日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA47] 大学生を対象とした読字・書字課題の信頼性,妥当性

高橋知音 (信州大学)

Keywords:読字、書字、大学生

問題と目的
 発達障害のある大学生の数は年々増加しているが,限局性学習症(SLD)の診断のみがある学生は極端に少ない。その理由の一つとして,大学生における読み書きに関する標準化された検査がないことがあげられる。そこで本研究では,大学生を対象とした,読字と書字の流暢性と正確さを測定するための課題を作成し,信頼性,妥当性を検討する。「読むこと」は,言語理解能力や全般的知的能力等に影響を受けにくい黙読能力を評価するために,短文正誤判断を,また,背景要因としてのデコーディングの障害について手がかりが得られるよう,非単語音読課題を作成した。「書くこと」については,手書きで文字を筆記する速さと正確さを評価するために,視写課題を設定した。
方  法
課題
(1)黙読課題:50の短文を黙読し,各文の正誤判断を行い,60秒間に読めた問題数から1分間の黙読文字数を算出する。(2)音読課題:4文字からなるひらがな無意味単語30語を音読する課題。音読時間とエラー数(読み間違い)を算出する。(3)視写課題:見本の文章(有意味文と無意味文)を120秒間書き写す課題。文字数とエラー数(書き間違いの数)を算出する。(4)長文黙読課題:黙読課題の妥当性検討のために,随筆文と論説文を120秒間で何文字読めたかを測定。事後に感想を書くことが求められた。(5)知能検査:WAIS-Ⅲ簡易版「日本語版WAIS-Ⅲ刊行委員会が推奨する方法(大六,2011)」に含まれる下位検査「知識」と「行列推理」を用いた。
参加者 
 黙読課題の妥当性検討は,大学生99名,読字・書字課題の標準化データとしては,大学生等101名(平均年齢21.5歳,SD = 1.4,年齢の範囲は18歳から26歳),再検査信頼性は,大学生・大学院生26名であった。標準化データには,大学生に加え,専門学校生,大学院生も含まれ,専攻は人文科学系,理工系,教育系など様々であった。
手続き
 黙読課題の妥当性検討のデータ収集は集団実施,
標準化データの収集は,個別実施で行われた。本研究は信州大学教育学部倫理審査部会の承認を得て実施された(管理番号H27-1)。
結果と考察
黙読課題の妥当性
 外れ値が見られた2名を除いた97名のデータを分析対象とした。誤答数は12名(12.4%)が1問,1名(1.0%)が3問であった。誤答があった者の総文字数は,全問正答であった者とくらべて偏りは見られなかった。黙読課題では,3個程度であれば誤答も含めてカウントすることが妥当と言える。黙読課題と長文黙読課題の相関はr = .59であった。1分あたりの文字数は長文黙読課題の方がやや多い程度だったが,SDは黙読課題の2.4倍だった。文章を単純に黙読する場合,字面を追うような読み方をするか,熟読するかといった読み方の統制が難しいことを示していると考えられる。
読字・書字課題の信頼性
 再検査信頼性を検討するために,2週間の間隔で実施した各指標間の相関を求めた。文字数や時間などの速度指標は高い相関(r = .80~.94)が得られたが,エラー数については低めの数値(r = .04~.59)となった。音読課題のエラー数,視写課題の文字数およびエラー数については評価者間信頼性を求めた。音読課題のエラー数は3人の評価者に42名分のデータを評価してもらい,二元配置変量モデル,単一測定値,絶対一致で級内相関(ICC)を求めたところ,ICC(2, 1) = .87であった。視写課題については3人の評価者により20人分のデータを評価してもらい,無意味文では文字数ICC(2,1) = 1.00,エラー数ICC(2,1) = .72,有意味文では文字数ICC(2, 1) = 1.00,エラー数ICC(2,1) = .66であった。
各指標間および知能の指標との相関
 各指標と知能の相関を見ると,黙読課題の文字数と推定FIQで弱い相関(r = .23)が見られた。黙読は学習に必須のスキルであり,結晶性知能と関連があることが考えられる。視写や音読の速さ,エラー数は推定FIQと相関がなかった。黙読課題は誤答数が少なかったため,誤答の有無で,推定FIQに差があるかを検討したが差はなかった。つまり,意味を伴わないひらがなの音読,単純な書き写し,読み書きのミスの多さは知的能力と関係なかったと言える。以上から,今回の課題が大学生にとって難易度の低い課題であり,高度な推論能力などから影響を受けにくい基本的なスキルとしての読字や書字の効率を測定する課題として妥当であったと言える。