The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

Sat. Sep 15, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA27] 児童の課題解決への取り組みと教師の支援

対話的な学びを促す課題

鈴木隆夫1, 司城紀代美2 (1.宇都宮市立豊郷中央小学校, 2.宇都宮大学)

Keywords:概念理解, 対話的な学び, 教師の支援

問題と目的
 知識基盤社会の到来と言われて久しい。Sawyer(2016,森訳)は,知識基盤社会における授業では,事実や知識を覚えるだけでなく,学習する内容を自身の知識と結びつけたり,その原則を理解し,他者との対話を通してその理解を振り返り吟味するなど,深く学ぶことが不可欠とされている。新学習指導要領(2018)では,主体的・対話的で深い学びの実現が謳われ,他者との対話を通した深い探求が求められている。これに関し,鈴木・司城(2017)は,藤村(2013)の課題構造を援用し,手続き的知識やスキルを適用する課題か概念理解を要する課題かの視点から,対象児の言動分析を行い,概念理解課題では手続き適用課題と比べて,他者との対話を課題解決に生かそうとする姿が多いことが明らかにしている。本研究では,鈴木・司城(2017)に,教師による対話の場の設定という分析の視点を加えて,対象児の取り組み方を追い,そこで教師や周囲の児童とどのようなやりとりを行っているのかを合わせて分析する。このことにより,授業の中で児童が意味ある対話をし,深く学ぶための環境の設定や教師の支援について検討する。

方  法
対象 関東地方の公立小学校の4年生 さとみさん(女児,仮名)。担任は教職20年程度の山口教諭(男性,仮名)。山口教諭はさとみさんのことを「自力で課題を解決する力が高く,友達と相談して学習を進めている姿の少ない子」と評価している。
観察方法 201X年1月から2月まで,週4~5日程度算数の授業でビデオ撮影を行い,授業後,メモと記録映像からフィールドノーツを作成した。分析方法 本研究では,算数の授業中に自力で課題解決に取り組む25の場面を取り上げ,対象児の言動に着目してエピソードの書き起こしを行った。各エピソードは,鈴木・司城(2017)の記述同様に,(1) 手続き的知識やスキルを適用して解決する課題:16エピソード,(2)概念理解を要し様々な知識を関連づけて考える必要がある課題:9エピソードに分類し,さとみさんが自力で課題解決に取り組む場面の言動を分析した。その際,教師が児童に対話を促す支援を観察事項に加えた。

結果と考察
 教師の発問が終わってから,さとみさんが課題解決を終えるまでの言動と教師の支援を中心に,エピソードの分析を行った。手続きやスキル適用課題では,教師の発問が終わるとすぐに課題に取り掛かる様子が見られ,教師が,教師や友達に質問してもよいと促しても他者と交流することはなかった。一方,概念理解を要する課題では,教師が他者との交流を促さない場合でも,教師に質問したり他児と対話したりしたうえで課題解決に取り掛かったり,解答後友達の考えを尋ねたりする様子が見られた。「概念的理解課題」のエピソードの1つを以下に示す。

<エピソード4>
山口教諭から「直方体の面と面の交わり方を調べましょう。」という課題が出される。
課題解決が始まると,さとみさんは箱を机に置き,後ろの席のりえさんの方を向く。りえさんは自分の箱の2面を掌で押さえながら,さとみさんに「え,どういう関係?どこまでいっても交わらない?」と問いかける。さとみさんは,両手の掌で直角を作りながら,「垂直じゃないかなあ。」と説明する。りえさんが,さとみさんの真似をして両手の掌で直角を作りながら,「垂直?」と問い返すと,さとみさんは,笑顔で首を縦に振りながら,「垂直だと思うんだけど」と答える。さとみさんが両手の掌で直角を作り,りえさんに向かって「垂直?」と言い,それに対してりえさんも両手の掌で直角を作って「垂直?」と返すやりとりが3度なされた後,さとみさんは,「垂直」と解答を記述した。

 概念理解課題では,他者との交流の場を教師が設定しているか否かにかかわらず,自ら他児と対話したり教師に質問したりする姿を見せ,他者との対話を課題解決に結びつけようとしている。さとみさんは,他者の考えを手がかり考える必要性を,認識していると考えられる。

総合考察
 児童が他者と対話する深い学びを行うには,概念理解を要する課題といった学習者自身が対話の必要性を感じる課題が設定されなければならないといえる。すなわち,教師が対話的な学習を促す場合,とりあえずペアやグループを指示するというありがちな環境設定をするのではなく,課題構造の視点から,対話的な学習が必要かどうかを吟味していくことが重要であるといえる。