日本教育心理学会第61回総会

講演情報

自主企画シンポジウム

[JC07] JC07
多様なニーズを持つ子どもたちを支える学校づくり          

多職種連携の必要性と課題を考える

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 3階 (3308)

企画・話題提供:小野學(東京学芸大学)
企画・話題提供:堀口康太(筑波大学)
話題提供:入江優子#(東京学芸大学)
話題提供:田嶌大樹#(東京学芸大学)
指定討論:梅山佐和#(東京学芸大学)
司会:河美善#(東京学芸大学)

[JC07] 多様なニーズを持つ子どもたちを支える学校づくり          

多職種連携の必要性と課題を考える

小野學1, 堀口康太2, 入江優子#3, 田嶌大樹#4, 梅山佐和#5, 河美善#6 (1.東京学芸大学, 2.筑波大学, 3.東京学芸大学, 4.東京学芸大学, 5.東京学芸大学, 6.東京学芸大学)

キーワード:顔の見える関係、アセスメントの共有、多職種連携

企画趣旨
小野 學
 公立小学校において,特別な教育的ニーズを持つ子どもたちとは「スローラーナー」「発達障がいを持つ児童」「精神疾患を持つ児童」「虐待を受けている児童」「不登校児童」「いじめ被害児」「日本語指導を必要としている外国籍児童」「帰国子女」,「貧困状態にある児童」等のことである。
 このような状況に対応するため,多くの自治体では様々な施策が試みられている。しかし,いくつかの公立小学校の支援状況を概観すると,通常学級内で特別な教育的ニーズを持つ子どもを把握できない教師や,特別なニーズを把握していても支援を通級指導教室や他機関任せで「他人事」として捉えている教師の存在が目につくようになった。さらに校内で子どもに関する情報共有が不十分で,アセスメントを共有できない状況が生じており,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの学校支援人材と協働した支援ができていない事案に出会うことも多くなった。
 このような状況をふまえ本シンポジウムでは,学校現場での多職種連携の課題を共有し指定討論者の問題提起を手掛かりとして,参加者の皆さんと校内での連携の在り方や学校支援人材の活用,そして地域と連携した支援の在り方を考え,多様なニーズを持つ子どもたちを支援できる学校の姿を探っていきたいと考えている。

話題提供
小学校の現状と課題
小野 學
 公立の小学校では,特に発達障害児やその周辺児への支援とともに,被虐待児,精神疾患を持っている子ども等,多様な教育的ニーズを持つ子どもたちが在籍している。
 発達障害を持つ子どもたちの一部は支援教育学級や通級指導教室の支援を受けているが,ほとんどの子どもたちは通常学級の中で学習しており,個々の教育的ニーズの応じた教育支援が十分に提供されているとは言えない実態がある。子どもたちの多様な教育的ニーズに対応できていない要因のひとつとしては「日の出から深夜まで」と揶揄される教員の多忙な日常も大きく影響している。さらに最近では従来の教育課程の教科に加え外国語や道徳といった教科が追加され,その指導時間確保のために過密なカリキュラムをこなしていかなければならない。また教員は休み時間も委員会,クラブ活動,各種実行委員会の指導に忙殺されている。さらに大量定年を迎え,指導経験が少ない教員が増えそれまであった教員間の知識や技術の伝承ができにくくなってきている現状もある。
 子どもたちの教育的ニーズを明確にし,支援にあたる関係者間で共有できない状況は,職場でなんでも話し合える同僚性が関係していると指摘されて久しいが,特に深刻な課題を抱える学校では職員室内の教員同士の「つながり」が希薄になってきているように感じられる。
 さらに子どもの不適応行動は家庭の状況を反映させている場合が少なくないが,学校は家庭状況を把握するのが難しくなってきている現状もある。
 本シンポジウムでは,このような学校の現状を報告するとともに,校内や地域,専門機関と協働した支援が可能になるかを先進校の取り組みをもとに考えていきたい。

子どもたちの多様性を生かすコミュニティ・スクールづくり    
入江 優子
 子どもたちの多様性に応じた教育のための「チーム学校」の体制づくりが急がれ,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど,教員と心理・福祉関係専門職の連携が進められつつある。また同時に,様々な社会課題を学校と地域が協働しながら学び,取り組む地域学校協働の仕組みとして,コミュニティ・スクールの導入が進められている。  
 コミュニティ・スクールとは,文部科学省によれば「学校と保護者や地域の皆さんがともに知恵を出し合い,学校運営に意見を反映させることで,一緒に協働しながら子供たちの豊かな成長を支え『地域とともにある学校づくり』を進める仕組み」であり,平成29年4月施行の法改正によって,全ての学校へのコミュニティ・スクールの導入が努力義務化され,学校運営に「必要な支援」についても協議対象であることが明確化された。しかしながら,筆者が行ったある公立小学校の調査からは,コミュニティ・スクールの仕組みを有していても,配慮を有する児童・生徒の情報を取り上げて協議する場面は少なく,コミュイティ・スクールの委員とスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの接点も設けられておらず,教育相談・福祉連携につながる校内支援体制とコミュニティ・スクールの仕組みが必ずしも連動していないことが示唆された。また,教員も,相談には繋がっても学習面の配慮や子どもが定期的に活用できる居場所・地域資源の不足を感じていることが示された。
 本シンポジウムでは,望ましい体制構築の模索が続く過渡期的状況の中で,コミュニティ・スクールの仕組みの中に,教員,保護者,地域住民,放課後活動関係者や心理・福祉専門職などをメンバーとして情報共有や地域で子どもたちが参画できる活動の企画・実践を担う組織体を設けている事例,「家庭教育支援チーム」を置き,地域の支援員が教員や専門職と連携しながら家庭訪問型の見守り支援を行っている事例の2事例を取り上げ,立場の異なる関係者が,子どもたちを取り巻く様々な「学び」ながら「つながり」,子どもたちの多様性を生かす学びや居場所を「つくる」ことのできる,包摂的な学校づくりについて提案し,議論を深めたい。

