[PB22] 小学生の概念的理解と手続き的知識の関係
順列と組み合わせを題材として
キーワード:概念的理解、手続き的知識、順列と組み合わせ
問題と目的
算数における問題解決過程は,どのような問題かを理解する「概念的理解」(conceptual understanding)と,どのように解くか,すなわち「手続き的知識」(procedural knowledge)に分類され(Rittle-Johnson, 2001; Star, 2007),手続き的知識を用いて概念的理解を深めることが重要と考えられてきた。確率推論の基本となる順列と組み合わせの研究においては,算数で教わる知識が子どもの数え方にどのように影響を及ぼしているか,実証的に研究した例は少ない。3歳から15歳までの子どもを対象に,1対1の臨床法によって観察したPiaget & Inhelder (1951/1975)は,順列課題nPr(n個からr個を取って順序よく並べる課題)において,r≦2の場合は数え上げる方法で正答するが,r>3の場合は間違う子どもが増えるとした。中垣(1979)はPiagetらの追試を行い,r≦2の場合は小学生でも正答率が9割だったが,r>3の場合は中学2年生でも正答できたのは半数にとどまることを示した。しかしこれらの研究は,算数の授業で習う知識を考慮していない。本研究では,小学校の数学の算数授業で習う樹形図と表など手続き的知識の用い方が,課題の種類(順列か組み合わせか)や課題の難易度によってどのように異なるかを検討する。なお,ここでは概念的理解は順列と組み合わせの区別ができるかどうか,手続き的知識は課題を解く際に用いる立式・解法を指すものとする。
手続き
対象者および実施時期 首都圏の公立小学校6年生2クラスの児童(A組:男子21名,女子13名,B組:男子19名,女子11名)。2クラスとも同一の教師が算数の授業を担当した。
単元 研究対象としたのは単元「場合の数」の授業(全6回)である。
手続き A,Bクラスのいずれも,算数を担当している教師1名が一斉形式で課題を実施した。解答時間は15分であった。
材料 課題(3題)第1回調査と第2回調査のいずれも課題は以下の3題同一であった。課題は全部で3問から成り,1枚のA3の用紙に印刷して児童生徒に配布した。課題【1】は順列課題,課題【2】と【3】は組み合わせ課題である。
結果と考察
立式・解法による解答のカテゴリー化 立式の有無および解法により,立式なし4群(立式なし・無回答,立式なし・書き出し,立式なし・樹形図,立式なし・表),立式あり4群(立式あり・書き出し,立式あり・樹形図,立式あり・表,立式のみ)の計8群に分類した。
正答・誤答による解答のカテゴリー化 最終的な解答が正答だったか,それとも誤答だったかによって,正答群・誤答群の2群に分類した。なお,計算ミスで最終的な解答は正答ではなかったとしても,途中の考え方が合っている場合は減点し,正答群に含めた。
各課題における立式・解法と正答・誤答の関連 単元学習直後の3つの課題における立式・解法と正答・誤答の関連を,Fisherの直接確率検定(両側検定)により分析した。
順列課題5P3の結果 正答・誤答の2群の人数の比率を比較した結果,有意差は見られなかった。
組み合わせ課題5C2の結果 正答・誤答の2群の人数の比率を比較した結果,有意な差が見られた(p = .004)。残差分析の結果,学習直後に正答した子どもは,誤答した子どもよりも表のみを用いた割合が有意に多く,学習直後に誤答した子どもは正答した子どもよりも,立式のみを用いた割合が有意に多かった。「立式なし・表」(正答13名,誤答0名)を用いた子どもの立式・解法の内訳は,表(6名),トーナメント表(4名),星取表(3名)であり,記号に置き換えたり最初を止めたりして,組み合わせの表を用いていた。また,立式のみを用いた子ども(3名)は皆,誤答したが,「立式・書き出し」(3名)と,「立式・表」(3名)を用いた子どもは,正答した。
組み合わせ課題5C4の結果 正答・誤答の2群の人数の比率を比較した結果,有意な差が見られた(p = .002)。残差分析の結果,学習直後に誤答した子どもは,正答した子どもよりも立式・樹形図,あるいは立式・表を用いた割合が有意に多かった。「樹形図・立式」では樹形図を誤り,さらに立式を順列と誤った子どもが1名だった。「立式・表」では5通りの組み合わせを,表を用いて表現した後で,立式(5×2=10)を誤った子どもが2名,立式を順列(5×4=20)と誤った子どもが2名であった
