[PE68] 大学生におけるストレスの実態
疲労・ストレス測定システムを導入して
Keywords:大学生, ストレス, 疲労・ストレス測定システム
目 的
ストレスを定量化・評価する手法は,主観的なものと客観的なものとに大別できる。質問紙調査や面接など心理学的評価法による主観的ストレス計測は,一般的に簡便で費用も高くないのが特徴である。しかしストレスを自覚していない場合,主観的なストレス計測だけではストレスの実態を正確に把握できない可能性がある。一方で,加速度脈波などを利用した生理学的評価法や,バイオマーカーを測定する生化学的評価法による客観的ストレス計測を活用することにより,無自覚のストレスを発見できる可能性がある。
そこで本研究では,質問紙とあわせて,心電と脈波の同時計測・解析を行い自律神経機能の状態を評価する「疲労・ストレス測定システム」を導入することにより,大学生のストレスの実態を明らかにし,主観的なストレスや幸福度と,客観的に評価された疲労・ストレス度合いとの関連を検討することを目的とした。
方 法
調査協力者 大学生84名(男性35名,女性49名)。
質問紙 不定愁訴:不定愁訴尺度(柴・森,2009);15項目5件法。精神的倦怠感と身体的不調の2つの下位尺度からなる。主観的ストレス度:“まったくストレスはない”(+1)から“非常にストレスがたまっている”(+10)までの10件法。主観的幸福度:“まったく幸せではない”(+1)から“とても幸せである”(+10)までの10件法。
疲労・ストレス度合い 疲労の度合いやストレスの傾向を客観的に評価するために,疲労・ストレス測定システム((株)日立システムズ)による自律神経評価を用いた。
手続き 2016年4月~7月に,質問紙調査と疲労・ストレス度合いの測定を実施した。
結果および考察
疲労・ストレス測定システムによる自律神経評価結果が,「正常」の者は32名(38.1%),「注意」の者は43名(51.2%),「要注意」の者は9名(10.7%)であった。
疲労・ストレス度合いが心身の健康やストレス,幸福度と関連しているか検討するために,不定愁訴,主観的ストレス度,主観的幸福度をそれぞれ従属変数とする1要因分散分析を行った。その結果,自律神経評価結果が正常の者は注意・要注意の者と比べて,不定愁訴尺度得点が低く,主観的ストレス度が低く,主観的幸福度が高い傾向にあったが有意な差は認められなかった(p>.05)。
自律神経評価結果を,“正常”(+1),“注意”(+2),“要注意”(+3)の順序尺度とみなして,不定愁訴,主観的ストレス度,主観的幸福度との相関係数(Kendallの順位相関係数)を算出した(Table 1)。その結果,自律神経評価といずれの変数間においても有意な相関はみられなかった(p>.05)。
これらの結果から,自律神経の機能評価による客観的な疲労・ストレス度合いの高さと,主観的なストレス度の高さは必ずしも一致せず,疲労・ストレス度合いが高くても不定愁訴やストレスを感じていない者も存在することが示唆された。あるいは,ストレスに対して適切に対処できるかといったストレス対処能力や,モチベーションを高めたりする良いストレス(eustress)が影響していることなどが考えられる。
今後,ストレス対処能力やストレスの質などを変数として組み込みながら,さらに有機的・複合的モデルを構えてストレスの実態を検証する必要がある。その際,主観的な計測法だけに依るのではなく,客観的にストレスを数値化できる計測法を併用することにより,自覚のないストレスを発見できたり,より正確にストレスの実態をとらえることができる可能性がある。
付 記
本研究は,平成27年度「食と教育」学術研究(「乳の学術連合」牛乳食育研究会)の助成を受けた。
ストレスを定量化・評価する手法は,主観的なものと客観的なものとに大別できる。質問紙調査や面接など心理学的評価法による主観的ストレス計測は,一般的に簡便で費用も高くないのが特徴である。しかしストレスを自覚していない場合,主観的なストレス計測だけではストレスの実態を正確に把握できない可能性がある。一方で,加速度脈波などを利用した生理学的評価法や,バイオマーカーを測定する生化学的評価法による客観的ストレス計測を活用することにより,無自覚のストレスを発見できる可能性がある。
そこで本研究では,質問紙とあわせて,心電と脈波の同時計測・解析を行い自律神経機能の状態を評価する「疲労・ストレス測定システム」を導入することにより,大学生のストレスの実態を明らかにし,主観的なストレスや幸福度と,客観的に評価された疲労・ストレス度合いとの関連を検討することを目的とした。
方 法
調査協力者 大学生84名(男性35名,女性49名)。
質問紙 不定愁訴:不定愁訴尺度(柴・森,2009);15項目5件法。精神的倦怠感と身体的不調の2つの下位尺度からなる。主観的ストレス度:“まったくストレスはない”(+1)から“非常にストレスがたまっている”(+10)までの10件法。主観的幸福度:“まったく幸せではない”(+1)から“とても幸せである”(+10)までの10件法。
疲労・ストレス度合い 疲労の度合いやストレスの傾向を客観的に評価するために,疲労・ストレス測定システム((株)日立システムズ)による自律神経評価を用いた。
手続き 2016年4月~7月に,質問紙調査と疲労・ストレス度合いの測定を実施した。
結果および考察
疲労・ストレス測定システムによる自律神経評価結果が,「正常」の者は32名(38.1%),「注意」の者は43名(51.2%),「要注意」の者は9名(10.7%)であった。
疲労・ストレス度合いが心身の健康やストレス,幸福度と関連しているか検討するために,不定愁訴,主観的ストレス度,主観的幸福度をそれぞれ従属変数とする1要因分散分析を行った。その結果,自律神経評価結果が正常の者は注意・要注意の者と比べて,不定愁訴尺度得点が低く,主観的ストレス度が低く,主観的幸福度が高い傾向にあったが有意な差は認められなかった(p>.05)。
自律神経評価結果を,“正常”(+1),“注意”(+2),“要注意”(+3)の順序尺度とみなして,不定愁訴,主観的ストレス度,主観的幸福度との相関係数(Kendallの順位相関係数)を算出した(Table 1)。その結果,自律神経評価といずれの変数間においても有意な相関はみられなかった(p>.05)。
これらの結果から,自律神経の機能評価による客観的な疲労・ストレス度合いの高さと,主観的なストレス度の高さは必ずしも一致せず,疲労・ストレス度合いが高くても不定愁訴やストレスを感じていない者も存在することが示唆された。あるいは,ストレスに対して適切に対処できるかといったストレス対処能力や,モチベーションを高めたりする良いストレス(eustress)が影響していることなどが考えられる。
今後,ストレス対処能力やストレスの質などを変数として組み込みながら,さらに有機的・複合的モデルを構えてストレスの実態を検証する必要がある。その際,主観的な計測法だけに依るのではなく,客観的にストレスを数値化できる計測法を併用することにより,自覚のないストレスを発見できたり,より正確にストレスの実態をとらえることができる可能性がある。
付 記
本研究は,平成27年度「食と教育」学術研究(「乳の学術連合」牛乳食育研究会)の助成を受けた。