム項目の検討

教頭の具体的機能に着目したコンサルテーション・プログラム

井原啓裕1, 牧郁子2 (1.大阪府柏原市立玉手中学校, 2.大阪教育大学)

Keywords:継承的指導実践, 教頭, コンサルテーション

問題と目的
 大阪府の教員の年齢構成は20代,50代が多く35歳から45歳までが極端に少ないワイングラス型をしており(大阪府教育委員会,2009),熟練者が減少し新規採用が増加している。こうしたなか,従来職員室での会話を通じて若手教員に伝えられていた教師の指導文化が,協働性の低下により継承不全を起こしている可能性が指摘されている(堀,2012;吉田,2012)。そこで井原・牧(2015)は,教師における継承的指導実践を促進する組織の現状と今後の在り方について検討するため,教師における継承的指導実践尺度(井原・牧,2014)1の高群校及び低群校にインタビュー調査を行った。その結果,高群校では校長が教師集団の協働的な相互作用を学校運営において重視しており,教職員全体での役割をこえた協働が認められた(井原・牧,2016)。つまり油布(1999)が協働文化の形成要因と指摘した「相補性」「情報冗長性」が機能していた(井原・牧,2016)。さらにミドルリーダーを中心に教育実践が行われ,ナッレッジマネジメント(野中・紺野,1999)におけるSECIモデル「共同化」に近い組織的動きが形成されていた(井原・牧,2016)。ミドルリーダーである教頭は,児童・保護者・地域・教職員,行政・関係諸機関と接点を持ち,多くの情報を学校教育のスムーズな運営のために活かす立場にある(中村,2012)。また,校長とのコミュニケーション,教師集団への働きかけ,学外交渉など多様な経営行動の方向性に関わっている(淵上・棚上・東野,2005)。つまり教頭の機能は,「場」の組織的な形成や「相補性」「情報冗長性」に影響を与える機能であると考えられる。以上のことから本研究では,教師における継承的指導実践を促進するコンサルテーション・プログラムの開発を鑑み,ナッレッジマネジメント(野中・紺野,1999)におけるSECIモデル「共同化」及び冗長性・相補性に関わる教頭の具体的機能に着目して,コンサルテーション・プログラム項目を検討する。
方   法
【被調査者】大阪府内A市の教頭1名(中学校教頭2年目,1校目)にインタビュー調査を実施した。
【手続き】インフォームドコンセントを実施した上で,被調査者に自由に語ってもらう形式をとりながら,同時にこちらの設定した諸項目について聞き取る半構造化面接を実施した。
具体的には,先行研究(淵上・棚上・東野,2005;中
                          
*1井原啓裕・牧郁子(2014).教師の指導文化尺度作成の試み : 信頼性・妥当性の検討 日本教育心理学会総会発表論文集 (56),165.では,「教師の指導文化尺度」と命名したが,項目内容から「教師における継承的指導実践」と名称を変更した。
村,2012)に基づき,校長との関係・教師との関係・学外との関係における情報共有及び関係調整を,教頭の経営行動と定義した。その上で各経営行動において,ナッレッジマネジメント(野中・紺野,1999)におけるSECIモデル「共同化」及び冗長性・相補性を促進する教頭の具体的機能に関する質問項目を設定し,述べるよう求めた。
結   果
 先行研究の知見に基づき分析的コードを作成し,このコードを用いて逐語録に演繹的コーディングを行い分析した。その結果,「校長の補佐機能」,「ベテラン教師と若手教師の協働の援助」,「教師アイデンティティーの更新の援助」,「教職員全体での役割を超えた協働の援助」,「情報共有の促進」,「外部機関との連携の援助」というコードを得た(Table1)。
考   察
 教頭の職務遂行には,人間関係の調整力が必要不可欠(毛利,2004)とされるように,各分析コードのいずれのセグメントにおいても,コミュニケーションを媒介とした調整機能が共通して語られていた。具体的にはコードBのセグメントでは「出来るだけ若手教師が話せるような環境をつくっていかなければ」といった「場」の組織的な形成が,コードDのセグメントでは「先生ら同士が大丈夫っていうふうな関係づくりを進めていく」といった「相補性」「情報冗長性」を高める働きかけが認められた。以上から,分析コードA~Fの教頭の経営行動が,教師における継承的指導実践に影響を与える可能性が示唆されたと考える。こうしたことから今後は,これらの分析コードを基に,コンサルテーション・プログラム項目を作成することとする。