[PF71] 小学生の読み書き能力を予測する6年間の縦断的研究
音韻認識,Rapid Automatized Naming (RAN),音韻記憶,正字処理の役割
Keywords:音韻認識, Rapid Automatized Naming, 流暢性
研究の目的と背景
本研究は定型的な発達を遂げている小学1年生41名を対象に行った。小学1年生時の音韻認識,Rapid Automatized Naming (RANひらがな),音韻記憶(無意味後復唱),正字処理(orthographic processing)が,小学1, 2, 3, 4, 6年生時の音読,読解,漢字書字をどのように予測するかを明らかにするための縦断的調査である。
読み障害(ディスレクシア)は児童の学力,社会参加,人生に多大な影響を与えるため,早期に読み獲得に困難を生じる恐れがある児童を発見し,適切な指導を提供することが必要である。そのためには,早期発見を可能にする検査に有用な課題が必要になる。
音韻認識とは,話し言葉の音(音韻)に意識的に注意を払うことである(Adams, 1990)。日本語における音韻認識能力と読みとの関連性については,4~5歳児の音韻認識能力がひらがな語の音読に関連していた例や,音韻認識能力指導によって,ひらがな読み能力が促進された例などが報告されている。
ANは,不規則かつ連続的に列記された5~7種類のオブジェクト(椅子・魚などの絵),文字,数字,色などをできるだけ早く読みあげるという課題である。文字を使用したRAN課題は,文章を音読する事とは異なり,適切なイントネーションや間をとること,文意を理解しながら読むこと,文意から次の語を予測しながら読むことなどの負荷がなく,文字をいかに自動的に素早く音声化できるかの速さを評価する課題であり,オブジェクトや色を使用したRANよりも読み能力の予測精度が高いと報告されている(Badian, McAnulty, Duffy, et al., 1990)。
音韻記憶とは,話し言葉の音(音韻)を受け取ったり,分析したり,処理したりする過程であり,数字や無意味語を復唱する課題で評価される。音韻記憶は,まず,様々な話し言葉の音を区別し学び,それらを記憶に留めることに関わるため,語彙獲得そして読みにも影響を及ぼすと考えられている(Gathercole, 1990)。
正字処理とは,文字の形体を迅速に認知する能力であり(Badian, 1994),その処理能力がいとも簡単で自動的であるほど,文字を流暢に読むことができると考えられている(Adams, 1990)。
方 法
日本人児童小学1年生41名が本調査に参加した。全員発達上の問題は報告されておらず,日本語を母国語としている。参加者全員より,調査協力の承諾を得ている。読解問題は一斉集団テスト形式で行ったが,それ以外の課題は一対一の個別面接形式で行った。音読課題は,個別面接形式で行った。
小学1, 2, 3, 4, 6年時の3学期に,読解課題として,教研式全国標準読書力診断検査の読解・鑑賞力下位テストと,学年相応の漢字書字テストを実施した。
同時期に以下の課題を実施した。
①音韻認識(モーラ削除):検査者が口頭提示した有意味語を,検査者の指示に従って,語頭,語中,もしくは語尾のモーラを削除した語を表出する。
②ひらがなRAN:使用頻度が高く読み方が一通りのひらがな6文字が無作為に列記されている(縦4段,横9列)検査版を,できるだけ早く読みあげる。
③音韻記憶(無意味語復唱):検査者が口頭提示した無意味語を復唱する。
④正字処理(漢字判断):実在する漢字としない漢字が無作為に並べられている列から,実在する漢字を見つけ○をする。
結 果
小学1, 2, 3, 4, 6年時の音読・読解・漢字書字と有意な相関であった課題を,Stepwise regression analyses に投入したところ,音読の速さと音韻認識が全ての学年の読解を予測した。音読の速さと正確さ,正字処理,そして音韻認識が漢字の書字を予測したが,それら書く課題の予測率は学年によってかなりの異なりを示した。
考 察
本研究の結果より,これまでのアルファベット語圏の研究で読み能力を予測すると報告されている音韻認識能力が,日本語の小学生の小学1, 2, 3, 4, 6年時の読解だけでなく漢字書字など,基本的な読み書き能力の予測に強く貢献していることが示唆された。各課題による学年ごとの読み書き能力予測への寄与率はかなり異なり,児童の読み書き経験が増すにつれ,読み書きに影響を及ぼす能力が変化していくことは,アルファベット語圏の研究でも報告されており(Badian, 1995),同様の結果を得ることができた。
