[PB02] モンゴルの子どもたちにおける言語能力の発達的特徴(2)
田中ビネー知能検査V『短文の復唱』課題における標準化資料との比較から
キーワード:知能検査、日蒙比較、復唱課題
本研究の目的
名古屋大学では,モンゴル国立教育大学と協同し,田中ビネー知能検査Ⅴ(以降TB-V)のモンゴル版(以降MON-TB)の開発に取り組んでいる。これまで検査の標準化に加え,各課題における日本とモンゴルの子どもたちの発達的な違いについて検討を行ってきた。本報告では,第2回予備調査にて収集されたデータの中から,言語課題の一つである『短文の復唱』課題を取り上げ,文章を詳細に把握し復唱する力について日蒙の比較検討を行う。
方 法
調査時期 第2回予備調査は2017年10月~12月に行われた。
分析対象 本報告では『短文の復唱』課題を実施したモンゴルの子ども220名(1歳・4~11歳:各20名,2歳:19名,3歳:21名)を分析対象とした。なお,1歳0ヶ月から1歳5ヶ月の9名に関しては,比較対象であるTB-Vに該当データがないため日蒙の比較検討からは除外した。
分析課題 本報告ではTB-Vにおける聴覚記憶および文章把握力の代表的課題の一つである『短文の復唱』課題について分析した。テスターが読み上げた短文を1字も間違えずに正確に復唱させる課題である。3歳級に『短文の復唱(A)』が,8歳級に『短文の復唱(B)』がある。なお,MON-TBではモンゴルの子どもたちの日常生活を考慮し1問ずつ問題を追加した。具体的には,(A)では「雲が出て雨がふります」,(B)では「大雨があがって草原に虹が出てきました」をそれぞれ加えた。
分析方法 TB-Vの正答1問以上という合格基準に基づき採点し,各年齢の通過率を算出した。TB-Vの通過率は標準化資料を参考にした。
結果と考察
『短文の復唱(A)』の各年齢の通過率をFigure 1に,『短文の復唱(B)』の各年齢の通過率をFigure 2に示す。MON-TBとTB-Vの通過率を比較検討したところ,『短文の復唱(A)』課題において2歳半~2歳11か月と3歳半~3歳11か月以外はモンゴル国の方が日本より通過率が高かった。また,『短文の復唱(B)』課題では,7歳と10歳,11歳において日本とモンゴル国で同程度の通過率を示したものの,その他の年齢ではモンゴル国の方が日本より通過率が高かった。ただし,『短文の復唱(B)』においてはMON-TBにて追加した1問の正答率が当該年齢の8歳で90.0%と高かったことから,追加問題の難易度が低かった可能性も考えられる。
『短文の復唱』課題に関しては,K式発達検査でも国際比較が実施され,日本の方が中国より通過率が低いことが示されている(高,2005)。本研究と合わせて考えると,『短文の復唱』課題の通過率の低さは日本の子どもの一定の傾向かもしれない。ただし,Figure1に示す通り,2歳半から2歳11ヶ月の時期には,日本の方がモンゴル国より通過率が高く,この時期は一連の発表の(1)にて示した日本の子どもの語彙力の伸びる時期と一致している。これらのことから,日本の子どもたちの言語課題において,乳児期に発達加速化傾向がみられる一方で児童期にかけて発達の伸び悩みがあることが考えられた。その要因が日本語の文章構成によるものなのか,聴覚理解の経験値などに由来するものなのかについて今後さらに検討する必要がある。
引用文献については発表時に掲示予定
名古屋大学では,モンゴル国立教育大学と協同し,田中ビネー知能検査Ⅴ(以降TB-V)のモンゴル版(以降MON-TB)の開発に取り組んでいる。これまで検査の標準化に加え,各課題における日本とモンゴルの子どもたちの発達的な違いについて検討を行ってきた。本報告では,第2回予備調査にて収集されたデータの中から,言語課題の一つである『短文の復唱』課題を取り上げ,文章を詳細に把握し復唱する力について日蒙の比較検討を行う。
方 法
調査時期 第2回予備調査は2017年10月~12月に行われた。
分析対象 本報告では『短文の復唱』課題を実施したモンゴルの子ども220名(1歳・4~11歳:各20名,2歳:19名,3歳:21名)を分析対象とした。なお,1歳0ヶ月から1歳5ヶ月の9名に関しては,比較対象であるTB-Vに該当データがないため日蒙の比較検討からは除外した。
分析課題 本報告ではTB-Vにおける聴覚記憶および文章把握力の代表的課題の一つである『短文の復唱』課題について分析した。テスターが読み上げた短文を1字も間違えずに正確に復唱させる課題である。3歳級に『短文の復唱(A)』が,8歳級に『短文の復唱(B)』がある。なお,MON-TBではモンゴルの子どもたちの日常生活を考慮し1問ずつ問題を追加した。具体的には,(A)では「雲が出て雨がふります」,(B)では「大雨があがって草原に虹が出てきました」をそれぞれ加えた。
分析方法 TB-Vの正答1問以上という合格基準に基づき採点し,各年齢の通過率を算出した。TB-Vの通過率は標準化資料を参考にした。
結果と考察
『短文の復唱(A)』の各年齢の通過率をFigure 1に,『短文の復唱(B)』の各年齢の通過率をFigure 2に示す。MON-TBとTB-Vの通過率を比較検討したところ,『短文の復唱(A)』課題において2歳半~2歳11か月と3歳半~3歳11か月以外はモンゴル国の方が日本より通過率が高かった。また,『短文の復唱(B)』課題では,7歳と10歳,11歳において日本とモンゴル国で同程度の通過率を示したものの,その他の年齢ではモンゴル国の方が日本より通過率が高かった。ただし,『短文の復唱(B)』においてはMON-TBにて追加した1問の正答率が当該年齢の8歳で90.0%と高かったことから,追加問題の難易度が低かった可能性も考えられる。
『短文の復唱』課題に関しては,K式発達検査でも国際比較が実施され,日本の方が中国より通過率が低いことが示されている(高,2005)。本研究と合わせて考えると,『短文の復唱』課題の通過率の低さは日本の子どもの一定の傾向かもしれない。ただし,Figure1に示す通り,2歳半から2歳11ヶ月の時期には,日本の方がモンゴル国より通過率が高く,この時期は一連の発表の(1)にて示した日本の子どもの語彙力の伸びる時期と一致している。これらのことから,日本の子どもたちの言語課題において,乳児期に発達加速化傾向がみられる一方で児童期にかけて発達の伸び悩みがあることが考えられた。その要因が日本語の文章構成によるものなのか,聴覚理解の経験値などに由来するものなのかについて今後さらに検討する必要がある。
引用文献については発表時に掲示予定