日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA17] 電算画面で読み聞かせた絵本の理解における誤信念理解と類推(1)

保育専門学校生による誤信念理解

光田基郎 (ノースアジア大学)

Keywords:絵本、類推、心の理論

成人の実験参加者に「対象物の予期しない移動」を題材に誤信念の理解を求めた実験(例:Birch など’07)は参加者の知識利用の効果に関して一貫した結果を得ていない。本報告は,画面で読み聞かせた年少学童用の絵本の内容理解,下位技能と成人の誤信念理解検査成績との相関関係を検討した探索実験の一環である。
方  法
(イ)材料:トラと干し柿(パク ジエヒン著,光村教育図書)より,強者を自任するトラが, 農家で泣く子を母親が「泣くな,熊や狼が来る。トラも来る」と脅しても泣き止まないのを聞いて驚いた。トラは「この子は本当にトラが来ても泣き止まない程の強い子だ」と誤解する。母親がこの子に干し柿を与えたら泣き止んだので,トラは「自分が来ても泣き止まない様な強い子でも怖がって泣き止んだ位に干し柿は怖い怪獣だ」と思い込んで逃げた時,農家に侵入した牛泥棒と鉢合わせする。泥棒は牛を盗む気でトラに飛び乗るが,トラは干し柿という怪獣に抑え付けられたと怖がって泥棒を背中に乗せて走る。夜が明けて泥棒は自分がトラに乗った事が分かって驚き,木の枝につかまって命拾いし,トラも逃げる話と,下記の検査計17画面を電算に録音・録画して保育専門学校生(M5,F29,平均年齢20;6)に読み聞かせ,内容再認と下記の下位技能検査結果を求めた。
(ロ)検査項目:(a)上記の内容の逐語・推理再認,(b)幼児用の長文理解(留守番のエピソードを読み聞かせてその順序再構成),類推,反応抑制,(c)文法理解(タクシーがトラックを牽く絵の選択),(d)幼児用誤信念理解検査のサリーとアン課題(2肢選択),(e)反応抑制及び(f)対象物の予期しない移動を扱った4肢選択の成人用誤信念検査(女の子が左端の青ケースにヴァイオリンを入れたが, 彼女の留守中に妹がこれを赤または紫のケースに移し, 赤ケースの位置も元は青ケースのあった位置に並べ替えたほか,紫と緑ケースの位置も変えて退室した。姉が戻った時には4個のケースのいずれを最初に開くかを参加者に質問し, 上記のケース1点毎にその比率を記載させた(Birchなど‘07の手続きに準拠)。平均所要時間は23分である。
(ハ)デザイン:上記の誤信念理解課題で妹が(a)ケースのどれかにヴァイオリンを移し替えたか不明の条件,(b)赤ケースに移し替え,その位置も姉が最初に楽器を入れた青ケースの位置に並べ替えた情報追加条件と(c)紫のケースに移した情報無効条件を級間変動因,姉が戻って最初に開く青,赤,紫と緑のケース毎に答えた選択の主観的確率を級内変動因とする3x4混合型2要因共分散分析で,上記の再認,下位技能とヴァイオリンケース選択の主観的確率の相関関係を検定した2要因共分散分析を試みた。
結  果
(イ)Table 1は上記の方法(ハa-c)の姉が戻ってどのケースを開くかの確率である. Birchの結果(括弧内)同様,位置情報で「赤」選好>不明=情報無効(紫)の結果(上記の級内変動因の主効果は5%水準),既得情報による誤信念理解の変容を示す。
(ロ)Table 2は絵本の内容の推理再認の正答比と上記Table 1のケース選好比率の相関係数である。誤信念理解を基本とした上記の絵本の筋立ての理解成績は不明条件以外ではケース選択と負の相関を示し,ケースの選択と誤信念理解は協応しない(上記の級内変動因の主効果と共分散は5%水準)。
(ハ)Table 3は画像のサリーとアン課題(2肢)成績と上記のTable 1のケース選好比率との相関係数値である。基本的な誤信念理解能力はケースの位置情報の効果を期待し難い条件で正の相関を示す(5%)。長文理解(作業記憶)と類推についても類似の結果を示し得た。
考  察
成人の誤信念内容の理解には,手掛かりとなる既得情報による偏向への配慮が不可欠となる。この点に関して反応抑制と作業記憶の寄与の検討が課題となる。