学校と放課後の場の連携・協働について
田嶌 大樹
 近年,夫婦共働き世帯の増加や,グローバル化による地域の共同体の消失等に伴い,子どもの放課後を巡る環境が著しく変化してきている。例えば,子どもが巻き込まれる事件の7割は放課後(15時〜18時)に起きている(千葉県警 2012)というデータにもみられるように,子どもの放課後の危険性が高まっている。また,経済状況に比較的ゆとりのある家庭の子どもたちが習い事や学習塾に通うケースが増える一方で,経済的に厳しい状況にあって習い事や学習塾に通いたくても通うことができない家庭の子どもたちとの学習・体験の機会格差が生じていることも指摘されている。
 こうした社会的状況の中で,誰もが大人の見守りの中で安心して過ごし,かつ,様々な人と出会い関わり合いながら多様な体験をし,成長していくことができるような放課後の場を創り出す必要性は,日に日に増してきているといえる。
 このような問題関心のもと,報告者の所属する東京学芸大学パッケージ型支援プロジェクトでは,2016年度より,東京学芸大学附属小金井小学校の児童・家庭を対象にした「東京学芸大学放課後児童クラブ」を設置し,国立大学とその附属学校が連携しながら子どもたちを支える放課後フィールドを創出することに向けたアクションリサーチを行ってきた。今回の報告では,このアクションリサーチの取り組みを通じてみえてきた成果と課題を,教育における「学校」「地域」「家庭」の連携・協働というところに焦点を絞り報告してみたい。
 昨今,学校現場に求められる課題の多様化・複雑化や地域の教育力低下などを背景として,教育における「学校」「地域」「家庭」の連携・協働の重要性が叫ばれて久しいが,そのような中で,「地域」における放課後の場は子どもたちの成長や発達に何をもたらすのか,また,学校や家庭と連携することの意義はどのようなところにあるのか,といったことを明らかにすることは,これからの教育のあり方を考えていく上で重要な課題であるように思われる。
 「地域社会」や「放課後」が,ある種学校や家庭を下支えする「共通の土壌」であり,「間」であると考えると,「地域社会」や「放課後」は,場合によっては学校や家庭との連携の中でそれらの価値観を補強していくこともできるし,場合によっては学校や家庭の価値観を相対化していくこともできるという,ある種アドホックな構造を有している。そうしたアドホックな実践の中で多くの成果を生み出していくには,どのようなことが重要となるのか,事例を紹介しながら議論を深めたい。

学校と児童福祉の効果的な協働
児童家庭支援センターと民生委員児童委員・主任児童委員による支援の理解を通して
堀 康太
 現代のように高度に専門分化された社会においては,学校教員は教育の専門家として,福祉機関の職員は児童福祉の専門家として,そして地域住民は地域の生活者の立場から子どもの生活を支えるといったように異なった役割を担うことになる。それ故,子どものくらしを包括的に支えるには,あらゆる大人が協働して支援を行う必要が迫られている。
 しかし,児童相談所と市町村児童家庭相談窓口という福祉の専門機関の間でも連携は課題であり(子どもと福祉編集委員会, 2013),ましてや専門領域を異にする学校と福祉機関の連携となると,より課題があると考えられる (蓮尾・鈴木・山川,2012)が,その背景には,お互いの役割や機能,そして子どもの支援におけるアセスメントや対応方針等を共有できていないことがあると考えられる。
 児童福祉で重要な概念である「顔の見える関係」はお互いの役割や機能,アセスメントや対応方針を共有できている状態を示すと考えられる。したがって,子どものくらしを包括的に支えるためには,学校と福祉の「顔の見える関係」が必要不可欠であり,それが発展していけば,一人の子どもを支援する際に,あたかも同一の事業者に所属する職員のように組織的に働く「顔の見える以上の関係;統合(integration)」(福井ら, 2015)が構築できると考えられる。
 本話題提供では,特に児童虐待の予防的アプローチを念頭に,児童家庭支援センターと民生委員児童委員・主任児童委員の役割・機能・支援における葛藤を取り上げ,学校と児童福祉機関による効果的な協働による子どもへの支援を考えたい。