[JG02] 学校臨床における質問紙・チェックリスト活用によるアセスメントを考える
発達障害や学習困難の支援ニーズと指導の評価
Keywords:発達障害、質問紙、学習困難
企画趣旨
発達障害や学習困難のある児童生徒の教室におけるスクリーニングやアセスメントとして,質問紙・チェックリスト活用はきわめて有効であるとされる。一方で,大きな個人差や様々な障害特性,軽佻な症状・リスクを見極める際の難しさも指摘される。今日では,様々な支援ニーズを評価するツールが開発されている。スクールカウンセラー,教師,外部専門家などの多職種によるチーム連携からの実践も期待される。こうした状況で,誰が,どのアセスメントツールを,どのように用いて,効果を期待するかを考える必要があろう。加えて,子どもの実態把握のみではなく,教師の指導評価などの側面についても検討する。
話題提供1
ICD-11と発達障害,支援ニーズの評価について
橋本創一
発達障害に関する診断基準におけるICD-11(国際疾病分類,2018)は,DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル,2013)とほぼ同一のものであった。IDD(知的発達障害),コミュニケーション障害,ASD(自閉症スペクトラム障害),LD(学習障害),運動障害(発達性協調運動障害,チック),ADHD(注意力欠如多動性障害)などが発達障害とされた。また,PDD(広汎性発達障害)からASD概念への転換,ASDとADHDなどの併存診断が可能,ASDとIDDの関係性精査とASDの症状評価(コミュニケーション・固執),ASDの感覚過敏,などが新たに登場した。様々な併存症が顕著にみられることが指摘されており,その精神医学的評価(抑うつ,睡眠障害,心身症,強迫症,不安障害,依存症,PTSD,自傷行為,統合失調症など)が,発達障害そのものの症状や支援ニーズの評価とともに必要とされる。こうした点をどのように明確に評価し,支援に結びつけるための整理分析ができるかが効果的な支援の第一歩とされる。一方で,スティグマにつながるような診断は避けるべきである。WISCなどの認知機能アセスメントでは見えてこない支援ニーズと具体的な援助を考えるために,実際の観察と分析を進めるための質問紙・チェックリストなどを考える。
話題提供2
適応スキルの評価について
熊谷 亮
知的能力障害の診断基準の1つに適応機能の制約,つまり概念的,社会的,および実用的な領域における適応スキルの獲得の遅れが挙げられている。適応スキルの獲得状況を評価するアセスメントの必要性の高まりを受けて,我が国においてもS-M社会生活能力検査第3版やVineland-Ⅱ適応行動尺度,ASIST学校適応スキルプロフィールなどの適応行動尺度が開発・活用されている。適応行動尺度は,行動観察に基づいて評価を行なうため,対象児本人の適応スキルの獲得状況や必要な支援レベルを明らかにし,今後必要なスキルを具体的に知ることが可能となる。特に,発達障害児はその特性がゆえに知的能力や学習到達度の高さに比べて適応スキルの獲得が遅れている,あるいは領域間のばらつきが大きいケースも多い。そのため,適応スキルの獲得状況を把握することで,対象児の実態を詳細に把握することが可能となる。発達障害児のアセスメントとして活用されている知能検査と比較すると,適応行動尺度は検査用具を必要とせず短時間で実施できるなどの利点があるため,学校現場においても活用しやすいと考えられる。本シンポジウムでは,通常学級に在籍する発達障害児に対して行なった実践から,適応行動尺度を含めたアセスメントの有効性や課題について話題の提供を試みたいと考えている。
話題提供3
障害特性の評価におけるアセスメントツールの現状と課題
堂山亞希
今日では,発達障害児者支援において,エビデンスに基づく評価・支援を行っていくことは,教育者・支援者に当然求められる態度である。障害者権利条約への署名・批准に伴い,障害者差別解消法の施行,特別支援教育に関わる学校教育法の改正がなされ,学校現場において合理的配慮を行うことが求められている。合理的配慮の原語である「Reasonable Accommodation」を直訳すると,根拠のある変更・調整であり,その根拠の一つとして,エビデンスに基づく評価・支援が重要であると考えられる。
