日本教育心理学会第61回総会

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自主企画シンポジウム

[JB05] JB05
学校不適応に対する新たな支援システムや多様なアプローチを考える

不登校や発達障害,学習困難の理解と支援

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 3階 (3305)

企画・司会・指定討論:小林正幸(東京学芸大学)
話題提供:早川惠子(都留文科大学)
話題提供:木谷秀勝#(山口大学)
話題提供:三浦巧也(東京農工大学)
話題提供:原田克己(金沢大学)

[JB05] 学校不適応に対する新たな支援システムや多様なアプローチを考える

不登校や発達障害,学習困難の理解と支援

小林正幸1, 早川惠子2, 木谷秀勝#3, 三浦巧也4, 原田克己5 (1.東京学芸大学, 2.都留文科大学, 3.山口大学, 4.東京農工大学, 5.金沢大学)

Keywords:不登校、発達障害、学習困難

企画趣旨
小林正幸・橋本創一
 小中学校や高等学校における児童生徒の不登校や発達障害,学習困難などの学校不適応は増加傾向にあり,学習支援や生活指導などで大きな課題となっている。児童生徒そのものの実態・課題と学校・地域の特色,保護者・家族・家庭環境による影響などが複雑にからみ合っており,これまでの支援方法では解決にいたらない事例が少なくない。つまり,困難事例における独自な問題背景(個人差や家庭環境,体験されたイベントなど)が大きく影響されることが多い。
 本シンポジウムでは、不登校や発達障害,学習困難による不適応への専門的な指導・援助の導入,工夫されたアプローチにより成果をあげた事例を紹介しながら,‘うまく前に進める’ための挑戦について考える。〔国立大学教育実践研究関連センター協議会教育臨床部会〕

話題提供1
NPOにおける「不登校」「学習支援」「被災児支援」
早川恵子
 2011年東日本大震災後の夏から7年にわたって計20回,心のケアのための「みどりの東北元気キャンプ」を福島県裏磐梯小野川湖,南会津,宮城県松島で展開してきた。震災後数年は参加者の多くは,避難所にいる小学生中学生であった。心理,野外活動,教育,それぞれの専門家がスタッフとして被災して心の傷を負った子どもたちのケアに当たった。そこでの援助方法は,被災児に留まらず,学校,集団不適応,不登校,発達障害やその可能性のある子ども,すなわち特別に支援が必要な子どもたちに役に立つことに気が付いた。
 そこで,「みどりの東北元気キャンプ」の開始後数年で、そこで開発されたノウハウを広く一般の支援者や子どもに活かすことを目的として,NPOを立ち上げた。そこでは,「すべての子どもたちに勇気と笑顔を!」をコンセプトに,子どもにかかわる指導者・支援者が抱える課題を解消する方法を研究・開発し,その成果は研修を通じて子どもたちにかかわるすべての人たちに伝達する活動となっている。
 NPO法人の実践の場「カウンセリング研修センター学舎ブレイブ」では,学校不適応,不登校など学校教育活動で困難を感じる本人とその保護者のための「カウンセリング」,不登校児童・生徒のための「適応指導教室」,学習が苦手な児童・生徒のための「学習支援」,発達障害で悩む児童・生徒のための「療育」,さらには,その子どもたちが安心して社会に出るまでの「就労支援」を行っている。また,利用者の保護者向けのグループカウンセリング,進路相談会も行っている。
 今回は,心のケアのキャンプとNPO法人としての活動を通して,効果的な支援について見えてきたことを具体的にお示ししたい。

