The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 1:30 PM - 3:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE07] 愛着に課題をもつ子どもに対する幼稚園教諭の理解

日中の比較を通して

劉一杰1, 栗原慎二2 (1.広島大学大学院, 2.広島大学)

Keywords:愛着障害, 日中比較

問題と目的
 愛着とは,子どもと特定の対象者の間に形成される特別な情緒的絆のことであり,幼稚園教諭は子どもの愛着形成の中で重要な役割を果たすと考えられる。しかし,日本の幼稚園現場では愛着の問題は家庭の問題であると認識されており,中国では学力重視の指導方針のもと,愛着などの情緒的障害は重視されていない可能性があると考えられる。したがって,両国ともに愛着に関連する研修時間も少なく,適切な支援ができていない可能性が高いと考えられる。よって本研究では,現場で働いている幼稚園教諭と保育士は愛着に関してどれほど理解をしているのか,また研修時間が愛着の理解に与える影響を明らかにし,以後愛着に課題をもつ子どもに対する適切な支援についての示唆を得ることを目的とする。

方  法
 中国の幼稚園に勤務する幼稚園教諭68名と保育士41名,計109名,日本の幼稚園,保育園に勤務する幼稚園教諭26名と保育士22名,計48名に対して質問紙調査を行った。質問紙はフェイスシート,事例分析,愛着の知識テスト,教師の指導方針尺度と教育方針態度尺度によって構成された。
 事例分析では,事例に正解をそれぞれ二つずつ設定しているため,正解答数に応じて得点化し,総合的アセスメント能力の得点とした。また,愛着に関連のある,養育者の過度なしつけ,子どもに無関心,の二つの因子の正解答数に応じて得点化し,愛着要因のアセスメント能力の得点とした。

結果と考察
 本研究では,まず日中の愛着要因のアセスメント得点と総合的アセスメント得点の差を検討した。国を独立変数とし,愛着要因のアセスメント得点,総合的アセスメント得点をそれぞれ従属変数とした1要因の分散分析を行った結果,愛着要因のアセスメント得点は中国の方が日本より有意に高かった(p<.05)が,総合的アセスメント得点は日本の方が有意に高かった(p<.01)。
 日本の総合アセスメント得点が高かった理由としては,近年発達障害や知的発達障害などに関する研究が増え,色々学習する機会が多くなり,総合的アセスメント能力の向上に繋がったと考えられる。しかしその一方で,日本の幼稚園教諭は愛着障害と発達障害,知的障害等の鑑別がうまくできていないため,愛着要因のアセスメント得点は中国より有意に低かったと考えられる。
 また,日中の幼稚園教諭の研修時間と愛着要因のアセスメント得点の関連を検討した。研修時間を3群に分けて,国と研修時間を独立変数,愛着要因のアセスメント得点を従属変数として2要因の分散分析を行った。その結果,国の主効果は有意ではなかったが,研修時間の主効果が有意であり(F(2,134)=5.20,p<.01),交互作用に有意傾向が見られた(F(2,134)=2.47,p<.10)。高群の方が低群より有意に愛着要因のアセスメント得点が高かったため,研修時間を増やすことで愛着に関する知識が蓄えられ,愛着に課題をもつ子どもへの理解が深まることが示唆された。
 もう一つ注目すべきことは,研修時間の低群において,中国の方が日本より得点が有意に高かった(p<.05)ということである。これは家庭との連携が関係していると考えられる。中国の幼稚園教諭は,保護者が子どもを園に送り迎えする時間を利用し,家での幼児の様子に関して毎日交流をしているため,自然と家庭内の情報も収集でき,子どもの養育者に対する愛着状態を概ね把握している場合が多いと考えられる。よって保護者との交流機会を増やし,互いに色々と話し合える良好な関係を築き上げ,家庭背景などの理解の上で,きちんとした観察やアセスメントを踏まえ,子ども一人一人に対して適切な指導を心がけることが必要であろう。