[PB10] 1歳時の愛着と幼児期の適応
キーワード:愛着、社会性、縦断研究
目 的
Bowlbyの愛着理論によれば,子どもは養育者とのやり取りを通じて1歳頃に自分の周りの世界に関する膨大な知識を獲得し,それに続く数年で獲得した知識は自己や他者に対する認知的枠組みを含むインターナルワーキングモデルとして組織化される(Bowlby, 1988)。つまり,乳幼児期に形成された愛着はその後の対人関係,社会性に影響を与えるということである。
海外の縦断研究は一般的に乳児期の安定した愛着はその後の適応(問題行動が少なく,社会性が良好)に関連するという研究結果を報告し,愛着理論は支持されている(例えば,Burgess, Marshall, Rubin, & Fox , 2003; Bohlin, Hagekull, & Rydell, 2000)。しかし,日本では乳児期の愛着とその後の問題行動や向社会性についての縦断研究はほとんど無い。そこで,本研究では1歳時に測定された愛着パターンがその後(幼児期)の問題行動や社会性と関連するかどうかを検討した。
方 法
参加者:子どもが1歳時にストレンジシチュエーション法の実験に参加し,2017年の質問紙調査に参加した母子62組が参加した。その内,これまでに発達の問題を指摘されたり,現在病気にかかっている子ども13名を分析から除いた。子どもの平均年齢は49.45ヶ月(SD=14.44),年齢幅27~78ヶ月。母親の平均年齢は36.61歳(SD=5.26)年齢幅25~46歳。母親の高校卒業後の教育年数は平均3.49年(幅0~6年)。母親の就業状況は,65.3%無職;16.3%フルタイム;18.4%パートタイムであった。家庭の経済状況に関しては2%がかなりゆとりがある,38.8%がまあ,ゆとりがある,57.1%がゆとりはないが,困ってはいない,2%が困っていると回答した。
指標:①子どもの問題行動を測定する子どもの行動チェックリスト(CBCL; 児童思春期精神保健研究会,2003);8つの下位尺度から成る,②他者の苦痛・苦悩に対する共感的・向社会的反応尺度(Kochanska, Devet, Goldman, Murray, & Putnam, 1994),③思いやり行動尺度(武田・菅原・吉田・笹原・加藤,2004),④乳幼児発達スケール(発達科学研究教育センター, 1989)の中の対子ども社会性&対成人社会性の二領域。全ての回答は母親が行った。
分析:1歳時の愛着パターンの4分類(安定型,回避型,抵抗型,無秩序型)を独立変数とし,上記の各尺度の得点を従属変数とする一要因分散分析を行った。従属変数に年齢との相関が見られた場合は,年齢を共変量として分析した。
結 果
1歳時の愛着の分類結果は,安定型:28 (59.6%),回避型:5 (10.6%),抵抗型:11 (23.4%),無秩序型:3 (6.4%)であった。有意傾向ではあるが,CBCLの2つの下位尺度と対成人社会性において愛着の主効果が見られた。その結果をTable 1に示す。CBCLのその他の下位尺度,共感性や思いやり尺度には有意な主効果は見られなかった。
考 察
以上の結果から,乳児期の愛着と幼児期の適応との関連はかなり薄いものであると言える。これは海外の先行研究で一般的に言われていることと一致しない。しかし,海外の先行研究を吟味すると,両親のどちらかと安定した愛着を形成していると,その後問題行動が多くはないとの報告もある(Kochanska & Kim , 2013)。乳児期の愛着とその後の向社会行動との関連については,どちらかと言うと安定した愛着とその後の良好な社会性との関連を示している結果が多いが,全てというわけではなく,結果は一貫していないという研究者もいる(例えば,Gross, Stern, Brett, & Cassidy, 2015)。また,Girard, Lemelin, Provost, & Tarabulsy (2013)は,1歳時の愛着は7歳時での社会的スキルの一部を予測するが,全てを予測する訳ではないという研究結果を示している。本研究の結果も同様である。
本研究のサンプル数は極めて少なく,一般化するのは困難である。今後も,このような縦断研究の蓄積が必要である。
