The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 3:30 PM - 5:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC40] 口話と手話を併用する聴覚障害者の言語刺激による情報処理方略に関する研究

かな単語に対する作動記憶におけるコード化の検討

石田祐貴1, 鄭仁豪2 (1.筑波大学, 2.筑波大学)

Keywords:聴覚障害, 作動記憶, 二重課題法

目  的
 我々は外から入力された情報を記憶する際,その情報を保持しやすい心的表象(コード)に変換するコード化といった処理を行なっている。言語情報における記憶過程では,健聴児・者は音韻的コードを優位に用いるのに対し,聴覚障害児・者は個人によって優位に用いられるコードが異なることや複数のコードを使用していることが報告されている。音韻的・視覚的コードに加え,手話的コードのような存在も示唆され,用いられるコードは個人の教育の場でのコミュニケーションモードや言語力といった要因の影響で決まると推察されている。
 本研究では,作動記憶におけるコード化を詳細に検討することが可能である二重課題法を用いて,口話と手話を併用する聴覚障害者の言語情報の記憶におけるコード化の実態,手話抑制に関連する要因とその影響によるコード化の相違について検討することを目的とした。

方  法
1.対象者:高等教育機関に在籍する聴者12名および口話と手話を併用する聴覚障害者31名。
2.刺激:2~4文字かつ2~4モーラの仮名表記の単語10個で構成した言語刺激setを8つ作成した。尚,set間で「心像性」「モーラ数」「文字数」の統制を行なった。
3.課題:4つの条件を設定し(抑制なし・構音抑制・視覚抑制・手話抑制),それぞれの条件下で言語刺激setを用いた系列呈示の記憶課題を2試行ずつ実施した。
4.手続き:画面に注視点を1000ms呈示し,それが消失した5000ms後に1単語1000msずつ順次呈示された。最後の単語が消失した5000ms後に“?”が呈示され,その後,筆記回答で自由再生を求めた。
5.研究倫理:本研究は,筑波大学人間系倫理審査を受け(筑29-69)実施された。


結果・考察
1.口話と手話を併用する聴覚障害者のコード化の実態
 言語刺激に対するコード化を検討するため,聴者と聴覚障害者のそれぞれの群において条件毎に対象者の平均得点を算出し,一要因分散分析を行なった。その結果,聴者(F(3,33)=8.41,p<.01)と聴覚障害者(F(3,90)=13.38,p<.01)共に主効果が認められた。抑制なし条件と他の3条件との差を検討するためDunnett法による多重比較を行った結果,両群共に構音抑制の効果のみ認められた(p<.01)。ここから,口話と手話を併用する聴覚障害者は聴者と同様,視覚的言語刺激に対して音韻的コードを用いていることが示唆された。
2.手話抑制に関連する要因
 聴覚障害者群の各対象者の手話抑制条件と抑制なし条件の得点間の差を算出し,手話抑制条件時の成績の低下度合いが全体の平均より−1SD以上であった対象者9名を抽出し,成績が低下しなかった対象者と群分けを行なった。フェイスシートで得た個人要因 (各年齢段階での手話を用いた教育を受けた経験の有無・各年齢段階での家庭での手話使用の有無・自身が使いやすいコミュニケーションモード・聞こえの程度)との関連を検討した結果,幼児期と中学校段階の手話を用いた教育を受けた経験との関連が認められた(幼児期x2(1)=7.62,p<.01; 中学校x2(1)=4.14, p<.05)。結果から,幼児期と中学校段階において手話を用いた教育を受けた経験がコード化の方略に影響を及ぼす可能性が示された。
3.手話の活用程度の違いによるコード化の相違
 2で明らかにされた要因の幼児期と中学校段階において手話を用いた教育を受けた経験の有無で対象者の群分けを行なった(経験なし群10人・経験あり群21人)。
言語刺激に対するコード化を検討するため,それぞれの群において条件毎に対象者の平均得点を算出し,一要因分散分析を行なった(Figure 1)。その結果,手話教育経験なし群(F(1.67,15.01)=4.85,p<.05)と手話教育経験あり群(F(3,60)=9.65,p<.01)共に主効果が認められた。抑制なし条件と他の3条件との差を検討するためDunnett法による多重比較を行った結果,手話教育経験なし群では構音抑制条件との間に有意差が認められ,手話教育経験あり群では構音抑制条件と手話抑制条件との間に有意差が認められた。結果から,両群共に音韻的コードを用いていることが示唆された。また,手話教育経験あり群では手話抑制によって成績が低下することが示され,手話抑制効果がみられた対象者の内省報告では「手話表現を行うことで,手話表現が意味する言葉の音韻が自然と頭の中に入り込んでくる」といった報告が複数得られた。ここから,教育の場において手話の活用程度が大きい聴覚障害者は言語刺激に対する情報処理に手話が何らかの形で関与する可能性が考察された。