[PB19] 認知カウンセリングによる学習相談における教材選択
にこにこ広島ルームのケース
Keywords:認知カウンセリング、学習相談、教材
問 題
認知カウンセリングは,「認知的な問題をかかえているクライエント(主として『何々がわからなくて困っているという人』)に対して,個人的な面接を通じて原因を探り,解決のための援助を与える」(市川,1993)学習支援の方法である。広島大学大学院教育学研究科附属教育実践総合センターの学校心理教育支援室「にこにこルーム」の学習相談も認知カウンセリングの手法に基づいて行われている。にこにこルームは,広島大学東広島キャンパスのにこにこ東広島ルームと広島市内の相談室のにこにこ広島ルームの2ヵ所が開設され,東広島では学部生・大学院生が,広島では2010年度から2017年度まで責任発表者が主たる相談担当者として学習相談を行ってきた。認知カウンセリングに関する従来のケース報告は,クライエントのニーズがある程度はっきりしているものが多い。しかし,にこにこ広島ルームでは,知的障害児や発達障害児もしくはグレーゾーンにあると考えられる子どもの保護者からの申し込みが約85%を占め,「困っている」と感じているのは保護者の方で,子ども自身は学習に苦手意識はあるとしても,誰かに教えてほしいというニーズやできるようになりたいという動機づけには結びついていないケースがほとんどである。したがって学習相談を行うには,保護者側のニーズを子ども側のニーズや動機づけへと結びつけ,どのような学習内容をどのような教材で進めるかが重要な課題となる。そこで本稿では,広島大学大学院教育学研究科附属教育実践総合センターの学校心理教育支援室にこにこ広島ルームにおける事例から,クライエントの潜在的ニーズを学習相談として実施するための教材選択の取り組みについて報告する。
方 法
にこにこ広島ルームの相談は,週1回×約10回,3ヵ月を目安として行い,2010年度から2017年度までのケースは,計21事例である。これらのうちクライエントのニーズが不明確なケースの記録から教材選択について,相談初期,興味関心の活用,学習の自立促進の3側面について抽出した。
結果・考察
相談初期:保護者の中には,学習全般に問題を感じているが,支援を受けたい具体的な教科や内容については漠然としているケースもある。また,支援を受けたい教科について,親子間で希望が異なるケースが少なくない。子どもは苦手な教科よりも得意または好きな教科を希望する傾向があるからである。子どもの学年や障害によってメタ認知の機能が低く,保護者は問題と感じている学習内容について「できる」と発言することもある。このような場合,初回面接で「次回は国語と算数,両方やってみようね」または「次に来る日の学校の宿題を持って来てね」と伝え,その後1~2回目の相談では,まずは子どもがやる気のある方の教科に取り組んだ後,苦手な教科をやってみて,「わからない」「できない」「困った」状況に共感し,それを支援する役割を果たすのが学習相談であることを伝え,保護者と子どものニーズの一致や明確化,子どもの動機づけを図っていく。
興味関心の活用:学習相談に対する動機づけが低い場合,子どもの好きなことを教材として活用できないか検討することも重要である。ADHDと診断を受けている小6男児の主訴は「算数嫌い」であったが,「お使いはよく行ってくれて助かる」という母親の話から買い物場面の文章題を用いると,抵抗感を示すことなく取り組んだ。担任から「10のまとまりの概念がない」と指摘された小2男児のケースでは,収集しているアニメキャラクターのメダルを持参してもらい,「たくさんあるね。数えてみよう」「仲間分けをしてみよう」と教示した。長音や拗音の書記に困難があった小3男児はプロ野球の大ファンだったので,愛読書である選手名鑑や新聞のスポーツ記事から苦手な音を含む語句をノートに書く課題から始めた。
学習の自立促進:市川(1998)は認知カウンセリングの特徴の一つとして学習者の自立を促すという視点を挙げている。算数の場合,学校の宿題を教材とし,わからない時は教科書の例題を解き直す,誤答は消しゴムで消さずに赤字で訂正し誤答の原因を意識する,位取りを間違わないようにノートのマス目を活用する等の助言で,日常の宿題をより主体的に取り組めるよう指導した。ただし,誤答を消さずに訂正する方法には,抵抗を示す子どもが多かった。
まとめ:子ども自身がはっきりしたニーズを示さない学習相談のケースでは,まず好きな教科から取り組んだり,日常の興味関心を教材として活用したりすることが重要である。また,学校の宿題取り組み方の改善によって,「自分もわかる,できる」体験が問題解決に有効であると考える。