Bowlbyの愛着理論によれば,子どもは養育者とのやり取りを通じて1歳頃に自分の周りの世界に関する膨大な知識を獲得し,それに続く数年で獲得した知識は自己や他者に対する認知的枠組みを含むインターナルワーキングモデルとして組織化される(Bowlby, 1988)。つまり,乳幼児期に形成された愛着はその後の対人関係,社会性に影響を与えるということである。
海外の縦断研究は一般的に乳児期の安定した愛着はその後の適応(問題行動が少なく,社会性が良好)に関連するという研究結果を報告し,愛着理論は支持されている(例えば,Burgess, Marshall, Rubin, & Fox , 2003; Bohlin, Hagekull, & Rydell, 2000)。しかし,日本では乳児期の愛着とその後の問題行動や向社会性についての縦断研究はほとんど無い。そこで,本研究では1歳時に測定された愛着パターンがその後(幼児期)の問題行動や社会性と関連するかどうかを検討した。
方 法
参加者:子どもが1歳時にストレンジシチュエーション法の実験に参加し,2017年の質問紙調査に参加した母子62組が参加した。その内,これまでに発達の問題を指摘されたり,現在病気にかかっている子ども13名を分析から除いた。子どもの平均年齢は49.45ヶ月(SD=14.44),年齢幅27~78ヶ月。母親の平均年齢は36.61歳(SD=5.26)年齢幅25~46歳。母親の高校卒業後の教育年数は平均3.49年(幅0~6年)。母親の就業状況は,65.3%無職;16.3%フルタイム;18.4%パートタイムであった。家庭の経済状況に関しては2%がかなりゆとりがある,38.8%がまあ,ゆとりがある,57.1%がゆとりはないが,困ってはいない,2%が困っていると回答した。
指標:①子どもの問題行動を測定する子どもの行動チェックリスト(CBCL; 児童思春期精神保健研究会,2003);8つの下位尺度から成る,②他者の苦痛・苦悩に対する共感的・向社会的反応尺度(Kochanska, Devet, Goldman, Murray, & Putnam, 1994),③思いやり行動尺度(武田・菅原・吉田・笹原・加藤,2004),④乳幼児発達スケール(発達科学研究教育センター, 1989)の中の対子ども社会性&対成人社会性の二領域。全ての回答は母親が行った。
分析:1歳時の愛着パターンの4分類(安定型,回避型,抵抗型,無秩序型)を独立変数とし,上記の各尺度の得点を従属変数とする一要因分散分析を行った。従属変数に年齢との相関が見られた場合は,年齢を共変量として分析した。
結 果
1歳時の愛着の分類結果は,安定型:28 (59.6%),回避型:5 (10.6%),抵抗型:11 (23.4%),無秩序型:3 (6.4%)であった。有意傾向ではあるが,CBCLの2つの下位尺度と対成人社会性において愛着の主効果が見られた。その結果をTable 1に示す。CBCLのその他の下位尺度,共感性や思いやり尺度には有意な主効果は見られなかった。
考 察
以上の結果から,乳児期の愛着と幼児期の適応との関連はかなり薄いものであると言える。これは海外の先行研究で一般的に言われていることと一致しない。しかし,海外の先行研究を吟味すると,両親のどちらかと安定した愛着を形成していると,その後問題行動が多くはないとの報告もある(Kochanska & Kim , 2013)。乳児期の愛着とその後の向社会行動との関連については,どちらかと言うと安定した愛着とその後の良好な社会性との関連を示している結果が多いが,全てというわけではなく,結果は一貫していないという研究者もいる(例えば,Gross, Stern, Brett, & Cassidy, 2015)。また,Girard, Lemelin, Provost, & Tarabulsy (2013)は,1歳時の愛着は7歳時での社会的スキルの一部を予測するが,全てを予測する訳ではないという研究結果を示している。本研究の結果も同様である。
本研究のサンプル数は極めて少なく,一般化するのは困難である。今後も,このような縦断研究の蓄積が必要である。