[PB20] 「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」への変化の考察
Keywords:課題探求、SSH、PBL
緒 言
高等学校の学習指導要領が2018年度に改訂され,2022年度までが移行期間となっている。その改訂の中でもっとも特徴的な科目群が「探求」という名称の科目群である。例えば,「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」へと名称が変更されたが,この二つの科目にはどのような違いがあるのだろうか。
平成30年7月に告示された「総合的な探究の時間編」の解説によれば,「総合的な学習の時間は,課題を解決することで自己の生き方を考えていく学びであるのに対して,総合的な探究の時間は,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくような学びを展開していく」と違いが述べられている。
そして,探究の過程がより高度化されることが求められると記述されている。例えば,(1)探究において目的と解決の方法に矛盾がない(整合性),(2)探究において適切に資質・能力を活用している(効果性),(3)焦点化し深く掘り下げて探究している(鋭角性),(4)幅広い可能性を視野に入れながら探究している(広角性)といったことが求められている。これに更に(a)自分にとって関わりが深い課題になる(自己課題),(b)探究の過程を見通しつつ,自分の力で進められる(運用),(c)得られた知見を生かして社会に参画しようとする(社会参画)などの自律性も求められる。
このように高度化され,自律性が求められる「総合的な探究の時間」が実際にどのような学修に変化するか,SSH指定校と幾つかの一般校における課題研究の事例研究をとおして実態を把握し予測する。そして共通して問題となっている事柄を考察する。
SSH指定校における探究活動
SSH(Super Science High school)は「中核拠点」「海外連携」「社会との共創」に大きく分けられるが,Super Global High Schoolと同様に大学との連携を活かして研究テーマを見いだし,深めている。例えば,研究テーマと研究方法について大学教員の助言を求め洗練できるような活動を行っている。また,研究テーマをどのように生徒たちが独自に設定させるか,その工夫は各校で異なっているが,校内のSSHクラブといったクラブ活動を起爆剤としてテーマを作り上げる手法もある。
しかし,課題研究の成果をどのように評価するか,ルーブリックのような共通した評価基準を構築する必要があるが,発表態度,発表方法といった内容とはかけ離れた外面的な観点が使われやすいという問題が見て取れる。例えば,成果発表はポスター発表の形式が採用されること多いが,仮説の設定,追求の方法,考察といった課題探求の本質的な要素も評価規準として使われるが,声の大きさ,明確な説明,提示の姿勢といった外面的な要素も同程度に重要視されていることがある。内容面より発表形態が重視されがちである理由として,内容を重視した評価をできる教員の人数が限られているという人的な問題が考えられる。その結果,発表態度といった内容以外の観点を重視した評価になってしまい,妥当性,健全性が落ちることになってしまうと考えられる。この問題を解決するために,高大連携といった大学教員の力を活かした評価方法もとられることもある。しかし,移行期間以後に同様な対応を国内全ての一般校に適応できるとは考えにくいだろう。
一般校における探究活動
著者が学校評議員を務めている公立高校と研究協力をしている2つの私立高校あわせて3校の課題探求活動を観察した結果を考察したい。
それぞれの高校は学校風土が大きく異なるが,共通している事柄として,課題解決のサイクルを身につけるために必ず協働で取り組ませていることがある。特に複数の生徒たちで取り組むことによって多面的な考えが生じやすくなるが,そのように教員たちが指導助言している。また,1年生から2年生へと学びが引き継がれるような工夫を各校でしていた。例えば,「PBLワークノート」といった活動記録をポートフォリオのような形で運用する学校もあった。そして,地域に根ざしたテーマ設定が多く見られるのも共通していて,進路選択に繋がるように意図されていたのも共通している。しかし,SSH指定校にも見られたが,発表方法といった形式的な観点で評価する傾向が一般校でも見られた。
付 記
この研究は科学研究費基盤(C)17K04339の支援を受けている。
高等学校の学習指導要領が2018年度に改訂され,2022年度までが移行期間となっている。その改訂の中でもっとも特徴的な科目群が「探求」という名称の科目群である。例えば,「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」へと名称が変更されたが,この二つの科目にはどのような違いがあるのだろうか。
平成30年7月に告示された「総合的な探究の時間編」の解説によれば,「総合的な学習の時間は,課題を解決することで自己の生き方を考えていく学びであるのに対して,総合的な探究の時間は,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくような学びを展開していく」と違いが述べられている。
そして,探究の過程がより高度化されることが求められると記述されている。例えば,(1)探究において目的と解決の方法に矛盾がない(整合性),(2)探究において適切に資質・能力を活用している(効果性),(3)焦点化し深く掘り下げて探究している(鋭角性),(4)幅広い可能性を視野に入れながら探究している(広角性)といったことが求められている。これに更に(a)自分にとって関わりが深い課題になる(自己課題),(b)探究の過程を見通しつつ,自分の力で進められる(運用),(c)得られた知見を生かして社会に参画しようとする(社会参画)などの自律性も求められる。
このように高度化され,自律性が求められる「総合的な探究の時間」が実際にどのような学修に変化するか,SSH指定校と幾つかの一般校における課題研究の事例研究をとおして実態を把握し予測する。そして共通して問題となっている事柄を考察する。
SSH指定校における探究活動
SSH(Super Science High school)は「中核拠点」「海外連携」「社会との共創」に大きく分けられるが,Super Global High Schoolと同様に大学との連携を活かして研究テーマを見いだし,深めている。例えば,研究テーマと研究方法について大学教員の助言を求め洗練できるような活動を行っている。また,研究テーマをどのように生徒たちが独自に設定させるか,その工夫は各校で異なっているが,校内のSSHクラブといったクラブ活動を起爆剤としてテーマを作り上げる手法もある。
しかし,課題研究の成果をどのように評価するか,ルーブリックのような共通した評価基準を構築する必要があるが,発表態度,発表方法といった内容とはかけ離れた外面的な観点が使われやすいという問題が見て取れる。例えば,成果発表はポスター発表の形式が採用されること多いが,仮説の設定,追求の方法,考察といった課題探求の本質的な要素も評価規準として使われるが,声の大きさ,明確な説明,提示の姿勢といった外面的な要素も同程度に重要視されていることがある。内容面より発表形態が重視されがちである理由として,内容を重視した評価をできる教員の人数が限られているという人的な問題が考えられる。その結果,発表態度といった内容以外の観点を重視した評価になってしまい,妥当性,健全性が落ちることになってしまうと考えられる。この問題を解決するために,高大連携といった大学教員の力を活かした評価方法もとられることもある。しかし,移行期間以後に同様な対応を国内全ての一般校に適応できるとは考えにくいだろう。
一般校における探究活動
著者が学校評議員を務めている公立高校と研究協力をしている2つの私立高校あわせて3校の課題探求活動を観察した結果を考察したい。
それぞれの高校は学校風土が大きく異なるが,共通している事柄として,課題解決のサイクルを身につけるために必ず協働で取り組ませていることがある。特に複数の生徒たちで取り組むことによって多面的な考えが生じやすくなるが,そのように教員たちが指導助言している。また,1年生から2年生へと学びが引き継がれるような工夫を各校でしていた。例えば,「PBLワークノート」といった活動記録をポートフォリオのような形で運用する学校もあった。そして,地域に根ざしたテーマ設定が多く見られるのも共通していて,進路選択に繋がるように意図されていたのも共通している。しかし,SSH指定校にも見られたが,発表方法といった形式的な観点で評価する傾向が一般校でも見られた。
付 記
この研究は科学研究費基盤(C)17K04339の支援を受けている。