[PA25] 女子高校生における学業的自己概念と学力の因果関係の検討
3年間の縦断データから
Keywords:女子高校生、学業的自己概念、学力
問 題
学業的自己概念(academic self-concept,以下ASC)と学力の間には正の相関があることは,国内外の研究で一貫して示されてきた。しかしながら,両者の因果関係については十分に明らかにされていない。この点について,Marsh(1990)は,公立高校10年生時~卒業1年後までの4時点の縦断データをSEMで分析し,ASCが学力に対して因果的に優位であることを示唆している。日本ではこうしたアプローチの研究は見当らない。
一方,女子高校生は同じ学力水準であっても男子よりも理数系科目の学業的自己概念を過小に評価する傾向にある(鳶島, 2014;古田, 2016)。Marsh(1990)の主張が正しいとすれば,女子高校生のASCの過小評価は学力の低下を招き,その後の進路選択にも重大な影響を及ぼしかねない。
そこで,本研究では女子高校生から収集した高校1年~3年までの縦断データを利用してASCと学力の因果関係を検討する。
方 法
調査対象 私立の女子高校201X年度と翌年度の入学者のうち3年間在籍した162名と136名を対象とした。理系65名,文系202名,不明・その他31名であった。
学力の測度 調査協力校で毎年実施されている標準学力テストの国語,数学,英語の成績(全国を基準とした偏差値)を使用した。
ASCの測定 質問紙法によって国語,数学,英語について「どのくらい得意か」を5段階で尋ねた。3年間,毎年7月に担任を通じて実施した。
なお,本研究は,第二著者が所属する聖徳大学の「ヒューマンスタディに関する倫理審査委員会」の承認を得て実施した。
結 果
3年間のASCの変化 各教科のASCについて理系・文系×学年による分散分析を行った。Figure 1の通り,いずれのASCも学年による有意差はなく,国語では文系が理系よりも,数学では理系が文系よりも一貫して有意に高かった。英語では理系・文系の有意差は認められなかった。
ASCと学力の相関 理系・文系別に各教科の3年間のASCと偏差値の相関を求めたところ(Table 1),理系の国語の1,2年生時以外はすべて正の有意な相関が見られた。
ASCと学力の因果モデルの検証 Marsh(1990)に基づき作成したASCと学力の因果モデルをSEMで検証した。その結果,文系・数学でのみ,十分な適合度を得られた。Figure 2に示した通り,1年のASCから2年の偏差値,2年のASCから3年の偏差値へのパス係数が有意であった。成績からASCへはそうした有意なパスは得られなかった。
考 察
文系の数学だけではあるが,Marsh(1990)の主張を支持する結果が得られた。すなわち,高校3年間を見通した場合,1年生時のASCを促進することが3年生時の学力を向上させる可能性がある。ASCは3年間比較的安定していることからも,1年生時における援助の在り方が鍵を握る。
付 記
本研究はJSPS科研費JP26380949の助成を受けた。
学業的自己概念(academic self-concept,以下ASC)と学力の間には正の相関があることは,国内外の研究で一貫して示されてきた。しかしながら,両者の因果関係については十分に明らかにされていない。この点について,Marsh(1990)は,公立高校10年生時~卒業1年後までの4時点の縦断データをSEMで分析し,ASCが学力に対して因果的に優位であることを示唆している。日本ではこうしたアプローチの研究は見当らない。
一方,女子高校生は同じ学力水準であっても男子よりも理数系科目の学業的自己概念を過小に評価する傾向にある(鳶島, 2014;古田, 2016)。Marsh(1990)の主張が正しいとすれば,女子高校生のASCの過小評価は学力の低下を招き,その後の進路選択にも重大な影響を及ぼしかねない。
そこで,本研究では女子高校生から収集した高校1年~3年までの縦断データを利用してASCと学力の因果関係を検討する。
方 法
調査対象 私立の女子高校201X年度と翌年度の入学者のうち3年間在籍した162名と136名を対象とした。理系65名,文系202名,不明・その他31名であった。
学力の測度 調査協力校で毎年実施されている標準学力テストの国語,数学,英語の成績(全国を基準とした偏差値)を使用した。
ASCの測定 質問紙法によって国語,数学,英語について「どのくらい得意か」を5段階で尋ねた。3年間,毎年7月に担任を通じて実施した。
なお,本研究は,第二著者が所属する聖徳大学の「ヒューマンスタディに関する倫理審査委員会」の承認を得て実施した。
結 果
3年間のASCの変化 各教科のASCについて理系・文系×学年による分散分析を行った。Figure 1の通り,いずれのASCも学年による有意差はなく,国語では文系が理系よりも,数学では理系が文系よりも一貫して有意に高かった。英語では理系・文系の有意差は認められなかった。
ASCと学力の相関 理系・文系別に各教科の3年間のASCと偏差値の相関を求めたところ(Table 1),理系の国語の1,2年生時以外はすべて正の有意な相関が見られた。
ASCと学力の因果モデルの検証 Marsh(1990)に基づき作成したASCと学力の因果モデルをSEMで検証した。その結果,文系・数学でのみ,十分な適合度を得られた。Figure 2に示した通り,1年のASCから2年の偏差値,2年のASCから3年の偏差値へのパス係数が有意であった。成績からASCへはそうした有意なパスは得られなかった。
考 察
文系の数学だけではあるが,Marsh(1990)の主張を支持する結果が得られた。すなわち,高校3年間を見通した場合,1年生時のASCを促進することが3年生時の学力を向上させる可能性がある。ASCは3年間比較的安定していることからも,1年生時における援助の在り方が鍵を握る。
付 記
本研究はJSPS科研費JP26380949の助成を受けた。