[PF29] 災害を生きる力8因子と言語情報の読み取り速度
Keywords:災害を生きる力, 文章読解, 眼球運動
目 的
Sugiura et al. (2015) は,東日本大震災の被災者1,000名以上を対象とした質問調査により,災害に適応的な個人特性「災害を生きる力」8因子を抽出した。本研究では,災害発生時に重要であると考えられる,言語情報を素早く(かつ正確に)読み取る能力が,「災害を生きる力」8因子のいずれかにより予測可能であるかを,文章読解時の視線行動をもとに検討する。
方 法
参加者 東北大学の学部生・大学院生38名(女性15名,19-23歳)が実験に参加した。
材料と手続き 主題の異なる四つの文章(いずれも800字程度)を新聞の社説から抜粋した。参加者は一つの文章を黙読した後,その文章に関する正誤二択の理解問題6問に解答する手続きを4文章すべてについて行った。文章はそれぞれ3ページに分けてPCの画面上に呈示され,参加者がキーを押すごとに次ページの画面へと切り替わった。文章の呈示順序はカウンターバランスし,文章読解時の眼球運動をEyeLink 1000 Plus(デスクトップマウント;SR Research)によりサンプリングレート1,000Hzで計測した。実験終了後,参加者は「災害を生きる力」質問紙(Sugiura et al., 2015)に回答した。
結 果
眼球運動が適切に計測できなかった4名のデータを分析から除外した。各文章読解時の平均注視時間・注視回数・総読み時間(Rayner et al., 2006),および理解問題の正答率を算出し,それらを各目的変数,「災害を生きる力」質問紙F1~F8得点(各下位項目得点の平均値;最小:0,最大:5)をそれぞれ説明変数とする単回帰分析を行った。その結果,F4(信念を貫く力)得点が高い者ほど平均注視時間(R2 = .12, β = -12.54, SE = 5.94, t = -2.11, p < .05)および総読み時間(R2 = .19, β = -12.07, SE = 4.41, t = -2.74, p = .01)が短いことを示す結果を得た。また,F5(きちんと生活する力)得点が高い者ほど平均注視時間が長いことを示す結果を得た(R2 = .25, β = 13.07, SE = 3.98, t = 3.29, p < .01)。その他の分析において,「災害を生きる力」F1~F8得点の効果はいずれも有意でなかった(ps > .10)。Figure 1にF4得点と総読み時間,Figure 2にF5得点と平均注視時間の散布図(回帰直線)をそれぞれ示す。
考 察
災害発生時に代表される緊急場面において,言語情報を素早く読み解くことのできる個人特性は,危機回避に有利に働くと考えられるが,「災害を生きる力」の中ではF4:信念を貫く力の高さがそのような特性を予測することが明らかとなった。一方で,F5:きちんと生活する力の高さは,(総読み時間・理解度を予測することなく)注視時間の長さのみを予測した点から考えて,同程度の時間を使いつつ,言語情報をより丁寧に読み取ろうとする傾向と関連しているのかもしれない。
引用文献
Sugiura, M. et al. (2015). PLoS ONE, 10, e0130349.
Rayner, K. et al. (2006). Scientific Studies of Reading, 10, 241-255.
付 記
本研究はJSPS科研費JP17H06219(代表者:杉浦元亮)の助成を受けたものです。
Sugiura et al. (2015) は,東日本大震災の被災者1,000名以上を対象とした質問調査により,災害に適応的な個人特性「災害を生きる力」8因子を抽出した。本研究では,災害発生時に重要であると考えられる,言語情報を素早く(かつ正確に)読み取る能力が,「災害を生きる力」8因子のいずれかにより予測可能であるかを,文章読解時の視線行動をもとに検討する。
方 法
参加者 東北大学の学部生・大学院生38名(女性15名,19-23歳)が実験に参加した。
材料と手続き 主題の異なる四つの文章(いずれも800字程度)を新聞の社説から抜粋した。参加者は一つの文章を黙読した後,その文章に関する正誤二択の理解問題6問に解答する手続きを4文章すべてについて行った。文章はそれぞれ3ページに分けてPCの画面上に呈示され,参加者がキーを押すごとに次ページの画面へと切り替わった。文章の呈示順序はカウンターバランスし,文章読解時の眼球運動をEyeLink 1000 Plus(デスクトップマウント;SR Research)によりサンプリングレート1,000Hzで計測した。実験終了後,参加者は「災害を生きる力」質問紙(Sugiura et al., 2015)に回答した。
結 果
眼球運動が適切に計測できなかった4名のデータを分析から除外した。各文章読解時の平均注視時間・注視回数・総読み時間(Rayner et al., 2006),および理解問題の正答率を算出し,それらを各目的変数,「災害を生きる力」質問紙F1~F8得点(各下位項目得点の平均値;最小:0,最大:5)をそれぞれ説明変数とする単回帰分析を行った。その結果,F4(信念を貫く力)得点が高い者ほど平均注視時間(R2 = .12, β = -12.54, SE = 5.94, t = -2.11, p < .05)および総読み時間(R2 = .19, β = -12.07, SE = 4.41, t = -2.74, p = .01)が短いことを示す結果を得た。また,F5(きちんと生活する力)得点が高い者ほど平均注視時間が長いことを示す結果を得た(R2 = .25, β = 13.07, SE = 3.98, t = 3.29, p < .01)。その他の分析において,「災害を生きる力」F1~F8得点の効果はいずれも有意でなかった(ps > .10)。Figure 1にF4得点と総読み時間,Figure 2にF5得点と平均注視時間の散布図(回帰直線)をそれぞれ示す。
考 察
災害発生時に代表される緊急場面において,言語情報を素早く読み解くことのできる個人特性は,危機回避に有利に働くと考えられるが,「災害を生きる力」の中ではF4:信念を貫く力の高さがそのような特性を予測することが明らかとなった。一方で,F5:きちんと生活する力の高さは,(総読み時間・理解度を予測することなく)注視時間の長さのみを予測した点から考えて,同程度の時間を使いつつ,言語情報をより丁寧に読み取ろうとする傾向と関連しているのかもしれない。
引用文献
Sugiura, M. et al. (2015). PLoS ONE, 10, e0130349.
Rayner, K. et al. (2006). Scientific Studies of Reading, 10, 241-255.
付 記
本研究はJSPS科研費JP17H06219(代表者:杉浦元亮)の助成を受けたものです。