[PB21] 高校生の現実場面の問題解決過程における思考プロセスと数学に対する学習観の関連性について
Keywords:数学的活動, 問題解決, 学習観
問題と目的
国立教育政策研究所(2013)によると,2012年のOECDによるPISA調査の結果,数学的リテラシーにおいて日本はOECD加盟国・地域全65カ国中7位であった一方で,生徒質問紙による調査では数学が自分の将来に役立つか問われると,日本の生徒の半数が将来の役に立たないと考えており,この結果はOECD加盟国・地域内では最下位であった。このことから,従来の日本の数学教育では,数学の問題を解く能力は身につくが,社会に役立つ数学の良さを実感させるには至っていないことがわかる。
日本の数学教育について,馬場(2009)は実社会の問題を数学の問題へと翻訳する「数学化」を取り入れた「数学的活動」であっても,数学として抽象化・理想化する過程で経済的,物理的,精神的な制約や異なる価値観といった現実的な文脈を排除してしまうことが少なくないと指摘している。
本研究では,個人の意思決定の場面において,数学的な考え方を用いて分析した「数学的根拠」と現実的な文脈における「非数学的根拠」を関連づける思考プロセスについて,数学の学習に対する「学習観」との関連性を考察した。
方 法
調査対象者と調査時期 東京都立の高等学校1校の2年生(N=286)であった。調査時期は3学期の終わり頃であった。
調査内容と調査手続き 藤村(2007)における数学に関する学習観について尋ねる項目と数学についての考え(数学観)について尋ねる項目について,重要度の低いと思われる項目を削除し,新項目を加え,それらを高校生が理解できるような表現に修正した。それぞれ20項目,10項目の調査用質問紙を作成した。また,西村(2016)をもとに非定型で思考プロセスに価値判断を含むような現実場面の記述式の問題を作成した。調査は,学級ごとにHR時に学級担任の指示のもと実施された。
結果と考察
記述式の問題では2つの選択肢のうち,一方を選択させその根拠を説明させた。記述による思考プロセスの分類について,横軸は「数学的根拠」,「非数学的根拠」,「両方」を用いているかという基準で分類した。また,縦軸は「他者との相互作用」を水準の上昇に寄与する主な要因とした。価値判断の場面における「他者との相互作用」について,Ernest(1991)の「価値観の次元論」をもとに二元論的(水準1),多元論的(水準2),相対論的(水準3)という基準で分類した。Table 1に集計の結果を示す。
横軸について,「数学的根拠」のみに基づいて判断した生徒の割合は24.5%,「非数学的根拠」のみに基づいて判断した生徒の割合は21.0%と大きな差がなく,総合的に判断した生徒は46.2%であった。また,このことは文系・理系で分けた場合も同様の結果を示していた。縦軸について,水準3の生徒の割合は12.2%であり,多様な視点をもつことは難しいということが明らかになった。また,文系・理系で分けた場合は文系の方が理系と比べて水準1の生徒の割合が多く,水準3の割合が少なかった。
水準3の生徒と他の水準の生徒が異なる学習観を示すか分析するため,調査項目ごとにMann-WhitneyのU検定を行った。その結果,項目C1「計算機さえあれば数学を学習する必要はない」について水準3群が有意(U=4931,p=.009)に低くなり,項目B9「問題の意味を理解することに時間をかけること」に対する肯定的な考えが有意傾向(U=3220,.05<p<.10)であった。このことから,水準3の生徒は数学の問題において,答えを素早く求めることを重要視していないと考えられる。1つの問題に対して色々な解法を考えることについては有意差が見られなかったことをふまえると,生徒は1つの問題に対して闇雲に取り組むのではなく,いくつかの解法があるという意識を持ちつつ,その中でより良い解法を選択しようとしていると見られ,その過程で多面的な見方が必要になると考える。
国立教育政策研究所(2013)によると,2012年のOECDによるPISA調査の結果,数学的リテラシーにおいて日本はOECD加盟国・地域全65カ国中7位であった一方で,生徒質問紙による調査では数学が自分の将来に役立つか問われると,日本の生徒の半数が将来の役に立たないと考えており,この結果はOECD加盟国・地域内では最下位であった。このことから,従来の日本の数学教育では,数学の問題を解く能力は身につくが,社会に役立つ数学の良さを実感させるには至っていないことがわかる。
日本の数学教育について,馬場(2009)は実社会の問題を数学の問題へと翻訳する「数学化」を取り入れた「数学的活動」であっても,数学として抽象化・理想化する過程で経済的,物理的,精神的な制約や異なる価値観といった現実的な文脈を排除してしまうことが少なくないと指摘している。
本研究では,個人の意思決定の場面において,数学的な考え方を用いて分析した「数学的根拠」と現実的な文脈における「非数学的根拠」を関連づける思考プロセスについて,数学の学習に対する「学習観」との関連性を考察した。
方 法
調査対象者と調査時期 東京都立の高等学校1校の2年生(N=286)であった。調査時期は3学期の終わり頃であった。
調査内容と調査手続き 藤村(2007)における数学に関する学習観について尋ねる項目と数学についての考え(数学観)について尋ねる項目について,重要度の低いと思われる項目を削除し,新項目を加え,それらを高校生が理解できるような表現に修正した。それぞれ20項目,10項目の調査用質問紙を作成した。また,西村(2016)をもとに非定型で思考プロセスに価値判断を含むような現実場面の記述式の問題を作成した。調査は,学級ごとにHR時に学級担任の指示のもと実施された。
結果と考察
記述式の問題では2つの選択肢のうち,一方を選択させその根拠を説明させた。記述による思考プロセスの分類について,横軸は「数学的根拠」,「非数学的根拠」,「両方」を用いているかという基準で分類した。また,縦軸は「他者との相互作用」を水準の上昇に寄与する主な要因とした。価値判断の場面における「他者との相互作用」について,Ernest(1991)の「価値観の次元論」をもとに二元論的(水準1),多元論的(水準2),相対論的(水準3)という基準で分類した。Table 1に集計の結果を示す。
横軸について,「数学的根拠」のみに基づいて判断した生徒の割合は24.5%,「非数学的根拠」のみに基づいて判断した生徒の割合は21.0%と大きな差がなく,総合的に判断した生徒は46.2%であった。また,このことは文系・理系で分けた場合も同様の結果を示していた。縦軸について,水準3の生徒の割合は12.2%であり,多様な視点をもつことは難しいということが明らかになった。また,文系・理系で分けた場合は文系の方が理系と比べて水準1の生徒の割合が多く,水準3の割合が少なかった。
水準3の生徒と他の水準の生徒が異なる学習観を示すか分析するため,調査項目ごとにMann-WhitneyのU検定を行った。その結果,項目C1「計算機さえあれば数学を学習する必要はない」について水準3群が有意(U=4931,p=.009)に低くなり,項目B9「問題の意味を理解することに時間をかけること」に対する肯定的な考えが有意傾向(U=3220,.05<p<.10)であった。このことから,水準3の生徒は数学の問題において,答えを素早く求めることを重要視していないと考えられる。1つの問題に対して色々な解法を考えることについては有意差が見られなかったことをふまえると,生徒は1つの問題に対して闇雲に取り組むのではなく,いくつかの解法があるという意識を持ちつつ,その中でより良い解法を選択しようとしていると見られ,その過程で多面的な見方が必要になると考える。