日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB49] 中学校数学科におけるUDLの授業実践

谷口祥広 (北海道公立中学校)

キーワード:UDL、エピソード記録、中学校数学科

はじめに
 2018年の北海道教育委員会の調査では「学校として今後必要とする資料」という項目の中で,「授業場面における指導や支援に関わる資料」が最も数値が高く,多くの学校で授業の中で生徒への指導や支援について困難を抱えていることが推測される。
 本校では,筆者が勤務する以前の数年前から生徒指導が困難な状況であり,昨年度は,授業に入れずに廊下を徘徊したり,別室で対応したりしていた生徒が全校生徒に対して約6%おり,今年度も複数名が授業の中で学ぶことを困難としている生徒がいる。
目  的
 全ての生徒が教室で学ぶことができ,数学に対して前向きに取り組める生徒を増やす。また,生徒自身が自分に合った学習方法を獲得することを目指す。
方  法
 CASTが提唱するUDLガイドラインVersion2.0(バーンズ亀山静子・金子晴恵訳)の9つの領域を取り入れた数学科の授業を実施する。その授業を通して,生徒の変容をエピソード記録として蓄積し,UDLを導入することによっての効果を検証する。
研究対象
 中学校2・3年生を対象に行う。本校では,習熟度別に授業を行っており,1つの学級を基礎コースと応用コースの2コースに分けている。その中でも数学を苦手としている生徒が多い基礎コースの生徒を対象に実施する。
結果と今後の展望
 UDL導入期には,ガイドライン7.1(個々人の選択や自主性を最適にする),ガイドライン8.2(チャレンジのレベルが最適となるよう課題のレベルやリソースを変える)に基づいて,課題を難易度ごとに複数用意することから取り組みはじめた。当初は戸惑っていたり,簡単な課題を選んだりする傾向にあったが,実践を継続することで課題に対してオーナーシップを持って取り組む生徒が増えた。特に数学に対して苦手意識や抵抗を示していた生徒が,学習に対して前向きに取り組み始めたエピソードが観察された。
 さらに,学びを充実させるための環境作りも実践している。基礎コースは特別教室を使用しているため,ガイドライン4.2(教具や支援テクノロジーへのアクセスを最適にする),ガイドライン7.3(不安要素や気を散らすものを最小限にする)に基づいて,生徒にとって学ぶ場所や方法を選択できるような環境を整えている。さらに,学びのGOALとWHYを意識付けするため,ガイドライン6.1(適切な目標を設定できるようにガイドする)やガイドライン7.2(自分との関連性・価値・真実味を最適にする)に基づいて,生徒が単元の目的や目標を意識するために,単元が始まる前にシラバスと単元後に行うテストを配布し,見通しが持てるように働きかける実践も進め,生徒の学習への取り組み方の変化が観察された。
 今後の課題として,継続的にUDLを実践することによって,生徒の学びの質がどう変化するかについて検証することが挙げられる。また,UDL実践者の成長ルーブリックに基づいて,教員の実践についての検証を実施することも今後の課題である。