日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB01] モンゴルの子どもたちにおける言語能力の発達的特徴(1)

田中ビネー知能検査V『語彙(絵)』課題における標準化資料との比較から

福元理英1, 若林紀乃2, 野邑健二3, 金子一史4, 永田雅子5 (1.名古屋大学, 2.名古屋大学, 3.名古屋大学, 4.名古屋大学, 5.名古屋大学)

キーワード:知能検査、日蒙比較、語彙

本研究の目的
 現在,モンゴル国では,国内で標準化された発達を測るための知能検査がなく,それぞれの子どもの発達段階や苦手部分に合わせた教育的支援を行うことが難しい状況にある。名古屋大学は,2016年よりモンゴル国立教育大学と協同し,田中教育研究所の指導のもと田中ビネー知能検査Ⅴ(以降TB-V)のモンゴル版(以降MON-TB)の開発に取り組んでいる。
 モンゴル国の社会的・文化的背景を考慮した課題を検討し,モンゴル全土の子どもたちを対象に調査を行う中で,日本とモンゴルの子どもたちに発達的な違いが認められた。これまで,図形模写課題『ひし形』でモンゴルの子どもたちの通過率が日本に比べて低いことを報告してきた(Fukumotoら, 2018)が,今回の一連の発表では言語課題に焦点をあて日蒙比較を行う。なお本報告では,『語彙(絵)』課題を取り上げ,知識および語彙数の増加時期について日蒙の違いを検討する。
方  法
調査内容 MON-TBの開発では,2回の予備調査と本調査が行われている。当該年齢を中心に前後3年齢集団からデータを収集しTB-Vの合格基準に基づいて各問の通過率を算出している。今回の一連の発表は,320名を対象に行なった第二回予備調査の内容である。
調査時期 第二回予備調査は2017年10月~12月にて行なわれた。
分析対象 本報告では『語彙(絵)』課題を実施したモンゴルの子ども140名(1・4~7歳:各20名,2歳:19名,3歳:21名)を分析対象とした。
分析課題 本報告ではTB-Vにおける知識および語彙力の代表的課題の一つである『語彙(絵)』課題について分析した。『語彙(絵)』は子どもに物が描かれた絵カードを見せ名称を答えさせる課題である。TB-Vでは18問構成となっており,各年齢級で合格基準が設けられている。MON-TBではモンゴルの子どもたちの日常生活を考慮し一部問題を変更した。具体的には,「第3問:家」を「ゲル」に,「第18問:きゅうり」を「花」にそれぞれ変更し,「第19問:ベッド」と「第20問:羊」を加え20問構成とした。
分析方法 TB-Vの合格基準に基づき,MON-TBの年齢ごとの通過率を算出した。TB-Vの通過率は標準化資料を参考にした。なお,MON-TBでは当該年齢の前後3年齢集団からデータを収集しているが,TB-Vのデータにない年齢は分析から除外した。
結果と考察
 各年齢級の通過率をTable 1に示す。MON-TBとTB-Vの通過率を比較検討したところ,1歳級(正答1問以上合格)では,日蒙の通過率に大きな違いはみられなかった。しかし,2歳級および3歳級においては,標準化の原則的基準である通過率55%~75%に至る時期が,日本では2歳半~2歳11ヶ月の時期,モンゴル国では3歳0ヶ月~3歳半の時期と違いがみられた。このことから,多くの子どもたちが語彙力を伸ばす時期に日蒙間で違いがあることが示唆された。
 TB-Vと1987年版TBの『語彙(絵)』の正答率の検討では,1987年より2003年の子どもたちの方が早い時期から語彙を獲得しており,知識・言語理解における発達加速化の傾向が指摘されている(中村ら,2008)。今回の結果が,日蒙の社会的・文化的背景の違いからくるものなのかを含め今後さらに検討する必要がある。
*引用文献については発表時に掲示予定