The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 1:30 PM - 3:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE32] 知識量の自己評価と知的好奇心や学習活動との関連

野上俊一 (中村学園大学)

Keywords:知識量, 知的好奇心, 学習活動

問題と目的
 次期学習指導要領では学びに向かう力・人間性等の涵養が謳われ,学習方法としてはアクティブ・ラーニングの視点からの授業作りが強調され「主体的・対話的で深い学び」という点から授業改善を行うことが推奨されている(文部科学省,2017)。特に,主体的な学びでは,学ぶことに興味や関心を持つこと,すなわち,学習課題に対して知的好奇心を持つことが学びにおいて大きな役割を果たすことが予想される。
 知的好奇心は新奇な情報や知識を求めて多面的に探索行動を動機づける拡散的好奇心と矛盾や情報の非一貫性に対してそれらを解消しようとする探索行動を動機づける特殊的好奇心の2つに定式化されており(Berlyne,1960),これらは人間の知的活動を動機づけると考えられている(波多野・稲垣,1971)。通常,知的好奇心に基づいて学習課題の学習が動機づけられて,新しい知識を学習する過程が一般的に想定されるが,逆向きの過程もあり得る。例えば,音の速さを知っているから雷が光ってから雷鳴までの時間で雷の場所を推測するなど,ある対象の知識を持っているからこそ生じる問いや矛盾があり,それに関連して生じる特殊的好奇心に動機づけられる知的活動である。したがって,知的好奇心とそれに基づく行動には,対象についての知識量が多い分野と少ない分野で違いがあることが予想される。
 稲垣・波多野(1989)は,ある分野に関して豊かでしかもよく構造化された知識を持っている人は,その分野では初心者に比べ効果的に学ぶことができ知識をますます豊富にすることを指摘している。これを踏まえると,知識が多い分野では学ぶことに興味や関心を強く持つことが予想される。また,知識量によって知的好奇心の質や高さが異なれば,知的好奇心に基づく行動に関係する目標志向性や学習行動の仕方も関係していると予想される。そこで本研究では,知識量の多い場面と少ない場面の間で知的好奇心,目標志向性や学習行動に差があるか否かを検討する。

方  法
対象者 大学生121名(女性86名,男性35名)
質問紙 (1)知的好奇心尺度12項目(西川・雨宮, 2015),(2)思考過程尺度8項目(堀野・市川・奈須, 1990),(3)知能観尺度3項目(及川, 2005),(4)選択した教科について好意度と得意度を尋ねた自作の質問2項目,(5)知的好奇心尺度12項目(齋藤,2015),(6)目標志向性尺度(Elliot & Church, 1997)日本語版17項目(光浪, 2010),(7)学習行動尺度17項目(光浪, 2010)で構成。
手続き 回答用紙を配布し,対象者のペースで回答させた。高校生の頃を想起させ,選択科目である理科と社会の10教科の中から知識量の多い分野と少ない分野を1つずつ選択させ,それぞれについて(4)~(7)を回答させた。回答時間は約15分であった。

結  果
 知識量の多い分野と少ない分野で各尺度の平均に差があるか否かを調べるために対応のあるt検定を行った(Table 1)。その結果,全ての項目で知識が少ない分野よりも多い分野の平均値が有意に高かった。

考  察
 知識量を多いと評定した分野の知的好奇心が知識量を少ないと評定した分野のそれよりも高く,学習行動もより適応的であることは予想通りだった。しかし,目標志向性のうち,遂行回避目標得点も知識量を多いと評定した分野で高かったことは想定外であった。また,知識があるから好奇心が高いのか,好奇心があるから知識をより多く獲得したのかは本研究からは明らかにならない。そのため,この点を含めた中長期的な学習行動の分析が必要であろう。加えて,本研究では知識量を自己申告させて,それに基づいた分析をしているため,実際にどのくらいの知識量や知識構造に差があるかは確かめられない。今後,知識量や知識構造を実験的に操作して,知識と好奇心,学習関連変数との関連を検討することが求められよう。