認知カウンセリングは,「認知的な問題をかかえているクライエント(主として『何々がわからなくて困っているという人』)に対して,個人的な面接を通じて原因を探り,解決のための援助を与える」(市川,1993)学習支援の方法である。広島大学大学院教育学研究科附属教育実践総合センターの学校心理教育支援室「にこにこルーム」の学習相談も認知カウンセリングの手法に基づいて行われている。にこにこルームは,広島大学東広島キャンパスのにこにこ東広島ルームと広島市内の相談室のにこにこ広島ルームの2ヵ所が開設され,東広島では学部生・大学院生が,広島では2010年度から2017年度まで責任発表者が主たる相談担当者として学習相談を行ってきた。認知カウンセリングに関する従来のケース報告は,クライエントのニーズがある程度はっきりしているものが多い。しかし,にこにこ広島ルームでは,知的障害児や発達障害児もしくはグレーゾーンにあると考えられる子どもの保護者からの申し込みが約85%を占め,「困っている」と感じているのは保護者の方で,子ども自身は学習に苦手意識はあるとしても,誰かに教えてほしいというニーズやできるようになりたいという動機づけには結びついていないケースがほとんどである。したがって学習相談を行うには,保護者側のニーズを子ども側のニーズや動機づけへと結びつけ,どのような学習内容をどのような教材で進めるかが重要な課題となる。そこで本稿では,広島大学大学院教育学研究科附属教育実践総合センターの学校心理教育支援室にこにこ広島ルームにおける事例から,クライエントの潜在的ニーズを学習相談として実施するための教材選択の取り組みについて報告する。
方 法
にこにこ広島ルームの相談は,週1回×約10回,3ヵ月を目安として行い,2010年度から2017年度までのケースは,計21事例である。これらのうちクライエントのニーズが不明確なケースの記録から教材選択について,相談初期,興味関心の活用,学習の自立促進の3側面について抽出した。
結果・考察
相談初期:保護者の中には,学習全般に問題を感じているが,支援を受けたい具体的な教科や内容については漠然としているケースもある。また,支援を受けたい教科について,親子間で希望が異なるケースが少なくない。子どもは苦手な教科よりも得意または好きな教科を希望する傾向があるからである。子どもの学年や障害によってメタ認知の機能が低く,保護者は問題と感じている学習内容について「できる」と発言することもある。このような場合,初回面接で「次回は国語と算数,両方やってみようね」または「次に来る日の学校の宿題を持って来てね」と伝え,その後1~2回目の相談では,まずは子どもがやる気のある方の教科に取り組んだ後,苦手な教科をやってみて,「わからない」「できない」「困った」状況に共感し,それを支援する役割を果たすのが学習相談であることを伝え,保護者と子どものニーズの一致や明確化,子どもの動機づけを図っていく。
興味関心の活用:学習相談に対する動機づけが低い場合,子どもの好きなことを教材として活用できないか検討することも重要である。ADHDと診断を受けている小6男児の主訴は「算数嫌い」であったが,「お使いはよく行ってくれて助かる」という母親の話から買い物場面の文章題を用いると,抵抗感を示すことなく取り組んだ。担任から「10のまとまりの概念がない」と指摘された小2男児のケースでは,収集しているアニメキャラクターのメダルを持参してもらい,「たくさんあるね。数えてみよう」「仲間分けをしてみよう」と教示した。長音や拗音の書記に困難があった小3男児はプロ野球の大ファンだったので,愛読書である選手名鑑や新聞のスポーツ記事から苦手な音を含む語句をノートに書く課題から始めた。
学習の自立促進:市川(1998)は認知カウンセリングの特徴の一つとして学習者の自立を促すという視点を挙げている。算数の場合,学校の宿題を教材とし,わからない時は教科書の例題を解き直す,誤答は消しゴムで消さずに赤字で訂正し誤答の原因を意識する,位取りを間違わないようにノートのマス目を活用する等の助言で,日常の宿題をより主体的に取り組めるよう指導した。ただし,誤答を消さずに訂正する方法には,抵抗を示す子どもが多かった。
まとめ:子ども自身がはっきりしたニーズを示さない学習相談のケースでは,まず好きな教科から取り組んだり,日常の興味関心を教材として活用したりすることが重要である。また,学校の宿題取り組み方の改善によって,「自分もわかる,できる」体験が問題解決に有効であると考える。