黒田(2016)は,発達障害支援において「包括的アセスメント」の必要性を指摘しており,包括的アセスメントを,①発達障害に特化したアセスメント,②知的水準・認知特徴のアセスメント,③適応行動のアセスメント,④感覚や運動のアセスメント,⑤併存疾患のアセスメント,⑥心理社会的・環境的アセスメント,の6つの要素に分類している。このうち,①発達障害に特化したアセスメントは,障害特性を評価するアセスメントであり,近年,海外のアセスメントツールの翻訳や日本版の開発が進み,自閉スペクトラム症にはPARS-TRなど,注意欠如・多動症にはConners3など,妥当性と信頼性を備えたアセスメントツールが広く用いられるようになってきている。他にも,感覚の過敏さや過鈍さを評価するSP感覚プロファイルなど,一部の障害特性に特化して評価するアセスメントツールも翻訳されている。これらのアセスメントツールは,適用できる対象者や面接や質問紙などの評定方法,評定結果の算出・表示方法など,いくつもの差異があり,どの場面でどのアセスメントツールを使用するのが適切なのか,その結果をどのように支援につなげるべきなのかについて,整理・検討が十分なされているとは言い難い。
そこで,本シンポジウムでは,特に,障害特性を評価するアセスメントについて,現在日本で使用されているものを概観し,それらを用いる上での課題や支援への導入について検討していく。
話題提供4
学習のつまずきチェックリストの標準化の試みから見えること―発達障害のある児童生徒の全国実態調査のチェックリストに焦点をあてて―
玉木宗久
学習ニーズのチェックリストの1つに平成15年「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」並びに平成24年「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」で利用されたものがある。これらの調査は,我が国の発達障害の可能性のある児童生徒の実態を推計するために実施されたものであるが,「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン(文部科学省,2017)」においては「学校内の児童等の実態を把握するため」に,このチェックリストが活用できることが述べられている(以後「実態調査チェックリスト」と略す)。著者らは,通常の学級の児童生徒,並びに通級による指導(以後「通級」と略す)を利用している児童生徒を対象として,このよく知られている実態調査チェックリストの標準化を進めてきた(玉木・海津,印刷中)。ここでは,その試みから得られた以下の3つの知見を報告し,実態調査チェックリストの活用における留意点や可能性について議論する。①通常の学級の児童生徒(標準データ)において,学習のつまずき得点の学年,性別,学習領域による違いを調べた結果,いずれの比較においても有意差が認められた,②通級に通う発達障害(LD,ADHD,ASD)のある児童生徒の学習のつまずきを調べた結果,LDだけでなく,ADHDやASDのある児童生徒においても配慮すべきつまずきや特徴があることが示唆された,③児童・生徒の行動・情緒面の特性(ASEBAシリーズ教員記入用紙)との関連を検討した結果,学習のつまずきのいずれの領域も注意の問題との間に比較的高い相関があることが示唆された。
話題提供5
教科横断型の学習指導において学習評価を充実させるための一提案
梶井芳明
近年,我が国の教育実践においては,「主体的・対話的で深い学び」や「資質・能力の育成」等の視点から,学習者中心の学習指導,評価の在り方の見直しと実質化が求められている。
文部科学省(2015)が,「『子供たちにどういった力が身に付いたか』という学習の成果を的確に捉え,教員が指導の改善を図るとともに,子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには,この学習評価の在り方が極めて重要」と示す通り,学習評価は,教師が,指導と評価を一体化させた教育実践に取り組むのに加え,子供の自己評価能力を育む上でも,重要な概念の1つに位置付けられる。
従来,学習評価の充実については,教科指導におけるICT の活用の必要性が示されてきた(文部科学省, 2009)。さらに,近頃は,教科横断型の学習指導においても,学習評価を充実させることが一層求められており,例えば,教育工学の領域においては,教科横断型の学習指導におけるICT を用いた学習評価の実践や,その効果を扱った研究が見られるようになってきている。
そこで,本シンポジウムでは,教科横断型の学習指導において,子供たちの多様な学びに応じたICTを用いた学習評価の実践を充実させるための指導上の工夫や留意事項について,話題提供らが取り組み中の,東京学芸大学附属大泉小学校の「探究科」の学習活動に関わる研究成果をもとに話題提供をする。具体的には,教科横断型の学習指導におけるICTを用いたルーブリックを使用した学習評価を充実させるための工夫や留意事項について,「指導と評価の一体化」および「子供の自己評価能力の育成」を重要語に位置付け,実践事例を示した発表を行う。