付 記
本研究は,科学研究費補助金(18K02590の助成を受けた)。
算数における問題解決過程は,どのような問題かを理解する「概念的理解」(conceptual understanding)と,どのように解くか,すなわち「手続き的知識」(procedural knowledge)に分類され(Rittle-Johnson, 2001; Star, 2007),手続き的知識を用いて概念的理解を深めることが重要と考えられてきた。確率推論の基本となる順列と組み合わせの研究においては,算数で教わる知識が子どもの数え方にどのように影響を及ぼしているか,実証的に研究した例は少ない。3歳から15歳までの子どもを対象に,1対1の臨床法によって観察したPiaget & Inhelder (1951/1975)は,順列課題nPr(n個からr個を取って順序よく並べる課題)において,r≦2の場合は数え上げる方法で正答するが,r>3の場合は間違う子どもが増えるとした。中垣(1979)はPiagetらの追試を行い,r≦2の場合は小学生でも正答率が9割だったが,r>3の場合は中学2年生でも正答できたのは半数にとどまることを示した。しかしこれらの研究は,算数の授業で習う知識を考慮していない。本研究では,小学校の数学の算数授業で習う樹形図と表など手続き的知識の用い方が,課題の種類(順列か組み合わせか)や課題の難易度によってどのように異なるかを検討する。なお,ここでは概念的理解は順列と組み合わせの区別ができるかどうか,手続き的知識は課題を解く際に用いる立式・解法を指すものとする。
手続き
対象者および実施時期 首都圏の公立小学校6年生2クラスの児童(A組:男子21名,女子13名,B組:男子19名,女子11名)。2クラスとも同一の教師が算数の授業を担当した。
単元 研究対象としたのは単元「場合の数」の授業(全6回)である。
手続き A,Bクラスのいずれも,算数を担当している教師1名が一斉形式で課題を実施した。解答時間は15分であった。
材料 課題(3題)第1回調査と第2回調査のいずれも課題は以下の3題同一であった。課題は全部で3問から成り,1枚のA3の用紙に印刷して児童生徒に配布した。課題【1】は順列課題,課題【2】と【3】は組み合わせ課題である。
結果と考察
立式・解法による解答のカテゴリー化 立式の有無および解法により,立式なし4群(立式なし・無回答,立式なし・書き出し,立式なし・樹形図,立式なし・表),立式あり4群(立式あり・書き出し,立式あり・樹形図,立式あり・表,立式のみ)の計8群に分類した。
正答・誤答による解答のカテゴリー化 最終的な解答が正答だったか,それとも誤答だったかによって,正答群・誤答群の2群に分類した。なお,計算ミスで最終的な解答は正答ではなかったとしても,途中の考え方が合っている場合は減点し,正答群に含めた。
各課題における立式・解法と正答・誤答の関連 単元学習直後の3つの課題における立式・解法と正答・誤答の関連を,Fisherの直接確率検定(両側検定)により分析した。
順列課題5P3の結果 正答・誤答の2群の人数の比率を比較した結果,有意差は見られなかった。
組み合わせ課題5C2の結果 正答・誤答の2群の人数の比率を比較した結果,有意な差が見られた(p = .004)。残差分析の結果,学習直後に正答した子どもは,誤答した子どもよりも表のみを用いた割合が有意に多く,学習直後に誤答した子どもは正答した子どもよりも,立式のみを用いた割合が有意に多かった。「立式なし・表」(正答13名,誤答0名)を用いた子どもの立式・解法の内訳は,表(6名),トーナメント表(4名),星取表(3名)であり,記号に置き換えたり最初を止めたりして,組み合わせの表を用いていた。また,立式のみを用いた子ども(3名)は皆,誤答したが,「立式・書き出し」(3名)と,「立式・表」(3名)を用いた子どもは,正答した。
組み合わせ課題5C4の結果 正答・誤答の2群の人数の比率を比較した結果,有意な差が見られた(p = .002)。残差分析の結果,学習直後に誤答した子どもは,正答した子どもよりも立式・樹形図,あるいは立式・表を用いた割合が有意に多かった。「樹形図・立式」では樹形図を誤り,さらに立式を順列と誤った子どもが1名だった。「立式・表」では5通りの組み合わせを,表を用いて表現した後で,立式(5×2=10)を誤った子どもが2名,立式を順列(5×4=20)と誤った子どもが2名であった
付 記
本研究は,科学研究費補助金(18K02590の助成を受けた)。