日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB50] 特別支援学校教員が認識する外部の支援者による「巡回相談」の効果

村上凡子 (和歌山信愛大学)

キーワード:特別支援学校、自主研修(巡回相談)

研究の目的
 筆者は,知的障害のある児童・生徒(以下,児童)が在籍する公立の特別支援学校(以下,支援学校)の自主研修に助言者として継続して参加する機会を得た。自主研修は,特別支援教育の「巡回相談」と同義であり,支援学校が定期的に外部の支援者の訪問を受ける。このような機会は通常ほぼない。そこで,支援学校の教員が外部の学校支援者を交えた自主研修を定期的に継続して行い,その効果をどのように認識しているのかについて,明らかにすることを本報告の目的とする。聞き取り調査を通して得られた結果を示し,検討を加える。なお,本報告は,筆者が当時在籍していた機関の研究倫理委員会の承認を得ている。
方  法
自主研修(巡回相談)について
 自主研修は学校長の承認を受け,年度当初に研修部担当教員から,目的や日程などオリエンテーションと,参加の呼びかけが行われた。それに応じた教員が参加した。その期間と頻度は,201X年度6回,201(X+1)年度5回である。参加者は毎回希望制である。時間は,1回につき80分~120分程度である。学期中は児童が下校後の放課後の時間帯に行われた。毎回,コンサルタントとコンサルティという関係のもと協議が展開された。実質上,事例検討会であり,実践の振り返りとその後の支援方針,支援方法が確認された。
聞き取り調査について
 自主研修に参加した教員のうち,調査に協力する意思を示した教員3名を対象として聞き取りを実施した。教員のプロフィールと協議の際の対象となった児童生徒の状況は,Table1のとおりである。A,B両教員は,2年間,C教員は,201(X+1)年度の1年間,継続して参加した。調査は,201(X+2)年度の6月~8月にかけて,勤務時間内に個別に50分程度半構造化面接により行われた。
 本調査の主な質問項目は,①状態の評価と支援計画の立案及びその見直し,②助言や提案をもとにした支援方法の考案と参加者同士の相互的な学び合い,③心理的負担感の緩和等に関する効果である。面接時に教員の了承を得て録音した。
結果とまとめ
 聞き取り調査の結果,どの相談事例も望ましい方向に変化がみられたことにより,多様な面で効果が実感されていることが示された。具体的には,①事例の評価,支援計画の見直しに役立ったこと,②相互的な学び合いの場となり,支援方法について新たな着想や考え方を得られたこと,③全体の会議の場で出しにくい話題も取り上げられ,心理的負担感の緩和に効果があったという点である。
 ①については, CBCL(子どもの行動チェックリスト)教師版を用いた点により強く効果への認識が示された。状態の評価に関して,対象児の困難度が客観的な数値で示されるとともに,強みや良さが明確になり,それを活かした支援計画の立案に効果があると認識されていた。②については,他の事例に係る協議の内容が役に立ったことが示された。ある事例で,不適切な行動の改善を図るために,相互的な活動の導入という提案がなされた。実践化したところ効果があり,児童の行動が劇的に改善された。他の事例においても強化された信頼関係を基盤に実践を展開することにより,効果が生じた。③については,「偏食」について遠慮せずに質問することができ,他の教員から助言を得られ,その後の支援の見通しが立ち,教員自身に心理的安定感が生まれた。不適切な行動が頻発していた生徒を担当していた教員も,自主研修の場で否定されず,共感的理解が示されたことで心理的負担感が減少したと報告している。
 総じて,支援学校の教員が外部の支援者が参加した自主研修(巡回相談)の効果を上述のように多様な面で認識していることが示された。通常,支援学校の教員は,巡回相談員として他校の教員に支援を行う立場にある。これまで医師から指導助言を受ける機会はあるが,本報告ほど頻度は高くないとのことだ。教員によれば,自主研修は日頃の思いや悩みを発言しやすい雰囲気があり,異なる世代の教員同士が対等な関係で協議を行う場が保障されていた。この点も教員が効果として認識していたことも特記すべきであろう。