(KUMAGAI Ryo, HASHIMOTO Soichi, DOYAMA Aki, TAMAKI Munehisa KAJII Yoshiaki)
発達障害や学習困難のある児童生徒の教室におけるスクリーニングやアセスメントとして,質問紙・チェックリスト活用はきわめて有効であるとされる。一方で,大きな個人差や様々な障害特性,軽佻な症状・リスクを見極める際の難しさも指摘される。今日では,様々な支援ニーズを評価するツールが開発されている。スクールカウンセラー,教師,外部専門家などの多職種によるチーム連携からの実践も期待される。こうした状況で,誰が,どのアセスメントツールを,どのように用いて,効果を期待するかを考える必要があろう。加えて,子どもの実態把握のみではなく,教師の指導評価などの側面についても検討する。
話題提供1
ICD-11と発達障害,支援ニーズの評価について
橋本創一
発達障害に関する診断基準におけるICD-11(国際疾病分類,2018)は,DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル,2013)とほぼ同一のものであった。IDD(知的発達障害),コミュニケーション障害,ASD(自閉症スペクトラム障害),LD(学習障害),運動障害(発達性協調運動障害,チック),ADHD(注意力欠如多動性障害)などが発達障害とされた。また,PDD(広汎性発達障害)からASD概念への転換,ASDとADHDなどの併存診断が可能,ASDとIDDの関係性精査とASDの症状評価(コミュニケーション・固執),ASDの感覚過敏,などが新たに登場した。様々な併存症が顕著にみられることが指摘されており,その精神医学的評価(抑うつ,睡眠障害,心身症,強迫症,不安障害,依存症,PTSD,自傷行為,統合失調症など)が,発達障害そのものの症状や支援ニーズの評価とともに必要とされる。こうした点をどのように明確に評価し,支援に結びつけるための整理分析ができるかが効果的な支援の第一歩とされる。一方で,スティグマにつながるような診断は避けるべきである。WISCなどの認知機能アセスメントでは見えてこない支援ニーズと具体的な援助を考えるために,実際の観察と分析を進めるための質問紙・チェックリストなどを考える。
話題提供2
適応スキルの評価について
熊谷 亮
知的能力障害の診断基準の1つに適応機能の制約,つまり概念的,社会的,および実用的な領域における適応スキルの獲得の遅れが挙げられている。適応スキルの獲得状況を評価するアセスメントの必要性の高まりを受けて,我が国においてもS-M社会生活能力検査第3版やVineland-Ⅱ適応行動尺度,ASIST学校適応スキルプロフィールなどの適応行動尺度が開発・活用されている。適応行動尺度は,行動観察に基づいて評価を行なうため,対象児本人の適応スキルの獲得状況や必要な支援レベルを明らかにし,今後必要なスキルを具体的に知ることが可能となる。特に,発達障害児はその特性がゆえに知的能力や学習到達度の高さに比べて適応スキルの獲得が遅れている,あるいは領域間のばらつきが大きいケースも多い。そのため,適応スキルの獲得状況を把握することで,対象児の実態を詳細に把握することが可能となる。発達障害児のアセスメントとして活用されている知能検査と比較すると,適応行動尺度は検査用具を必要とせず短時間で実施できるなどの利点があるため,学校現場においても活用しやすいと考えられる。本シンポジウムでは,通常学級に在籍する発達障害児に対して行なった実践から,適応行動尺度を含めたアセスメントの有効性や課題について話題の提供を試みたいと考えている。
話題提供3
障害特性の評価におけるアセスメントツールの現状と課題
堂山亞希
今日では,発達障害児者支援において,エビデンスに基づく評価・支援を行っていくことは,教育者・支援者に当然求められる態度である。障害者権利条約への署名・批准に伴い,障害者差別解消法の施行,特別支援教育に関わる学校教育法の改正がなされ,学校現場において合理的配慮を行うことが求められている。合理的配慮の原語である「Reasonable Accommodation」を直訳すると,根拠のある変更・調整であり,その根拠の一つとして,エビデンスに基づく評価・支援が重要であると考えられる。