話題提供2
「女性の発達障害」から見えてきた新たな支援の方向性
木谷秀勝
 近年,女性の発達障害が注目されている。元々ASDを初めとした発達障害の診断基準自体が男の子・男性の行動特性を中心にして検討されてきた経緯があることは確かである。そのため,女性のASDに特有な行動特性(Female Autism Phenotype)の再検討が求められている。
 その背景には,女性に特有な症状や身体化を有する場合,具体的には,不安性障害(特に,社交不安)や摂食障害や選択性緘黙では,発達障害以外の診断や支援が行われる結果,当事者自身が長い期間苦悩している事例に出会うことが多い。
 そこで,今回の発表では,拙書『発達障害のある女の子・女性の支援:「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』(川上・木谷,2019)を参考にしながら,女性の発達障害への理解と支援について報告する。同時に,そこから新たに見えてきた「発達障害」の新たな支援の方向性について検討する。具体的には,発達障害児者が苦悩している「自分らしく生きる」ことへの葛藤の高さと,成長するにつれて強くなる不安(その背景にある感覚障害)への理解と支援が重要になってくる。
参考文献
川上ちひろ・木谷秀勝編(2019):『発達障害のある女の子・女性の支援:「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』 金子書房.

話題提供3
特別な支援ニーズを踏まえた英単語学習支援の効果
三浦巧也
 本シンポジウムでは,英単語の指導を事例として,教科の教員とスクールカウンセラー(以下,SC)協働して学校の現状・ニーズを把握し,それに応じた支援方法の効果に関する話題を報告する。
 実施した支援では,まず,英語科において学業不振を示している生徒の特別な支援ニーズを把握するため,SCが学習方略と学習時の困難さおよび,行動・情緒面に関するアセスメントを行った。次に,アセスメントの結果を踏まえ,教師とSCが協働して英単語学習支援方法を開発し,対象生徒に実践した。
 支援の結果,音韻と綴りの規則性に関わる体制化方略として用いたフォニックスをもとにして,特別な支援ニーズとしてあげられた注意集中を促すことや,他者との交流による学びを考慮した学習支援は,学力不振を示す生徒に体制化という新たな学習方略を与え,英単語テストの得点向上といった成功体験を得ることに繋がる一翼となることが推察された。
また,本研究で開発した学習支援方法は,生徒自身の学習意欲を高め,学習した英単語を覚え,達成感を得る一体験であることも推察された。
 そして,校内のSCと教師がお互いの専門性を生かして,生徒の特別な支援ニーズを把握し,現況に応じた学習支援方法を開発・実践することは,生徒の学力を高めるために有効な手立ての一つであることが考察された。

話題提供4
生活困窮世帯の子どもたちへの学習支援と居場所づくり
原田克己
 近年ようやく学校教育においても貧困問題が対応課題として取り上げられるようになった。この流れを先取りする形で,金沢市では金沢市社会福祉協議会が運営母体となり,金沢市及び金沢市教育委員会と連携して,平成24年度から生活保護受給世帯(現在は生活困窮世帯)にある中学生たちに学習支援と社会的居場所の提供を行う取組が始まった。
 この取組の趣旨は,対象となる子どもたちを高校進学につなげることで,経済的な負の連鎖を断つことにあるが,通室型の支援であること,学習支援には大学生をボランティアとして活用し,その学生たちとの親和的な対話や交流を提供することで,この場が社会的居場所として機能することも重要な目的としている。
 学習支援は月に6回程度行われ,自習形式とボランティア学生とのマンツーマン支援形式とで行われている。また,夏休み,冬休み,年明けには交流イベントを開催しており,バーベキューやレクリエーション等を通して,子ども,ボランティア学生,スタッフ相互の交流も図っている。
 対象となる子どもたちは,生活保護や生活困窮者を支援する担当の社会福祉士等からの家庭への紹介を受けて,自発的に通室している。部活動等で頻繁には通えない子も通えるときにはいつでも通える体制であり,勉強する内容も時間も自分で決められるため,無理なく利用できるものとなっている。
 現在,7年間の取組を終え,8年目に入ったところである。この間,通室した子どもたちは皆高校進学を果たしている。高校進学後も自発的に通室する子どもたちが多くおり,中には大学進学を希望する子も出てきている。これらのことはこの場がまさに彼ら彼女らにとって居場所となっていることを示しており,また,希望を持って将来を描くことの一助となっていることを示している。シンポジウムでは,この活動について具体的に紹介することで,福祉と教育の連携による適応支援についての話題提供としたい。
〔KOBAYASHI Masayuki, HASHIMOTO Soichi,HAYAKAWA Keiko, KIYA Hidekatsu, MIURA Takuya, HARADA Katsumi