日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

2019年9月14日(土) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA39] 高等学校の進路指導の方向性に影響する要因の検討

適性の捉え方を基軸として

室山晴美 (労働政策研究・研修機構)

キーワード:高等学校、進路指導、適性

問題・目的
 1990年代前半に行われた調査では,高等学校の進路指導の方向性に関して,偏差値中心の進学指導の因果モデルおよび個性尊重の進学指導が行われるための因果モデルが提示された(豊田・前田・室山・柳井,1991)。
 その後,少子化による高卒者数全体は減少しているものの,大学等への高等教育課程への進学率は大幅に上昇している。さらに,一般入試方式だけでなく推薦入試等を含む大学入試方式の多様化,早期からのキャリア教育の推進など高校から大学等への進学や進路指導の状況に影響すると考えられる様々な変化が生じてきた。そういった状況を踏まえ,本研究では,今日の高等学校における進路指導の方向性に関して,従来の研究において想定された偏差値中心の指導の流れと個性尊重の指導の流れが現在でも確認できるかどうか,近年,高等学校に対して行われた進路指導(ここでは進学指導だけでなく進路指導全般を含む)に関する調査データを用いて検討する。
方  法
調査対象と調査方式 全国高等学校便覧(厚生労働省)に登録の高等学校のうち全日制課程をもつ学校に調査票を送付,進路指導担当教員から回答を依頼。送付数は4,924校(全日制4,821校,専門・専修学校103校)。
実査期間 2015年12月~2016年1月
回収率 1996校(全日制1956校,専門・専修学校40校)から回答を得た。回収率は40.5%。本稿は全日制高校のみを分析対象とした。
調査項目 調査票には,進路指導全般に関する項目が含まれるが,本稿では以下の項目を取り上げた。①適性の概念(何を適性と捉えるか),②模試や偏差値の重視度,③教科内での受験指導必要性の認識(誰が必要と考えているか),④進路指導の理念(理念1:進路指導を生き方,人生設計や職業的・専門的自己実現の教育の一環として実践,理念2:高2,高3からではなく,入学当初から生徒が適切な進路先を主体的に選択するように援助,理念3:教科・科目の指導で,人間としての態度や価値観の育成,資質の養成等を十分考えて指導),⑤適性重視の進路指導の必要性や実践に関する項目である。各項目は4段階評定尺度とした。
結果・考察
 偏差値を中心とする進路指導の方向性に関しては,能力中心の適性観,偏差値への信頼,教科内受験指導必要性の認識という構成概念を設定した。個性尊重の進路指導の方向性に関しては,パーソナリティ中心の適性観,進路指導の理念,適性重視の進路指導という構成概念を設定した。Figure1に構成概念とそれに含まれる観測変数から成るパス図を示す。共分散構造分析を行った結果,GFI=.964,AGFI=.951,CFI=.955,RMSEA=.044であり,十分な適合度が示された。能力中心の適性観→偏差値への信頼→教科内受験指導必要性の認識への標準化推定値は1%水準ですべて有意である。また,パーソナリティ中心の適性観→進路指導の理念→適性重視の進路指導へのパスも有意であった(p<.01)。他方,能力中心の適性観→進路指導の理念に向かうパス,パーソナリティ中心の適性観→偏差値への信頼に向かうパスの値は小さい。さらに,偏差値への信頼→適性重視の進路指導,進路指導の理念→教科内受験指導必要性の認識に向かうパス値も小さかった。以上から,教員が持っている適性観が偏差値への信頼や進路指導の理念の認識を媒介として進路指導の方向性に少なからず影響している可能性が示され,この結果は90年代初めの因果モデルと大きく変わってはいなかった。