日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB11] 6歳児男女の他者理解の発達と母親によるコミュニケーション

小沢日美子 (同朋大学)

Keywords:幼児、他者理解、コミュニケーション

問  題
 他者理解測定に関する「心の理論」課題では,誤信念課題と言語能力は有意な高い正の相関があることが指摘されている(e.g.,Astington &Jenkins,1999)。また,他者との関係形成に欠かせない能力には,感情状態の弁別能力,視点・役割取得能力,共感にあたる他者の感情共有能力がある(cf.,Feshbach,1987)。共感能力に関しては,母親の使う言語と子どもの他者理解の課題との関連研究で,心的状態語の測定頻度,母親の交渉のし方などが課題成績と関連の検討されている(e.g.,Brown,Donelan−McCal1&Dunn,1996;東山,2011)。課題の成績は,母親が子ども自身や他者の心を考えさせる言語を用いることだけでなく,母親が子どもの日常経験,知識,考え方を考慮した言語を用いることの関連が示唆されている。本研究では,他者理解の発達と家庭における母親とのコミュニケーションに関する検討を進めるため,幼児と母親らに行った課題の分析・考察する。
方  法
1.調査概要:調査協力者=6歳児男女21人(男児11人,女児10人)。平均年齢:6歳6ヶ月,年齢範囲:6歳0ヶ月‐6歳11か月(男児,6歳6ヶ月;女児,6歳7ヶ月)と幼児の母親21人。社会性発達は保育士評定(1人)による。調査内容=他者理解に関する課題(1)感情理解課題(表情カード選択2問),言語発達課題(言語推論,短期記憶の課題各4問)を幼児と個別に行った。社会性発達(人気度・社会的スキル)(e.g.,Eisenberg, Fabes, Bernzweig, Karbon, Poulin,&, Hanish, 1993 ;森野,2005)の評定を保育者に依頼した。(2)幼児の日常経験(藤渕,2012より抜粋)=「a.家庭での経験(5項目)」,「b.数量遊び経験(5項目)」「c.数唱遊び経験(5項目)」。母親から質問紙(4件法)。(3)母子コミュニケーション課題(2問)(e.g.,Dickson,1981;東山,2011を参考に作成)。(母親の自由記述回答の分析の観点=比喩・イメージ化:「P」,数量・順列:「Q」。得点化:0,1)。2.調査の実施では,調査協力機関長に承諾を得て,幼児保護者らに調査概要を説明し,同意書が得られた母親と幼児,保育者に調査協力を依頼した。調査による不安感,調査後の疲労感を高めないように配慮し,必要の際には,状況判断により中止し,事後フォローを実施することとした。
結  果
1.子どもの他者理解に関する項目では,社会性発達の人気度について,男女差が示唆された(F(1,19)=3.11,p<0.1)。また,言語発達の男女差が示唆されたF(1,19)=3.82,p<0.1)。その他の感情理解,社会的スキルの項目は,発達差,男女差とも示されなかった。2.母親の子どもの日常経験に関する回答からは,「a.家庭での経験(誉める,我慢,料理手伝い経験,しりとり遊び経験,自ら後片付け)」では「褒める」のみ発達差が示唆された。「b.数量遊び経験(絵本イラスト大小,複数の人への同数分配,指で年齢表示経験,5個から3個とる計算,丸・四角形・三角形など描く)」では,全体及び各項目とも男女差が示された(F(1,19)=12.80, 及び,F(1,19)=8.95,F(1,19)=13.26,F(1,19)=13.26,F(1,19)=11.37,いずれもp<0.01,F(1,19)=6.46),p<0.05)。「c.数唱遊び経験(階段上り下り数唱,絵本イラスト数唱経験,いくつ数唱,ブランコ遊び数唱,風呂で数唱)」でも男女差が示された(F(1,19)=10.22,及びF(1,19)=8.30,F(1,19)=8.90,F(1,19)=11.01,F(1,19)=10.21,F(1,19)=5.27,F(1,19)=8.30,F(1,19)=8.90,F(1,19)=11.1,F(1,19)=10.21,いずれもp<0.01,F(1,19)=5.27,p<0.05)。3.母子コミュニケーション課題は次のコードによった。X:子どもに馴染みのある事物を取り入れるなど説明に比喩・イメージ化を取り入れている,Y :子どもに数や量の変化,順列によった説明を取り入れている。図形伝達2課題とも「P」「Q」とも用いた場合が最も多く(15人),QのみからPQを用いた場合とPQを用いた後Qのみが各3人だった。社会性発達とPQ2つの方略の関連性が示唆されたが,発達差・男女差を制御すると明らかにはならなかった。
考  察
 本研究は,他者理解に関連する課題では,社会性発達の人気度と言語発達との関連が考察された。なお、子どもの日常経験での数量遊び,数唱遊びについて男女差が示唆されたが,母子のコミュニケーション課題と関連は明らかにはならなかった。ここでの6歳児の同士の間では,発達的な差よりも,男女差とともに個人差の影響も考えられる。感情理解,母子コミュニケーションとの関連は,調査人数を増やし検討することが課題となった。