黒田(2016)は,発達障害支援において「包括的アセスメント」の必要性を指摘しており,包括的アセスメントを,①発達障害に特化したアセスメント,②知的水準・認知特徴のアセスメント,③適応行動のアセスメント,④感覚や運動のアセスメント,⑤併存疾患のアセスメント,⑥心理社会的・環境的アセスメント,の6つの要素に分類している。このうち,①発達障害に特化したアセスメントは,障害特性を評価するアセスメントであり,近年,海外のアセスメントツールの翻訳や日本版の開発が進み,自閉スペクトラム症にはPARS-TRなど,注意欠如・多動症にはConners3など,妥当性と信頼性を備えたアセスメントツールが広く用いられるようになってきている。他にも,感覚の過敏さや過鈍さを評価するSP感覚プロファイルなど,一部の障害特性に特化して評価するアセスメントツールも翻訳されている。これらのアセスメントツールは,適用できる対象者や面接や質問紙などの評定方法,評定結果の算出・表示方法など,いくつもの差異があり,どの場面でどのアセスメントツールを使用するのが適切なのか,その結果をどのように支援につなげるべきなのかについて,整理・検討が十分なされているとは言い難い。
そこで,本シンポジウムでは,特に,障害特性を評価するアセスメントについて,現在日本で使用されているものを概観し,それらを用いる上での課題や支援への導入について検討していく。
話題提供4
学習のつまずきチェックリストの標準化の試みから見えること―発達障害のある児童生徒の全国実態調査のチェックリストに焦点をあてて―
玉木宗久
学習ニーズのチェックリストの1つに平成15年「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」並びに平成24年「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」で利用されたものがある。これらの調査は,我が国の発達障害の可能性のある児童生徒の実態を推計するために実施されたものであるが,「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン(文部科学省,2017)」においては「学校内の児童等の実態を把握するため」に,このチェックリストが活用できることが述べられている(以後「実態調査チェックリスト」と略す)。著者らは,通常の学級の児童生徒,並びに通級による指導(以後「通級」と略す)を利用している児童生徒を対象として,このよく知られている実態調査チェックリストの標準化を進めてきた(玉木・海津,印刷中)。ここでは,その試みから得られた以下の3つの知見を報告し,実態調査チェックリストの活用における留意点や可能性について議論する。①通常の学級の児童生徒(標準データ)において,学習のつまずき得点の学年,性別,学習領域による違いを調べた結果,いずれの比較においても有意差が認められた,②通級に通う発達障害(LD,ADHD,ASD)のある児童生徒の学習のつまずきを調べた結果,LDだけでなく,ADHDやASDのある児童生徒においても配慮すべきつまずきや特徴があることが示唆された,③児童・生徒の行動・情緒面の特性(ASEBAシリーズ教員記入用紙)との関連を検討した結果,学習のつまずきのいずれの領域も注意の問題との間に比較的高い相関があることが示唆された。
話題提供5
教科横断型の学習指導において学習評価を充実させるための一提案
梶井芳明
近年,我が国の教育実践においては,「主体的・対話的で深い学び」や「資質・能力の育成」等の視点から,学習者中心の学習指導,評価の在り方の見直しと実質化が求められている。
文部科学省(2015)が,「『子供たちにどういった力が身に付いたか』という学習の成果を的確に捉え,教員が指導の改善を図るとともに,子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには,この学習評価の在り方が極めて重要」と示す通り,学習評価は,教師が,指導と評価を一体化させた教育実践に取り組むのに加え,子供の自己評価能力を育む上でも,重要な概念の1つに位置付けられる。
従来,学習評価の充実については,教科指導におけるICT の活用の必要性が示されてきた(文部科学省, 2009)。さらに,近頃は,教科横断型の学習指導においても,学習評価を充実させることが一層求められており,例えば,教育工学の領域においては,教科横断型の学習指導におけるICT を用いた学習評価の実践や,その効果を扱った研究が見られるようになってきている。
そこで,本シンポジウムでは,教科横断型の学習指導において,子供たちの多様な学びに応じたICTを用いた学習評価の実践を充実させるための指導上の工夫や留意事項について,話題提供らが取り組み中の,東京学芸大学附属大泉小学校の「探究科」の学習活動に関わる研究成果をもとに話題提供をする。具体的には,教科横断型の学習指導におけるICTを用いたルーブリックを使用した学習評価を充実させるための工夫や留意事項について,「指導と評価の一体化」および「子供の自己評価能力の育成」を重要語に位置付け,実践事例を示した発表を行う。
(KUMAGAI Ryo, HASHIMOTO Soichi, DOYAMA Aki, TAMAKI Munehisa KAJII Yoshiaki)