本研究は定型的な発達を遂げている小学1年生41名を対象に行った。小学1年生時の音韻認識,Rapid Automatized Naming (RANひらがな),音韻記憶(無意味後復唱),正字処理(orthographic processing)が,小学1, 2, 3, 4, 6年生時の音読,読解,漢字書字をどのように予測するかを明らかにするための縦断的調査である。
読み障害(ディスレクシア)は児童の学力,社会参加,人生に多大な影響を与えるため,早期に読み獲得に困難を生じる恐れがある児童を発見し,適切な指導を提供することが必要である。そのためには,早期発見を可能にする検査に有用な課題が必要になる。
音韻認識とは,話し言葉の音(音韻)に意識的に注意を払うことである(Adams, 1990)。日本語における音韻認識能力と読みとの関連性については,4~5歳児の音韻認識能力がひらがな語の音読に関連していた例や,音韻認識能力指導によって,ひらがな読み能力が促進された例などが報告されている。
ANは,不規則かつ連続的に列記された5~7種類のオブジェクト(椅子・魚などの絵),文字,数字,色などをできるだけ早く読みあげるという課題である。文字を使用したRAN課題は,文章を音読する事とは異なり,適切なイントネーションや間をとること,文意を理解しながら読むこと,文意から次の語を予測しながら読むことなどの負荷がなく,文字をいかに自動的に素早く音声化できるかの速さを評価する課題であり,オブジェクトや色を使用したRANよりも読み能力の予測精度が高いと報告されている(Badian, McAnulty, Duffy, et al., 1990)。
音韻記憶とは,話し言葉の音(音韻)を受け取ったり,分析したり,処理したりする過程であり,数字や無意味語を復唱する課題で評価される。音韻記憶は,まず,様々な話し言葉の音を区別し学び,それらを記憶に留めることに関わるため,語彙獲得そして読みにも影響を及ぼすと考えられている(Gathercole, 1990)。
正字処理とは,文字の形体を迅速に認知する能力であり(Badian, 1994),その処理能力がいとも簡単で自動的であるほど,文字を流暢に読むことができると考えられている(Adams, 1990)。
方 法
日本人児童小学1年生41名が本調査に参加した。全員発達上の問題は報告されておらず,日本語を母国語としている。参加者全員より,調査協力の承諾を得ている。読解問題は一斉集団テスト形式で行ったが,それ以外の課題は一対一の個別面接形式で行った。音読課題は,個別面接形式で行った。
小学1, 2, 3, 4, 6年時の3学期に,読解課題として,教研式全国標準読書力診断検査の読解・鑑賞力下位テストと,学年相応の漢字書字テストを実施した。
同時期に以下の課題を実施した。
①音韻認識(モーラ削除):検査者が口頭提示した有意味語を,検査者の指示に従って,語頭,語中,もしくは語尾のモーラを削除した語を表出する。
②ひらがなRAN:使用頻度が高く読み方が一通りのひらがな6文字が無作為に列記されている(縦4段,横9列)検査版を,できるだけ早く読みあげる。
③音韻記憶(無意味語復唱):検査者が口頭提示した無意味語を復唱する。
④正字処理(漢字判断):実在する漢字としない漢字が無作為に並べられている列から,実在する漢字を見つけ○をする。
結 果
小学1, 2, 3, 4, 6年時の音読・読解・漢字書字と有意な相関であった課題を,Stepwise regression analyses に投入したところ,音読の速さと音韻認識が全ての学年の読解を予測した。音読の速さと正確さ,正字処理,そして音韻認識が漢字の書字を予測したが,それら書く課題の予測率は学年によってかなりの異なりを示した。
考 察
本研究の結果より,これまでのアルファベット語圏の研究で読み能力を予測すると報告されている音韻認識能力が,日本語の小学生の小学1, 2, 3, 4, 6年時の読解だけでなく漢字書字など,基本的な読み書き能力の予測に強く貢献していることが示唆された。各課題による学年ごとの読み書き能力予測への寄与率はかなり異なり,児童の読み書き経験が増すにつれ,読み書きに影響を及ぼす能力が変化していくことは,アルファベット語圏の研究でも報告されており(Badian, 1995),同様の結果を得ることができた。